NEUMANN KH 120 II × 和田貴史 〜DSP搭載の全く新しいニアフィールド・モニター

NEUMANN KH 120 II × 和田貴史 〜DSP搭載の全く新しいニアフィールド・モニター

NEUMANNから、DSP搭載のパワード型ニアフィールド・モニター、KH 120 IIが登場した。同社は10年以上をかけて多彩なスピーカー・ラインナップをそろえ、もはやマイク・ブランドとしてだけなく、モニター・スピーカー・ブランドとしても確固たる地位を築き上げている。端緒となったのは、2010年に登場したKH 120 A。その名を受け継ぐ本機は、姿形はKH 120 Aとよく似ているが、1インチのツィーターと5.25インチのウーファーを備え、 全く新たな仕様で生まれ変わったモデルだ。最大の特徴は新規に搭載されたDSPと測定用マイクMA 1(別売り)を用いることで 、部屋の環境に合わせたキャリブレーション(音響特性の自動補正)を行えること。はたして、その実力はいかに。今回は作編曲家であり、録音からミックス、マスタリングまで手掛けるマルチなクリエイター和田貴史氏に、自身が運営する、Dimension Cruise Studioにて、KH 120 IIを試聴していただいた。

Photo:Takashi Yashima

KH 120 II EU/KR

KH 120 II EU/KR|価格:148,500円/1台

KH 120 II EU/KR|価格:148,500円/1台

 1インチ・ツィーターと5.25インチのウーファーを搭載したパワード・タイプのニア・フィールド・モニター。ツィーター部分にはMMD(Mathematically Modelled Dispersion)と呼ばれるウェーブ・ガイドが設けられており、机上反射を最小限に抑え、広いスイート・スポットを確保することに貢献しているという。カラーは写真のグレーのほか、ホワイトもラインナップ。

KH 120 IIのリア

KH 120 IIのリア

 KH 120 IIのリア。上部には左からBASS、LOW-MID、HIの3バンド構成によるアコースティック・コントロール、出力レベル(94/100/108/114dB SPL)、インプット・ゲイン(−15〜0dB)、インプット・セレクト(ANALOG、S/P DIF L、S/P DIF R、MONO)、グランド・リフト・スイッチ、コントロール・スイッチ(Local、Network)を搭載。接続端子はアナログ入力(XLR。写真では右下の辺りに、端子が下向きで用意されている)、S/P DIF入出力(コアキシャル)、イーサーネット端子を備える。

SPECIFICATIONS
●周波数特性:44Hz〜21kHz(±3dB) ●最大SPL:116.8dB(ハーフ・スペース 3%/THD/1m、平均100Hz〜6kHz) ●パワー・アンプ:LF/145W+HF/100W ●外形寸法:182(W)×287(H)×227(D)mm ●重量:5.4kg

見えないところがなく原音がそのまま正確に鳴っている

NEUMANN KH 120 II × 和田貴史 〜DSP搭載の全く新しいニアフィールド・モニター

和田貴史(Takafumi Wada)
作編曲家、音楽プロデューサー。株式会社Dimension Cruiseの代表であり、レーベルDimension Cruise Records、As Voxも主宰する。自身のアーティスト名義John Harmony’s Garden、音楽制作ユニットBeagle Kickとしても活動。代表作にNHKスペシャル『巨大災害 MEGADISASTER』『MEGA CRISIS』、NHKドラマ『ガッタンガッタンそれでもゴー』『火の魚』、アニメ『テラフォーマーズ・リベンジ』『学園黙示録High School of the Dead』『終わりのセラフ』『七つの大罪』等の音楽がある。レコーディング、ミキシング、マスタリングも手掛け、近年はYouTuberとしても活躍している。

KH 80 DSP+KH 750 DSPの衝撃

 NEUMANNのDSP搭載モニター・スピーカーは、これまでにも4インチ・ウーファー+1インチ・ツィーターのKH 80 DSP、6.5インチ・ウーファー+1インチ・ツィーターのKH 150、そしてサブウーファーのKH 750 DSPなどがリリースされている。和田氏は以前に、KH 80 DSP+KH 750 DSPの組み合わせを体験し、「ものすごくびっくりした」そうだ。

