HERITAGE AUDIO Lang PEQ-2 レビュー:LANG ELECTRONICSのプログラム・イコライザーPEQ-2の復刻モデル

HERITAGE AUDIO Lang PEQ-2 レビュー:LANG ELECTRONICSのプログラム・イコライザーPEQ-2の復刻モデル

 エンジニア/プロデューサーのピーター・ロドリゲス氏が2011年に設立したスペインの音響機器メーカーHERITAGE AUDIOが、LANG ELECTRONICSを買収し、復刻させた名機=Lang PEQ-2が発表されました。筆者も長年愛用しているPEQ-2。その復刻版としての仕上がりを、たっぷりチェックしていきたいと思います。

PEQ-2の外観をそのまま再現

 PEQ-2は、1960年代に発表されたプログラム・イコライザー(当時マスター用に作られていたEQ)の名機。生産台数の少なさゆえ、日本ではほぼ見かけることのない貴重なビンテージ機材ですが、筆者が長年所属していたスタジオ・サウンド・ダリは2台のPEQ-2を所有していて、録音からミックスまでここぞという場面で度々お世話になってきました。

 同じくプログラム・イコライザーの名機であるPULTEC EQP-1Aが真空管仕様なのに対し、こちらはソリッドステート仕様。筆者の個人的な感覚としては、オープンでレンジの広いサウンドのEQP-1Aに対し、PEQ-2は密度の濃いタイトかつシャープな質感で、この音を好むエンジニアも多数いるようです。筆者もその一人で、とりわけキックやベースなどの低域の仕上げに幾度となく使用してきました。

 では、今回はサウンド・ダリ所有のオリジナルのPEQ-2と、復刻版であるLang PEQ-2を比較しながら検証していきたいと思います。

 まずLang PEQ-2を箱から出して、その姿を一目見て感動。ほぼオリジナルそのままの外見で、LANG ELECTRONICSの刻印もそのまま。これは胸が熱くなります。早速操作子を見ていくと、こちらもオリジナルのまま。PEQ-2や復刻版である本機における個人的な一番のポイントは、低域のブースト/カットの周波数ポイントを、それぞれ独立して調整できる点です。低域のブーストとカットを同時に行い、ローミッドにディップを作りつつローエンドをブーストする方式を、フレキシブルに調整できるようになっている仕様が、とても重宝するのです。BOOST(ブースト)のポイントは、20、30、40、60、80、120、160、240Hzの8段階で、DROOP(カット)のポイントは、25、50、100、200Hzの4段階。ブーストとカットの周波数が重なっていないのもポイントで、自由自在に低域の質感をコントロールすることができます。

 高域については、BOOST(ブースト)のポイントは、2.5、3.75、5.0、7.5、10、12、15、20kHzの8段階、DROOP(カット)のポイントは2.5、5.0、7.5、10、15、20kHzの6段階。これもかなり多い仕様で、ボーカルやアコースティック・ギターなどの耳障りなポイントをカットしながらブリリアンスを確保するのにもってこいです。中央の“BANDWIDTH”は、高域ブーストの帯域幅のコントロールになっています。

リア・パネル。左から、付属の電源(HA PSU04)を接続するパワー・インプット、ライン・アウト(XLR)、ライン・イン(XLR)が並ぶ

リア・パネル。左から、付属の電源(HA PSU04)を接続するパワー・インプット、ライン・アウト(XLR)、ライン・イン(XLR)が並ぶ

オリジナルと明らかに同じ方向性のサウンド

 それでは、筆者がPEQ-2を使うことの多いバス・ドラムからチェックしていきます。まずは、オリジナルでチェック。ポイントを探りながら60Hzをぐいっとブーストし、だぶついたローミッドをDROOPで削っていきます。今回は160Hzがベストでした。続いて、アタックのポイントとなる7.5kHzをブーストすると、締まりの良いサウンドがスパッと作れました。そして、何も考えずに全く同じ設定にした復刻版のLang PEQ-2にチェンジしたところ、これがそっくり! 操作感もチェックしたところ、低域/高域の周波数ポイントごとのブースト、カット、高域ブーストの帯域幅のコントロール、どれも面白いくらいによく効きます。オリジナルと差し替えながら細かくチェックをしていくと、どうやら本機の方が低域の音像がビッグでワイド・レンジな様子で、オリジナルの方がややタイトでシャープな音像。とは言えどちらが良いという感じでもなく、明らかに同じ方向を向いている上での違い、という感じです。締まりの良い低域、耳当たりの良い高域の質感、どれも私の知っているPEQ-2の感覚によく似ています。

 ソースを変えてチェックしてみましょう。次は男性ボーカルです。これも、10kHzや12kHzあたりをブーストしたときの感触が、紛れもなくオリジナルの質感です。膜を一枚取り払ったような抜けが良くて嫌味のない、高品位な高域に仕上げることができます。機種によってはその辺りをブーストすると、か細く耳障りな音になりがちですが、本機ではそういったことは皆無。ミドルレンジの太さを保ったまま、高次倍音が奇麗にプッシュされて伸びていくような質感です。

エレキギターとの相性が抜群に良い

 もうこの時点で、個人的にはその仕上がりに満足してしまっていたのですが、その後エレキベース、アコースティック・ギターなどいろいろなソースでチェックしていき、最後にチェックをしたひずんだエレキギターが、目を見張るほど素晴らしく良い相性でした。160Hzをぐいっとブーストして100Hzを軽くカット、2.5kHzをほんのり落とし、3.75kHzを軽くブーストしてあげると、パワー感とクラリティが共存した、最高のバッキング・ギターのサウンドができました。これに関しては、オリジナルを上回るほどの仕上がりです。今までPEQ-2をエレキギターに使ったことはあまりなかったのですが、これは目から鱗が落ちるほどの感動。“これだけのためにギタリストが買ってもよいのでは”と思うほどでした。

 筆者もさまざまな作品で使用し、思い入れのあるPEQ-2の復刻だけに熱の入ったチェックとなってしまいましたが、本機は素晴らしいEQです。合わないソースなどなく、ミックスの中で“ここぞ!”というときに威力を発揮してくれること間違いなしでしょう。プラグインが低価格化している今、シングル・チャンネルのEQとしては決して安価とは言えませんが、ハードウェアEQを探しているに方にはぜひ試してみてもらいたい一台です。

 

大野順平
【Profile】フリーランスで活動するエンジニア。中田裕二、SUGIZO、大森靖子らの作品や、浜端ヨウヘイ、LUNA SEA、METAMUSE、back numberといった個性的なアーティストの作品に携わる。

 

 

HERITAGE AUDIO Lang PEQ-2

オープン・プライス

(市場予想価格:135,300円前後)

HERITAGE AUDIO Lang PEQ-2

SPECIFICATIONS
▪ライン入力インピーダンス:2,400Ωブリッジング、トランス・バランス、フローティング ▪出力インピーダンス:トランス・バランス、フローティング、600Ωの動作負荷 ▪最大出力:+26.5dBu以上(600Ω負荷時) ▪THD+N:0.02%@1kHz、24dBu(すべてのコントロールを左に回し切ったとき) ▪周波数特性:20Hz~20kHz(±0.3dB) ▪ノイズ・フロア:−86dBu以下 ▪電源:48VDC@60mA ▪外形寸法:482(W)×88(H)×153(D)mm ▪重量:3.1kg

製品情報

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