DIRECT SOUND DS-R5 レビュー:和楽器をはじめとした幅広いソースに対応可能なパッシブ型リボン・マイク

DIRECT SOUND DS-R5 レビュー:和楽器をはじめとした幅広いソースに対応可能なパッシブ型リボン・マイク

 米ミズーリ州に本拠を置くDIRECT SOUNDは、独自の技術“パッシブ・ノイズ・アイソレーション”を用いた高品質なスタジオ用ヘッドフォンを製造する創業20年以上のメーカー。今回ご紹介するのは、DIRECT SOUNDがグローバル進出を目指し新設したブランド“DIREXOUND”のリボン・マイク、DS-R5。それでは早速スタジオでチェックしてみよう。

防振機能の付いたサスペンション 持ち運びに便利なセミハード・ケース

 DS-R5は、長さ160mm、直径25mmの手頃なサイズ感で、重量は215g。明るいシャンパン・シルバーの外見がとても上品なデザインである。マイク本体には赤い丸のメーカー・ロゴが堂々とプリントされており、新ブランドの自信がうかがえる。ダイアフラムには長さ62mm、厚さ0.002mmの純度の高いアルミニウム箔を使用しており、高いトランジェント特性を得ているとのこと。指向性は双指向性、周波数特性はリボン・マイクとしては比較的広い20Hz〜18kHz。感度は−52dB (0dB=1V/Pa)@1kHz、SN比は77dB、最大入力SPLは148dBのスペックを誇る。また、DS-R5をしっかりとホールドする防振機能の付いたサスペンションが付属している。

付属のサスペンション

付属のサスペンション

 こちらは強力なクリップ式で、傾く心配のないしっかりとしたホールド感。そのため、固定する際にはそれなりの握力が必要である。これらを収納可能な、丈夫な樹脂製のセミハード・ケース(ファスナー開閉)も付属。これなら日々スタジオを移動するようなハードな場面でもマイクへのダメージは少なそうである。

DS-R5、サスペンションを収納可能な付属のセミハード・ケース

DS-R5、サスペンションを収納可能な付属のセミハード・ケース

 早速音を聴いてみよう。併用するマイクプリは、音に色付けがなく超フラットな周波数特性のサウンドインスタジオ製Over Qualityシリーズのプロトタイプ版KZ-902Uを使用。

 まずは、エレキギター。実に音圧のある音で中域が力強く、オケの中でもしっくりとハマる。ディストーションをかけた刻みでも、余計な低域成分を感じることがない。クリーンなカッティングやソロなどは、とてもスムーズで心地良い。耳に刺激的な中高域が自然にロールオフされて音が前面に出てくるイメージで、実に扱いやすいサウンドである。

 次はアコースティック・ピアノ。高域から低域までとてもスムーズで、特定の音域が飛び出すこともない。若干クリスピーに感じる部分もあるが、全体の倍音も程良く拾えている。軽めのバッキングのピアノの収録に最適だと感じた。

 次にトランペット/トロンボーンでは、実に明るいサウンドを収録できた。音の立ち上がりが自然で、レンジ全体で良いレスポンス。トロンボーンの“バリっと”した強い音でもひずみっぽく聴こえることはない。ミュートを使った奏法では、こもるようなことがなく、低域の響きもしっかりと捉えられた。

 続いて、4-4-2-2編成のストリングス。コンダクターの頭上、高さ約3.5mの位置にセットし、オフマイクで試した。全体のバランスが非常に良く収音できる印象である。1stバイオリンの高域での奏法でも飛び出すことがなく、またチェロの低域の膨らみも程良く抑えられる。一つ一つの楽器がきちんとまとまった印象に収録できた。双指向性が幸いしてか、背面からスタジオに拡散された豊かな響きも自然に入ってくる。ぜひ、ステレオ・ペアで使ってみたいと感じた。

三味線/琵琶では耳障りなアタック感を自然に解消 さまざまな楽器の“おいしい部分”を表現可能

 さらに、津軽三味線と琵琶でテスト。これらの強力なアタックがあり余韻が小さい楽器の繊細なニュアンスを録るのは、かなりのノウハウが要求されるのだが、これはお見事!優れたレスポンスのおかげでバチが弦に当たる瞬間の音が集音できる上に、余韻も正確に捉えている。津軽三味線独特の“たたき”や“スリ”もバランスが良い。オケの中に入るとアタックだらけな音になりがちな津軽三味線だが、DS-R5で録った音は楽器の特徴をとても良く表現しつつ、耳障りに感じるアタック感は解消されていた。これは琵琶でも同様で、耳で聴いたままの印象で録ることができた。今後、三味線や琵琶、琴などの収録でファースト・チョイス間違いなしだ。また、尺八/篠笛でも試したが耳に刺激的な高域が程良くスポイルされ、聴きやすく収録できた。

 最後に女性ボーカリストでテスト。音域が広く、声もかなり大きかったが、とてもスムーズな音調で収音できた。ピアノのときと同様に若干クリスピーな印象だが、組み合わせるマイクプリによって厚みの補完はできるだろう。声の倍音を表現するには少し力不足は否めないが、レスポンスの良さが際立ち、一言一言がキチンと前に出る。リボン・マイクであるので吹かれには気を遣うが、かなり効果的にポップ・ノイズを防げるポップ・フィルターのPF-1(6,780円)もオプションで用意されている。これが、コンパクトで実に使いやすかった。安価なので、ボーカルでの使用を想定して導入するなら同時購入がお勧めだ。

 ほかにもあらゆる楽器でテストしたが、共通して言えるのは、それぞれの楽器の“おいしい部分”がしっかり表現できて、オケの中でのポジションが取りやすい音で収録できるということ。そして、驚いたのは118,000円という価格。本国でのオンライン価格が$819.00ということを考えると、日本の代理店は相当頑張ってくれていると思う。参考までに言うと、筆者が使用しているリボン・マイクは、ちょうど倍の価格である。価格以上のデザイン/扱いやすさ/スペックを兼ね備えたDS-R5は、リボン・マイク初心者が初めて手にする一本として最適なマイクだと思う。また、三味線/琴などの和楽器が身近になりつつある昨今、そういった楽器を録音する機会がある人にもお薦めのマイクである。

 

山内"Dr."隆義(gogomix@)
【Profile】竹内まりや、鈴木雅之、布袋寅泰、福山雅治、吉田兄弟、在日ファンク、降幡愛などを手掛けるベテラン・エンジニア。近年流行の“シティーポップ”は最も得意とするサウンド。

 

 

 

DIRECT SOUND DS-R5

118,000円

DIRECT SOUND DS-R5

SPECIFICATIONS
▪形式:リボン ▪感度:−52db(0db=1V/Pa@1kHz) ▪指向性:双指向 ▪周波数特性:20Hz〜18kHz ▪出力インピーダンス:350Ω ▪最大SPL:148dB ▪外形寸法:25(φ)× 160(H)mm(実測値) ▪重量:215g(実測値)

製品情報

DIRECT SOUND DS-R5

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