小森雅仁が愛用するプロの自宅用モニター「NEUMANN KH 80 DSP+KH 750 DSP」

小森雅仁が愛用するプロの自宅用モニター「NEUMANN KH 80 DSP+KH 750 DSP」

 エンジニア小森雅仁氏が自宅で愛用しているNEUMANN KH 80 DSPとKH 750 DSP。前者は4インチ径ウーファーを備えるバスレフ型の2ウェイ・パワード・モニターで、後者は10インチの密閉型パワード・サブウーファーだ。いずれもDSPを搭載し、使用する空間に合わせた音場補正を行えるのが特徴。今回は、小森氏が拠点とするレコーディング・スタジオABS RECORDINGに自宅のモニター・システムを再現していただき、その魅力について語ってもらった。

Photo:Chika Suzuki

小森雅仁:フリーランスのレコーディング/ミキシング・エンジニア。米津玄師、Official 髭男dism、藤井風、Yaffle、小袋成彬、iri、TENDRE、AAAMYYY、KIRINJI、PEARL CENTERなど多数のアーティスト作品に携わってきた

 

導入の決め手はDSP補正と密閉型ならではの低音

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小森雅仁氏が自宅で愛用中のNEUMANN KH 80 DSP(75,000円/1台)。4インチ径ウーファーと1インチのツィーターを備える2ウェイ・パワード・モニターで、バイアンプ駆動を採用。内蔵アンプの最大出力は120W(ウーファー用)+70W(ツィーター用)となっており、周波数特性は53Hz〜21kHz(±6dB)。DSPを搭載し、使用環境に合わせた音場補正が可能で、測定用マイクMA 1+専用ソフトウェアAutomatic Monitor Alignment(Mac/Windows)もしくはAPPLE iPadアプリのNeumann.Controlでキャリブレーションを行う。外形寸法は154(W)×233(H)×194(D)mm

 フリーランスのエンジニアになった当初は、録り音のエディットやミックスの下準備、ステムの書き出しといった作業を自宅で行っていた小森氏。しかし近年、アーティストやクライアントとオンラインでやり取りする機会が増えるなどし、よりスピーディな対応が求められることから、ホーム・スタジオでも音作りをこなすようになったという。

 「現在、ミックスの場はレコーディング・スタジオと自宅が半々くらいです。家では以前、小口径のパワード・モニターを使っていたのですが、エディットなどを想定して買ったものだったので、きちんとミックスできるモデルが欲しくなりました。で、“そう言えばNEUMANNからモニター・スピーカーが発売されていたな”と思い出したんです」

 

 購入の決め手は“DSPによる音場補正”と“KH 750 DSPが持つ密閉型ならではの低音”だったそう。

 「自宅では、かねてから吸音材や拡散材でルーム・アコースティックを調整してきましたが、やはりスタジオほどは追い込み切れていなくて。音場補正用のプラグインを試したこともあるんですけど、DAWのマスターに挿さなければならず、挿したら出力レベルが変化するので、外部のVUメーターやラウドネス・メーターなどに送る音量も変わってしまうわけです。またヘッドフォンでチェックする際にはバイパスする必要があり、DAWと切り離したところで音場補正できたらなと思っていました。だからこそ、スピーカー側での補正というものに興味が湧いたんですね」

 

 密閉型ならではのサウンドについては、こう語る。

 「スタジオでATCのSCM25A ProとC1 Subを使っていて、後者が密閉型なんです。導入に際して幾つかのサブウーファーを聴き比べたところ、音がピタッと止まる感じが良くて“やっぱりサブウーファーは密閉型だな”と。だから自宅で使うものとして、KH 750 DSPを買うことにしました。“DSP補正ができて密閉型”という条件から、もうNEUMANNしか無いのではないか?と早くから思っていたんですけどね」

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KH 80 DSPの背面には、スタンバイ・モードやAutomatic Monitor AlignmentおよびNeumann.Controlでのリモートコントロールを可能にするスイッチのほか、リモートコントロールを用いらない際に中低域を制御する4種類のEQ、出力レベルや入力ゲインのコントロールが用意されている

ラージ・モニターを小音量で鳴らしている感覚

 KH 750 DSPは、KH 80 DSPやKH 120、KH 310といったNEUMANNのパワード・モニターに合わせて設計されているが、他社のフルレンジ・スピーカーと併用することもできる。小森氏はKH 80 DSPのペアをスピーカー・スタンドに設置し、その間の床にKH 750 DSPを1台セット。音場補正のための測定は最初に行い、セットアップを済ませれば、その後も補正済みの音でモニターできる。

 「キャリブレーションの方法は、リスニング・ポイントに測定用マイクのMA 1を立ててオーディオI/Oにつなぎ、その入力をソフトウェアのAutomatic Monitor Alignmentへ送るというものです。以降はソフトからの案内に沿って進めればよく、例えばオーディオI/Oからの入力が小さ過ぎる場合はアラートが出ますし、MA 1の設置ポジションなども指示してくれます。決して難しくなく、15~20分で終わりました。ちなみにソフトとスピーカーはイーサーネットで通信し、各スピーカーに接続したLANケーブルをハブでまとめて1本のLANケーブルでコンピューターにつなぎます。KH 120などのDSP非搭載モデルとKH 750 DSPを組み合わせて使う場合は、KH 750 DSPのみをコンピューターにつないで測定する形ですね」

 

 KH 80 DSPとKH 750 DSPから成る小森氏のシステムは、どのようなサウンドを聴かせてくれるのだろう?

