Night TempoがDJ/制作の機材&手法を明かす。カセット・コレクション・ギャラリーつき!

Night TempoがDJ/制作の機材&手法を明かす。カセット・コレクション・ギャラリーつき!

インターネット音楽の沃野から登場し、ハウス・ミュージック×80'sポップスな作風で頭角を現す韓国人プロデューサー/DJのNight Tempo。連載「ビーピーエムは、Night Tempo」にも執筆の通り、日本のレイト80's~アーリー90'sのポップスに造詣が深く、当時のカセット・アルバムやレコード、ポータブル・カセット・プレーヤーを多数所有。ここでは、DJプレイや楽曲制作の手法についてインタビューしつつ、貴重なカセット&カセット・プレーヤーのコレクションを見せていただく。

DJは自分の曲をオフラインで披露する手段

——Night Tempoさんは、何がきっかけで広く知られるようになったのですか?

Night Tempo それが、自分でも正直、分からなくて。やっていたら、いつの間にか……という感じです。音楽は、職業ではなく趣味でした。“外へ出ずにできる健康的な趣味って何だろう?”と考えたときに、以前から音楽がやりたかったので、勉強したらできるかなと思って始めたんです。

——当初は、インターネットを中心に楽曲を発表していましたよね。初めて話題になった曲は?

Night Tempo 竹内まりやさん「プラスティック・ラブ」のリエディットが2016年頃にYouTubeでバズって。当時は音楽業界と関わりがなく、本当に一人でやっていて、“生活の残り時間”に少しずつ制作している感じでした。

——クラブでDJをしていたわけでもなく?

Night Tempo 全然。2017年頃、友達に誘われて1回やったことがあるくらいです。DJについて何も分かっていない状態でしたが、YouTubeで調べてやってみたら、そんなに難しいものじゃないなと思って。

——現在はPIONEER DJ CDJでプレイを?

Night Tempo CDJは使ったことがなくて。クラブのCDJって、いろんな人が触りますよね。お店によっては、一部のボタンが故障しているようなこともあるし。そういうイレギュラーが嫌いで、いつでもどこでも同じようにプレイできる環境を整えようと思い、DJソフトのNATIVE INSTRUMENTS Traktor ProとDJコントローラーのAKAI PROFESSIONAL AMXを使いはじめました。ソフトのパラメーターをコントローラーに自分でマッピングして、トランスポートやエフェクトでのパフォーマンスを行えるようにしています。自在に扱えるし、僕はそもそも、自分をDJとは思っていないんです。作った音楽を最も楽にプレイする手段が、お話ししたDJシステムというだけで。

——つまり、DJシステムを使ったオリジナル曲のライブ・パフォーマンスですね。

Night Tempo そうです。“家でできる健康的な趣味”として音楽を選んだのに、逆に外へ出るようになってしまったんです(笑)。自分の曲をオフラインで披露する方法がDJ以外になく、最初は少し無理してやっていたんですが、お客さんが楽しんでくれる様子を見て“もっと、きちんとやってみよう”と思いはじめました。だから本当に、仕事モードです。楽しいことではあるんですけど、仕事モードで楽しんでいます。ちゃんとプレイできないと、やっている最中に顔が暗くなってしまうんです。それは、お客さんに失礼じゃないですか? 楽しんでもらうためにも仕事として音楽をやるし、その上で皆さんと一緒に楽しむのが自分のポリシーです。

——素晴らしいプロ意識だと感じます。

Night Tempo 僕は自分を客観視しようとしているので、自分に結構、厳しい人間だと思います。僕自身は“Night Tempoを演じるもの”なんです。こっちのNight Tempoもあれば、あっちのNight Tempoもある。Night Tempo以外のプロジェクトもやっていて、例えばFANCYLABOのプロデューサーでもある。本来の自分は一歩引いたところにいて、プロジェクトに適したキャラクターにオーダーするような感じです。僕は、何十年も前から音楽一本でやってきた人間ではないので、まだまだ本来の自分をNight Tempoとは別の人間として見ることができます。一体化していないんです。今回のアルバムは、過去のNight Tempoに今のNight Tempoをリミックスしてもらうような感覚で作りました。