 「KH 80 DSPは小型なので、音もそういう雰囲気を想像していました。ところが、サブウーファーのKH 750 DSPと組み合わせて、なおかつ別売りのMA 1によるキャリブレーションも行ったところ、その音像感は小さいスピーカーから出ているとは思えないものだったんです。スピーカーの存在を感じさせない音といいますか、KH 80 DSPとKH 750 DSPが一体となって全く分離せずに音が出ていることが衝撃でした」

 和田氏は、「これが正確な音ということか」と感じたそう。

 「それまでは、スピーカーを周波数バランスで捉えて聴くことが多かったんです。例えば、高域が出ていればエッジの立った音に感じるといったようなことですね。しかし、KH 80 DSP+KH 750 DSPの場合は、“位相やタイミングがそろっているってこういうことなんだな”というのを実感しました。それは定位の見え方というレベルの話ではなく、周波数的にも低域から高域までの音のスピードがそろっていて、レスポンスも良いんです。その聴こえ方を例えるなら、“ものすごく視力が良くなった”感じです。言い換えれば、音を正確に把握できるということなんですよね」

KH 80 DSP

KH 80 DSP。1インチ・ツィーターと4インチ・ウーファーを搭載した、パワード型ニア・フィールド・モニター。内蔵DSPを利用して、KH 120 IIと同様にMA 1を使用したキャリブレーションに対応する。和田氏がNEUMANNのスピーカーで最初に衝撃を受けたモデル

KH 150

KH 150。1インチ・ツィーターと6.5インチ・ウーファーを搭載した、パワード型ニア・フィールド・モニター。名前に“DSP”は付いていないが、DSPを内蔵しており、MA 1を使用したキャリブレーションに対応する

KH 750 DSP

KH 750 DSP。KH 80 DSPやKH 120 IIとの組み合わせに最適な10インチのサブウーファー

 その後、より大型のKH 150を試聴し、その際もやはり正確な音という印象を受けたという。そして今回、KH 120 IIをお聴きいただいたわけだが、まずは率直な印象から伺った。

 「KH 80 DSPの正確な音をそのままサイズ・アップした音という印象でした。KH 80 DSPと比べると低域が出るので、6畳くらいの部屋であればサブウーファーなしでもバランスよくモニタリングできそうに思います。このDimension Cruiseは15畳くらいなのですが、この広さであればサブウーファーと組み合わせるとよさそうです」

 KH 120 IIにも継承された“正確な音”。そのディテールについて、もう少しお話を伺ってみた。

 「先ほど、視力が良くなったように感じると言いましたが、それは例えば音のくすみが全くないとか、見えないところがないという意味に捉えていただいてよいと思います。よくレビューなどで言われる言葉では、“解像度が高い”ということになるのかもしれません。例えば、モニター・スピーカーによっては中低域がごちゃっとして分かりづらいといったことがありますが、KH 120 IIではそういうことが全くないんです。見えないところがなくて、正確に“そのまま鳴っている”という印象です。しかも、正確な音が鳴っている状態であれば、多少、高域が出ているとか低域が出ているというのは、もう本当に好みの問題でしかなくなります。そのこと自体はモニター・サウンドの良しあしには影響しなくなるんです。だから、少しだけ自分好みにスピーカーの音を調整するといったこともできるようになるんですよ」

 この“正確な音”に貢献しているのが、MA 1を使用したキャリブレーションだ。2台のKH 120 IIとコンピューターを市販のスイッチング・ハブを介してイーサーネット・ケーブルで接続し、MA 1をオーディオ・インターフェースに接続。スピーカーとリスニング・ポイントは正三角形になるようにセッティングし、MA 1は耳の高さに合わせてマイク・スタンドを調節しておく。また、コンピューターにはWindows/Mac対応の専用ソフトのAutomatic Monitor Alignmentをインストール。ここから幾つかの設定作業を行って測定を開始するが、実際に始めてしまえば、Automatic Monitor Alignmentの指示に従ってMA 1を動かし、7箇所で部屋の音を測定すればキャリブレーションは完了する。

