こんにちは! 音楽家のsasakure.UKです。ボカロPとしての活動のほか、楽曲提供やバンド“有形ランペイジ”のプロデュースも行っています。今回から4回にわたって、私が長年愛用するDAWソフト、Digital Performer(以下DP)を使った制作方法をお届けしたいと思います。
同一プロジェクトのタイムライン上で地続きにモチーフを膨らませていく
そもそも私がDPを使い始めたのは、バージョン4〜5辺りの頃。DPはMIDIに特化していたイメージがあったのですが、段々とオーディオも実用的になってきて、打ち込みからミックスまで一貫してできそうだなと思い、それから制作をすべてDPで完結させています。
当時から変わらず使っているのは、ボーカルのピッチ補正機能やPolysynth、Basslineといったソフト・シンセ、EQなどのDP付属プラグイン。動作が軽く、使い勝手も良いです。DPならではのチャンク機能も作曲で多用しています。
さて、今回の連載では実際の楽曲を元に、1曲をどのように制作していくかを4回に分けて順番にひも解きながら、DPの便利な機能にも触れていきたいと思います。題材とする楽曲は、昨年10月にリリースした「ÅMARA(大未来電脳)」です。サブスクやYouTubeでも聴けるので、まずはぜひ聴いてみてください!
曲を作る際、最初に行うのがモチーフ作りです。BPMや拍子を決めて、思いついたメロディやコードをどんどん打ち込んでいき、それをモチーフに曲を膨らませていきます。この曲では、最終的にサビになったモチーフが最初にできたので、そこから発展させていきました。
このとき、あまりスタンダードな使い方ではないかもしれませんが、同じプロジェクトのタイムライン上で地続きに打ち込んでいきます。つまり段々と横に長くなっていくような形です。思いついたもの、膨らませたものをどんどん打ち込んでいくので、後半になればなるほどモチーフが洗練されていきます。
また、マーカーもモチーフ上に打っています。拍子やBPMの変更時に把握しやすいように、そのほか“1A”やサビなどのセクション名、“+2キー”など転調や拍子が変わったらその情報も記入したりします。メモ代わりに都度書いておくことで、視覚的にも分かりやすいです。
チャンクを使ってプロジェクト間を手軽に行き来する
「ÅMARA(大未来電脳)」は遠い未来をテーマにしていて、人間が住んでいた時代のもっと先……機械が人間の暮らしていた頃の断片を拾い上げて歌うような、ちょっと不思議な曲をイメージしていて、それを表現するためのいろいろなフレーズをモチーフから作っています。完成形に採用したフレーズだけでなく、採用しなかったフレーズもモチーフのプロジェクトには残っています。
ちなみにモチーフ段階では、ピアノ音源としてSYNTHOGY Ivory 2を使うことが多いです。
最終的にはSPECTRASONICS Keyscapeに差し替えることもあります。あとはPolysynthでメロディとバッキングを付けることも。飾らないサウンドで、アナログ的な温かみもあって音作りしやすく、ずっと使っているシンセです。
ここまでメロディとコード中心のお話でしたが、同時進行的にベース、ドラムもモチーフ段階で作っていて、ピアノも合わせたこの3つで大体の空気感を決めていきます。
ドラムはXLN AUDIO Addictive Drumsで仮打ちして、それから別のプロジェクトでドラムを作り込んでいます。ここで最初にもお話ししたチャンク機能が登場します。私はチャンクを作曲時にかなり使っていて、例えば曲の中で“ここのセクション/パートは別のプロジェクトで作り込もう”と思ったときに、モチーフをチャンクとしてそのプロジェクトに貼り付けたり、逆にそのプロジェクトをモチーフに貼り付けたりといったことが簡単にできます。ドラムだけでなく、ピアノもモチーフからさらに作り込むために、清書用のピアノ・プロジェクトとチャンクで行き来することが多いです。私の作曲方法としてはなくてはならない機能ですね。
ドラムのサンプルは鳴り終わる部分にフェードを書いて結合
それではドラムの作り方について。先にピアノなどで作成したフレーズに合うようにリズムを作っていきますが、そのフレーズの打点に合わせるというよりも、どのくらい細かく刻むかを意識しながら作っていくことが多いです。最初はテンポ感が分かりやすいように4つ打ちを入れておいて、そこから8分音符や16分音符など、幾つで刻んでいくのがいいか。結構感覚的な話にはなってしまうのですが、そのようにして出来上がったグルーブ感を重視しています。
リズム・トラックは市販されているサンプル集の音を使って作っていくことが多いです。高音域の素材、低音域の素材など、サンプルを2〜3トラック重ねて、フェードやEQで整えて一つのトラックにまとめる、という手法で制作しています。
例えばキックは、フューチャー・ベース系のちょっと軽めのもの、EDMとかハウス系の重めのもの、といった2つのサンプルを重ねることが多いです。トラックの質感や方向性によって、重いサウンド成分を大きくする、軽快なサウンド成分を多くするなど、微調整してバランスを決めていきます。
あとは、SPECTRASONICS Omnisphere、IK MULTIMEDIA Sampletankといったソフト音源を使って上ものなども足していきます。
なお、チャンクはボーカルでは使っていません。理由としては、調整するパラメーターが膨大になってしまうからです。あまりにも細かくサウンドバイト=オーディオ・ファイルを分けているので、どこを調整するかを検索するのだけでも大変なのでオケとは離した方がいいなと。ボーカルは一番聴かせたいところですし、こだわりもあるので、特に音を作り込みたいのですが、そのためにはチャンクとして使うよりも、単純に別プロジェクトとして分けたほうが、もし何かミスをしたときにごちゃごちゃで訳が分からなくなってしまうことを防げます。頭の中も整理できますし。ボーカルについては次回以降に触れていく予定です。
第1回は以上となります。DPを活用して「ÅMARA(大未来電脳)」をどのように制作したか。次回もぜひお楽しみに!
sasakure.UK
【Profile】インターネット上で自身のサイトを拠点に、オリジナルのインスト楽曲を発表する活動の後、初音ミクなどの音声合成ソフトYAMAHA Vocaloidにインスピレーションを受け、作詞にも挑戦。これらの楽曲を動画サイトに公開すると、その作品性の高さから一躍注目を集める。時代を越えて継承されてゆく寓話のように、物語の中に織り込められた豊かなメッセージ性を持つ歌詞と、緻密で高度な技術で構成されたポップでありながら深く温かみのあるサウンド、それらを融合させることで唯一無二の音楽性を確立する。
【Recent work】
『未来イヴ』
sasakure.UK
(ササクレイション)
MOTU Digital Performer
オープン・プライス
LINE UP
Digital Performer 11(通常版):79,200円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10 & 11(16ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)