 「ワイド・レンジかつフラットで、ニアフィールド・モニターとは思えないような音です。“ラージ・モニターを小音量で鳴らしている感覚”といったイメージでしょうか。ラージ・モニターのようなレンジの広さとニアフィード・モニターならではのフェーダー・ワークのやりやすさが両立しており、家のコンパクトな空間で使うのにピッタリだと思います。ちなみにKH 80 DSPは単体でも非常に完成度が高く、音に誇張や無理が感じられないのですが、その分4インチ・スピーカーらしい音なので、ローエンドにアプローチするためにはKH 750 DSPが必要だと思います。KH 750 DSPがあることで、ベースの最低域やキックの長さが判断しやすくなったりもしますからね」

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KH 80 DSPの足元に設置されているのは、NEUMANNのパワード・サブウーファーKH 750 DSP(236,500円)。KH 80 DSPやKH 120、KH 310に合わせて設計されており、10インチ径のウーファーを備える。内蔵アンプの最大出力は410W。周波数特性は16〜800Hz(±6dB)となっており、KH 80 DSPと同様にDSPでの音場補正が可能だ。外形寸法は330(W)×383(H)×383(D)mm

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KH 750 DSPの背面。位相を調整するためのスイッチやローカット、ベース・マネージメント・スイッチ、Automatic Monitor AlignmentおよびNeumann.Controlでのリモートコントロールを行うためのスイッチなどが備わっている

音場補正により音楽的な面に集中しやすくなった

 小森氏は「昨今はミックスでもマスタリングでも精度の高い処理というか、ディテールを詰めなければならない局面が多いので、聴いたままの音を信じて作業できるのは本当に快適なんです」と話す。DSPによる音場補正も、大きな恩恵をもたらしているようだ。

 「補正された音は、一聴しただけで違いが分かると思います。“こんなに良くなるんだ!”と驚きましたし、ミックスもやりやすくなりました。かつてはルーム・アコースティックに起因するピークやディップなどを勘定に入れながらやっている部分もあったのですが、補正のおかげでその必要が無くなったんです。周波数の凸凹がどうとかっていうのを忘れられるというか、音楽の内容そのものに集中しやすくなりましたね。音楽的な面での格好良さとプロダクションとしてのクオリティがあったとして、前者を追い込みたいのにクオリティの面に不安が残り続けると、それが足かせになったりすることもあるんです。でも“そこは大丈夫”という前提や環境があれば、安心して質感作りなどに没頭できます」

 

 具体的には、特に150~200Hz辺りの中低域がとらえやすくなったという。

 「一般的な自宅環境でピークが発生しやすい帯域ですね。ボーカルやベース、キック、スネアといった重要なパートを処理するにあたって、その辺が正しくモニターできているかどうかは非常に重要なんです。中低域にピークがあると、キックが腰高に感じられたりボーカルがモワついて聴こえたりするものですが、ルーム・チューニングだけでその辺りの帯域の問題を完全に解決するのはなかなか難しいでしょう。もちろん、ある程度ルーム・チューニングしてから補正する方が良いと思いますし、僕もそうしていますが、裏を返せば“補正無し”でこのクオリティのモニター・サウンドを得るのはすごく難しいはずです。プロが施工した部屋ならまだしも、一般的な住宅にDIYでルーム・チューニングを施した環境であれば、補正を活用することで普通はたどり着けない精度のモニターが手に入ると思います。そういう意味でコスト・パフォーマンスに優れていると感じますね。価格だけを見ると決して安くはありませんが、長く使うものですし、その価値があると思います」

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測定用マイクのMA 1(35,860円)。2022年1月13日からMA 1とKHシリーズのセット製品が数量限定で発売される予定で、KH 750 DSPとのセットMonitor Alignment Kit 1(250,800円)、KH 80 DSP(ペア)とのセットMonitor Alignment Kit 2(165,000円)、KH 80 DSP(ペア)およびKH 750 DSPとのセットMonitor Alignment Kit 3(380,600円)をラインナップ

 当初は補正に抵抗があったと振り返る小森氏だが、ヘッドフォンやスタジオのATCとの行き来もスムーズになり、今ではすっかり信頼を置いている模様。「DAWでインサートするタイプのものと違って、ヘッドフォンやラジカセ・チェックの際に補正を外す手間もかかりませんし、モニターの精度が上がったおかげで新譜を聴いたりするときに学ぶものが多くなりました」

 プロの自宅用モニターとしてのKH 80 DSP+KH 750 DSP。エンジニアをはじめ、プロデューサーやトラック・メイカーなど、ホーム・スタジオでプリマスター~マスター制作まで行う方にぜひ体験してほしいものだ。

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製品情報

ja-jp.neumann.com

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