モニタースピーカーのポテンシャルを最大限に引き出し、アウトボードを効率的に活用できるように構築されたアトリエ
札幌出身のボカロPであり、作詞/作編曲、イラスト/アニメーション制作まで幅広く手掛けるマルチクリエイターのはるまきごはん。「メルティランドナイトメア」「ドリームレス・ドリームス」「コバルトメモリーズ」など数多くのヒット曲を世に送り出している。そんな彼のクリエイティブの拠点とも言えるプライベートスタジオへ潜入成功。音作りのこだわりについて話を聞いた。また撮影には、メルティランドからメルティちゃんが駆けつけてきてくれた!
モニターの性能を十分に発揮するための工夫
クリエイティブのすべてが1つのスタジオから生み出されるが故に、はるまきごはんは悩みどころもあると話す。
「アニメやイラストを作る際はディスプレイを横並びに置かないと気が済まなくて、そうすると両スピーカー間の幅が広がりすぎてしまい、うまく音がモニタリングできないんですよ。その辺りがもどかしいところで……それでいろいろ試行錯誤した結果、デスクの後ろにスピーカースタンドを立て、上から見下ろすような角度でモニタースピーカーを配置することにしたんです」
はるまきごはんの言うとおり、ディスプレイの後ろからFOCAL SHAPE 50が見下ろすような角度で設置されている。ここでSHAPE 50が逆さまに設置されていることに気付いた。これについて、はるまきごはんはこう話す。
「SHAPE 50のツィーターを両耳に向けようと考えたらこうなりました。一応説明書も確認したんですが、そこにも“ツィーターの位置が合わないときは逆さまにしてください”って書いてあったんですよ。なので公式的には問題ない使い方です。ただ、あまり見ない配置ですよね(笑)。スピーカースタンドはGravity SP 3202 VTで、角度を付ける前提で作られています」
スピーカーをデスク両端に置いていたときと比べ、どう聴こえ方が変わったかについて、はるまきごはんは説明する。
「ツィーターが両耳に向いたことで、音が明瞭になりますし、奥行き感も全然変わります。やはりスピーカーの置き方をちゃんとしないと、本来の性能を十分に発揮できないんだなっていうのを、当たり前ですが実感しましたね。SHAPE 50を選んだのは、シンプルに“自分の周りで人気だから”というのが大きな理由です。実際にSHAPE 50は奥行き感もあるし、ダイナミクスのバラつきもよく見えます。あと高域がなめらかなので、長時間使っても耳が疲れません。自分は背面にあるEQノブで高域を上げているくらいです。コスパにも優れているのでお勧めですね」
はるまきごはんはさらにモニタースピーカーの実力を引き出すために、いろいろな工夫をしているという。
「SHAPE 50のポテンシャルを最大限引き出すために、後ろのコーナーにベーストラップを置いたり、壁とスピーカーの距離も50cmくらい離しました。壁に近いと奥行き感が減って音像がのっぺりしてくるんです。ちなみに天井と壁のコーナーに配置した三角形の吸音材は手作りですね。吸音材は値段が高いものが多いので、既にあまっていた吸音材を切って貼り付けてみました。もともとこの部屋は反射がすごかったので、それをなくすために壁にも吸音材をたくさん貼っています」
自身のサウンドを差別化するためのアウトボード
スタジオ内で次に目が行ったのは、デスク左手に鎮座するアウトボード類だ。はるまきごはんに尋ねてみたところ、このような答えが返ってきた。
「大きく分けると、ギターやボーカルを録るときに使うものと、編曲で使っているソフト音源の中の音を“行って来い”するときに使うものの2種類がラックに収められています。ポイントとしては、一番下にパッチベイを取り入れたこと。これによって各アウトボードの信号経路を効率的に管理できるため、いちいち背面に回り込まずに済むんですよ」
はるまきごはんいわく、「人気のソフト音源やプラグインを使っていると、結局みんなと同じ音になりやすく、差別化するのが難しいんです。その解決策が“一度アウトボードに通し、味付けしてDAWに戻す”というアプローチでした」という。ここで“行って来い”用のアウトボードについて話を聞いてみた。
「ピアノやシンセのステムをEQのmäag AUDIO EQ2などに通すことが多いですね。特にEQ2のAIR BANDは滑らかかつ、高域の心地良い部分をブーストしてくれるので好みです。コンプレッサーのelysia xpressor neoはVCAタイプで分かりやすく音をつぶしてくれるため、シンセやドラムを硬めのサウンドにしたいときなどに使います。逆にもう少し自然にしたいときは、Solid State Logic FUSIONのハイフィルターコンプ。INボタンを5秒間押し続けると、フルバンドコンプとして使うことができます」
一方でギターを録る際によく通すのは、CHANDLER LIMITEDのマイクプリTG 2-500とコンプレッサーのTG OPTOだという。はるまきごはんは最後にこう語る。
「死ぬまでに、アニメ/イラスト/音楽を作るためだけに特化した、最強の家を作りたいです。まだまだ知らないことも多いし、機材のことは駆け出しなので、とにかくいろいろなものを使って試す環境がほしいですね。ちなみにこのスタジオで一番高い機材は、今日撮影のために来てくれたメルティさんです(笑)」
仕事の息抜き、何してます?
よく紅茶を飲んでいます。カフェインで脳を覚醒させるために飲むので、紅茶を入れている時間は大義名分を得た休憩時間なんですよね。コーヒーも全然好きですけど、ブラックは飲めないので断然紅茶派です。よくミルクティーにして飲むので、ダージリンやアッサムなどを選ぶことが多いです。
Profile
はるまきごはん:札幌市出身のボカロP、イラストレーター、アニメーター。作詞、作曲、編曲、イラスト、映像、アニメーション制作まで、全てのクリエイションを手掛けている。アニメーションスタジオ、スタジオごはんを主催。スープカレーが好き。
Recent Work
『ゼロトーキング』
はるまきごはん feat. 初音ミク
(スタジオごはん)