 「Dimension Cruiseはスタジオとして必要なルーム・チューニングを施しているので、キャリブレーションなしで、ただスピーカーを置いただけでもそれなりには鳴るのですが、キャリブレーションするとやはり驚くほど変わります。ブレていた音がカチっと収まるというイメージです。初めて体験する人は、もしかしたら、その瞬間に最も驚くかもしれません」

写真内の右側に見えるマイクが測定用のMA 1(41,580円)。計測を開始するとスウィープ音がKH 120 IIから再生され、それをMA 1が収音して、自動的に調整が行われる。専用ソフトAutomatic Monitor Alignmentの指示に従って、7箇所の音を測定すれば完了となる。なお、今回の試聴はKH 120 IIをコンソール・デスク上へ仮置きする形で行われた

写真内の右側に見えるマイクが測定用のMA 1(41,580円)。計測を開始するとスウィープ音がKH 120 IIから再生され、それをMA 1が収音して、自動的に調整が行われる。専用ソフトAutomatic Monitor Alignmentの指示に従って、7箇所の音を測定すれば完了となる。なお、今回の試聴はKH 120 IIをコンソール・デスク上へ仮置きする形で行われた

Automatic Monitor Alignmentで測定結果を表示したところ。画面下部に見える10バンドのパラメトリックEQで、補正後の特性を微調整できる。和田氏もピークを少し抑えているほか、低域を若干ブーストして好みの音に修正している

Automatic Monitor Alignmentで測定結果を表示したところ。画面下部に見える10バンドのパラメトリックEQで、補正後の特性を微調整できる。和田氏もピークを少し抑えているほか、低域を若干ブーストして好みの音に修正している

ミックスで本領発揮

 作曲からマスタリングまで、音楽制作の全工程を自ら手掛ける和田氏だが、KH 120 IIはどんなシーンで活躍しそうか伺ってみると、「最初から最後まで使えますね」という力強い答えが返ってきた。

 「打ち込みで曲を作るときでも、最終形を見据え、ミックスも考慮した音作りをしていきますから、その時点で音がはっきり見えていないと困るんです。レコーディングも同様ですね。そういう意味では、KH 120 IIはミックスで最も本領を発揮するのではないでしょうか。EQやコンプのかかり具合が細かく正確に分かりますし、低域も正確に再現されますから。最近は低域の量感が大切な曲も多いのですが、部屋の環境が整っていないと、低域が出すぎて楽曲全体を圧迫していることに気付かない場合があるんです。そこで余分な低域が入っていないかチェックする必要があるのですが、KH 120 IIであればそれを正確に把握できると思います。部屋の広さによってはサブウーファーのKH 750 DSPがあれば完璧でしょう。もちろん、マスタリングでも使えます」

 音楽制作のどの局面でもモニター・スピーカーは重要だが、NEUMANNのスピーカーを使うことで、「これまで迷っていた部分が多かったことが分かる」と和田氏。

 「これまでいろいろなスピーカーを使ってきて、悩むことも多かったんです。例えば、リバーブの見え方であったり、ひずみの倍音がどうなっているのかを聴き分けるにはどうしたらいいのかとか、中域がごちゃっとなるのはなぜなのかといったことですね。でも、KH 120 IIとMA 1によるキャリブレーションで音がそろうことによって、それらがすべて解決されました。これだけ奇麗に鳴ってくれると、その音を信じることができるので、作業も早くなります」

 モニター・スピーカーである以上、原音を正確に再生するというのは当然だが、NEUMANNの製品にはそれだけではない魅力があると和田氏は語る。

 「原音を正確に再生することは、モニター・スピーカーにおいて絶対的に正解ですし、最も重要であることは間違いありません。NEUMANNのモニター・スピーカーはその大前提を踏まえつつ、音楽的に鳴ってくれるんです。聴いていて面白くないってことがないんですよ。これはもしかしたら、同社のマイク作りの思想を受け継いでいるのかもしれませんね。NEUMANNはマイクもスピーカーも、一貫して何かグっとくる、いいなと思える音を僕たちに提示してくれるんです」

KH 120 II 製品情報

https://www.neumann.com/ja-jp/products/monitors/kh-120-ii/

関連記事