LEWITT LCT 1040 レビュー:真空管とFET回路を組み合わせて音作りができるコンデンサー・マイク

LEWITT LCT 1040 レビュー:真空管とFET回路を組み合わせて音作りができるコンデンサー・マイク

 LEWITTはオーストリアを拠点に、高品質な製品を優れたコスト・パフォーマンスで提供し続けてきたマイク・メーカー。筆者の周りでもファンは多く、筆者自身も自宅で録音するためのマイクとしてアーティストへ勧めることが多いメーカーです。LCT 1040はそんな同社の製品の中でもフラッグシップ・モデルと位置付けられたコンデンサー・マイクになっています。

2系統のアウトプットを搭載。ブレンド信号とFET回路のみを別々に出力可能

 重厚なミルスペックの強化プラスチック製のケースには、マイク本体、リモート・コントローラーを備えたパワー・サプライ・ユニット、ショック・マウント、マイク・ホルダー、ポップ・スクリーン、マイク・ケーブルのほか、説明書やリコール・シート、LCT 1040の開発過程を記したブックレットなどが収納されています。また、説明書やケーブルを収めるソフト・ケースやショック・マウントの交換用ゴムが別に付属するなど、パッケージが細部まで作り込まれていて、本製品に対する同社の意気込みが伝わってきました。

 

 マイク本体とパワー・サプライ・ユニットは付属の11ピン・マイク・ケーブルで接続します。パワー・サプライ・ユニットには2系統のアウトプット端子が用意されており、真空管とFET回路のブレンド出力とFET回路のみの出力を同時に出すことが可能です。また、リモート・コントローラーはパワー・サプライ・ユニットから取り外せるようになっています。今回はXLRケーブルでパワー・サプライ・ユニットとリモート・コントローラーを接続し、パワー・サプライをスタジオ側、リモート・コントローラーをコントロール・ルーム側に設置しました。

LEWITT LCT 1040 リモート・コントローラー(上部)+パワー・サプライ・ユニット(下部)

リモート・コントローラー(上部)+パワー・サプライ・ユニット(下部)。リモート・コントローラーでは真空管キャラクターの選択、ローカット、PAD、真空管とFET回路のブレンド、指向性調整、マイクの正面位置切り替えが行える。リモート・コントローラーとパワー・サプライ・ユニットはXLRケーブルで接続して、別々の場所に置くことが可能だ

LEWITT LCT 1040 上部のリモート・コントローラーには、パワー・サプライ・ユニットとの接続用XLR端子がスタンバイ

上部のリモート・コントローラーには、パワー・サプライ・ユニットとの接続用XLR端子がスタンバイ。下部のパワー・サプライ・ユニットには真空管とFETのブレンド・サウンドが出力されるMix、FET回路のみが出力されるFETという2系統のアウトプットを用意している。そのほか、マイク本体と接続する11ピン端子、リモート・コントローラー接続用XLR端子がある

 リモート・コントローラー上には真空管のサウンド・キャラクターを選択するTubeノブ、真空管とFETの割合を調整するCircuitノブ、ローカットの周波数を変更するFilterノブ、PAD調整のAttenuationノブ、指向性を変更するPatternノブが並びます。面白いと感じたのがマイクの指向性を反転させるDefault/Reverseスイッチ。通常、LCT 1040は内部の真空管が見える側が正面です。しかし、このスイッチをReverse側に設定すると逆側にあるLEWITTロゴを正面として使用することができます。ライブ配信やMV撮影など、マイクの見え方に気を遣う場面で便利でしょう。

ビンテージの模倣ではなく時代にマッチした音。Tubeノブで大胆にキャラクターが変化する

 今回はドラムと男/女ボーカル、アコースティック・ギターなどにLCT 1040を使用して音質をチェックしました。前述のように、LCT 1040ではTubeノブで4種類のキャラクター+FETサウンドを楽しめます。まずは基本であるClearとFETをチェックしたところ、非常に透明感の高い抜けの良いサウンドが印象的でした。トランジェントもつぶれることなく、抜けが良いのに耳に痛くないので、現代の音楽にマッチする音だと感じます。この場合の真空管(Clear)とFETの音色差はわずかで、真空管(Clear)の方が少し倍音が多め。このサウンドを聴くと同社がビンテージ・サウンドの模倣ではなく、今の時代にマッチした高品質な音を目指していることが伺えます。

 

 Tubeノブを変更していくと大胆にキャラクターが変わるのが非常に面白いです。Warmは良質なNEUMANN U47 Tubeを思わせる中域が充実したサウンド、Darkは高域が抑えられた若干ナローなサウンド、Saturatedは良質なマイクプリをプッシュしたかのような倍音豊かなサウンドです。いずれもまるでプラグインでシミュレートしたかのようにかなり大胆にキャラクターが変化するので“やり過ぎ注意”と言いたいところですが、LCT 1040には真空管とFETの割合を調整するCircuitノブや、MixとFETという2系統のアウトプットが用意されています。まず求めるキャラクターを選択してCircuitノブで微調整すると、やり過ぎることなく狙ったサウンド・キャラクターを簡単に得ることができます。

 

 また、MixとFETの出力を同時に録音しておけば、ミキシング段階で再調整することも容易です。実際にステレオ・トラックにMix出力とFET出力を録音しておき、DAW内でモノラルにダウン・ミックスしてもおかしな位相干渉は起こりませんでした。このように、LCT 1040はモダンで音楽的なサウンドを得られるマイクであり、1本でさまざまなサウンド・キャラクターを得ることができます。太めの男性ボーカルにClear系、ハイトーンな女性ボーカルにWarm系、ブラス・セクションやドラムのルーム・マイクにDark系、ギター・ アンプやドラムのオーバー・ヘッドやパーカッションにSaturated系、など試してみたいシチュエーションが次々に浮かびました。

 

 LCT 1040はさまざまな楽器の収録を扱うスタジオやエンジニアにはもちろんですが、自宅スタジオでの録音段階で積極的に音作りがしたいアーティストやアレンジャーにも選択肢の一つとして勧めることができるマイクと言えるでしょう。

 

中村フミト
【Profile】Endhits Studioを拠点に録音からミックス、マスタリングまでを手掛けるエンジニア。直近では、阿部真央、GOOD BYE APRIL、ヤングスキニー、にしな、群咲らの作品に携わっている。

 

LEWITT LCT 1040

418,000円

LEWITT LCT 1040

SPECIFICATIONS
▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪指向性:オムニ、ワイド・カーディオイド、カーディオイド、スーパー・カーディオイド、フィギュア8(無段階でのブレンドが可能) ▪感度:17.2mV/Pa、-35.3dBV/Pa(カーディオイド) ▪セルフ・ノイズ:10dBA/FET、13dBA/Tube(カーディオイド) ▪最大音圧レベル:137dB SPL(FET) ▪ダイナミック・レンジ:126.7dBA(FET) ▪ローカット:40Hz、80Hz(-12dB/oct)、120Hz(-6dB/oct) ▪PAD:OFF/-6/-12/-24dB ▪外形寸法:65(W)×196(H)×45(D)mm(マイク本体) ▪重量:652g(マイク本体)

製品情報