IK Multimedia Pianoverse レビュー:鍵盤のタッチカーブをもとに独自のロボットでサンプリングしたピアノ音源

IK Multimedia Pianoverse レビュー:鍵盤のタッチカーブをもとに独自のロボットでサンプリングしたピアノ音源

 Pianoverseは、新開発されたエンジンとカスタムメイドのロボットを使った精緻なサンプリングにより作られたピアノ音源です。くっきりとした輪郭と透明感を持ち、タッチに追従するばらつきのないベロシティレイヤー、そしてクリエイティブなエフェクトを備えています。詳しく見ていきましょう。

“モデリング”と“サンプリング”両者の良いところを両立

 ピアノという楽器をソフトウェアで再現するための手法として“モデリング”と“サンプリング”がありますが、どちらにも得手不得手があります。モデリングは、本物の楽器が持つ空気感を再現しづらいものの、タッチに対して正確なレスポンスを返し、滑らかな音色の変化を得ることができます。一方でサンプリングは、本物の楽器をマイクで収録するので一音一音は本物の音ですが、演奏者や鍵盤ごとの特性のばらつきもそのままサンプリングされてしまい、手作業での補正が必要になることもしばしばです。

 Pianoverseは、丁寧に調律されたピアノ個体、独自開発されたロボットを使用してサンプリングされました。これまでもロボットによるサンプリングピアノ音源はありましたが、Pianoverseでは鍵盤ごとのタッチカーブを計測し、そのデータをもとにしてロボットに打鍵させるという方法を採っています。そうすることで、モデリング音源に迫る正確なベロシティレイヤーを得ることを可能にしたのです。結果としてPianoverseは、“モデリング”の正確なレスポンスと、“サンプリング”の空気感を両立するピアノ音源になりました。実際に演奏してみても、タッチの強さに応じて音が素直に反応してくれるので、弾いていてとても気持ちが良いです。

砂漠/火星/海底も表現できるコンボリューションリバーブを搭載

 Pianoverseを起動すると、最初にプリセットの選択画面が表示されます。一つ一つのプリセットが読み込むデータ量が多いため、最初は何もロードしていない状態で起動するというわけです。ロードには毎回5秒前後かかりますので(筆者はSATA接続のSSDを使用)、お気に入りのものには星マークを付けて絞り込んでおくとよいでしょう。

 画面上部左のPIANOタブを選ぶと、ロードされたピアノの調整と簡単なエフェクトの設定が可能になっています(メイン画面)。TUNEノブは基準となるピッチをHzで指定でき、SPACEノブでは後述するSPACEタブで作るリバーブの量を調整します。TONEノブは、右に回すと高域が増加し低域が減少、左に回すと高域が減少し低域が増加するティルトシフトEQで、COMPノブはワンノブスタイルのコンプレッサー。そのほか、SEND FX、ステレオ感を調整するWIDTH、打鍵に対する反応を調整するVELOCITY CURVEが用意されています。ピアノのふるまい自体をもっと作り込みたい方は、画面左下からMODELタブにアクセスして、ハンマーのノイズや共鳴具合の調整をすることも可能です。

 次はSPACEタブ。

SPACEタブで“OLD FOREST”を選んだ画面。音の変化の特徴が抽象的に表現されたノブが並ぶ。“CICADAS”は、実際はサンプルレートを下げるような効果をもたらすエフェクトなのだが、確かにセミの鳴き声のようにも聴こえる

SPACEタブで“OLD FOREST”を選んだ画面。音の変化の特徴が抽象的に表現されたノブが並ぶ。“CICADAS”は、実際はサンプルレートを下げるような効果をもたらすエフェクトなのだが、確かにセミの鳴き声のようにも聴こえる

 昨今のピアノ音源はマルチマイクで収録されたぜいたくにRAMを使うものが多い中、Pianoverseは、クローズマイクと、このSPACEというコンボリューションリバーブを組み合わせて音像を作っていく仕組みです。リバーブは32種類用意されており、背景画像が空間に応じて変わるという凝ったUIを採用。砂漠をイメージしたDESERT、火星をイメージしたRED PLANET、海底をイメージしたSEA FLOORなど、リアルな空間再現にとどまらないクリエイティブな作り込みも可能です。これが非常に面白く、Pianoverseの大きな特徴にもなっています。

 続いてはMIXタブ。

MIXタブの画面。クローズマイクの種類選択、PIANO、SPACEに対して個別にEQ/コンプの調整ができる

MIXタブの画面。クローズマイクの種類選択、PIANO、SPACEに対して個別にEQ/コンプの調整ができる

 マイクの種類の選択や、PIANOとSPACEに対して個別にEQ/コンプの調整をすることができます。SPACEタブで空間を決めた後に微調整をするという流れ。SPACEを使ってほしいという意図を感じます。

 最後にEFFECTSタブ。

多彩なエフェクトを搭載し、エンベロープやLFOによる制御まで可能なEFFECTSタブの画面。2系統のインサートエフェクトと、1系統のセンドエフェクトを使用でき、シンセのような作り込みまでカバーする

多彩なエフェクトを搭載し、エンベロープやLFOによる制御まで可能なEFFECTSタブの画面。2系統のインサートエフェクトと、1系統のセンドエフェクトを使用でき、シンセのような作り込みまでカバーする

 MIXタブで設定したエフェクトをさらに調整できます。このタブもまた面白い! エンベロープジェネレーターとLFOが用意され、エフェクトのさまざまなパラメーターを複雑に制御できます。フィルターでアタックを削りパッド音色にするといった、シンセサイザーのような音作りまで可能です。

 実際のレコーディングをしてみると分かるのですが、ピアノという楽器は倍音や発生するノイズが複雑すぎて、マルチマイクのミックスは非常に難易度が高いです。クローズマイクにサンプルのリソースを全振りし、コンボリューションリバーブで空間を再現するというアプローチは、実使用において理にかなっているように思います。それでいて、奇麗な音を出すだけにとどまらないクリエイティブなエフェクトと、素早いエディットが可能なUI。素直な出音と打鍵に対する反応の良さをベースとし、音色の多様性までもバランスよく共存させているPianoverseは、ピアノ音源の新たなスタンダードになるかもしれません。

 

ナカシマヤスヒロ
【Profile】作曲家。映画音楽やゲームに影響を受け、独学で作曲を始める。近年はトヨタやアストンマーティンなど国内外の企業のCM音楽を手掛け、日本にいながら世界を舞台に活躍を続けている。

 

 

 

IK Multimedia Pianoverse

20,140円

IK Multimedia Pianoverse

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以降、Intel Core 2 Duo(Intel Core i5を推奨)、Apple M1プロセッサーにネイティブ対応
▪Windows:Windows 7以降、Intel Core 2 DuoまたはAMD Athlon64 X2 (Intel Core i5を推奨)、ASIO互換のサウンドカード
▪共通:64ビット、8GBのRAM(32GBを推奨)、30GBのハードディスク空き容量(各ピアノタイトルごとに必要)、OpenGL 2互換のグラフィックアダプター
▪対応フォーマット:AAX、AU、VST2、VST3、スタンドアローン

製品情報

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