DJシステムは、NATIVE INSTRUMENTS Traktor Pro(DJソフト)とAKAI PROFESSIONAL AMX(DJコントローラー)で構成。AMXはSERATO Serato DJ用だが、Traktor Proのパラメーターを自ら操作子にマッピングして使っている。インイア・モニターはSENNHEISER IE 600

DJシステムは、NATIVE INSTRUMENTS Traktor Pro(DJソフト)とAKAI PROFESSIONAL AMX(DJコントローラー)で構成。AMXはSERATO Serato DJ用だが、Traktor Proのパラメーターを自ら操作子にマッピングして使っている。インイア・モニターはSENNHEISER IE 600

NEUMANNのNDH 30で“体を動かす音”を

——曲作りはABLETON Liveで行っているのですよね。

Night Tempo はい。APPLE MacBook ProとWindowsノートに入れて使っています。M1チップ以降、愛用のプラグインが不安定になってしまったので、Windowsも使いはじめました。最近は移動が多く、NEUMANNの開放型ヘッドフォンNDH 30をパソコンに直接つないでモニターしていますね。モニター・ヘッドフォンと言えばSENNHEISER HD 650のユーザーをよく見かけますが、NDH 30の方が現代的な音だと感じていて。今、リスニングにAPPLE AirPods Proを使う人が多いですよね? あれとNDH 30は結構、“音の形”が似ていると思うんです。NDH 30は、AirPods Proほど低音がドカッと聴こえるわけではありませんが、低いところまでしっかりと再現するから、ミックスした後にほかの機器でも低音をチェックして……というのを、あまりやらなくていい。NDH 30をリファレンスとして、そこに合わせ込んでいけば、大体の機器でバランス良く鳴るんです。

——NDH 30は、低域がよく見えつつ、どの帯域にも極端な部分がないヘッドフォンなのだと思います。

Night Tempo もし僕が超フラットにミックスしても、リスナーの方々が聴くときは大抵、どこかが強調された音になりますよね。だから、皆さんが使っているイアフォンのような特性を前提として音作りした方が“体を動かす音”になると思うんです。それに、フラットで奇麗にまとめるよりは作り手の色を出したいし、現代性も欲しい。レトロ感を持たせながらも今の音に寄せて間(あいだ)を取る、というのが自分の音楽の魅力だと思っています。

——自宅ではモニター・スピーカーも使うのですか?

Night Tempo GENELECの8010Aを使っています。併用しているオーディオI/OはARTURIAのAudioFuse Studio。近頃のI/Oは音が粒ぞろいなので、そこだけを見ればAudioFuse Studioでなくてもいいんですが、パネルに角度が付いているためレベル・メーターやボタンが見やすく、楽に使えるのが良いと思って購入しました。あと、入力端子がたくさんあって、いろんなものをつないでおけるのも良い。

——それほど多くの楽器や機材を入力しているのですか?

Night Tempo SONY PlayStationの音声出力とかもつないでいるんです。ゲームのときにも8010Aで音を鳴らせるので、自宅の機材は音楽制作用であり、エンターテインメント用でもある。僕は普段、パソコンを立ち上げっぱなしにしているんですが、AudioFuse Studioはスタンドアローンでも動作するので、ゲームしたいときにパソコンまで起動させる必要はありません。そして、長い間このシステムを使っているから慣れていて、“ここでこう聴こえたら、ほかでも同じ印象に聴こえるだろう”というのが把握できる。音楽制作の際も、気楽に作業できるのが良いですね。


インタビュー後編では、メジャー2ndオリジナル・アルバム『Neo Standard』の制作を中心に語っていただきました。

Night Tempo's Collection

 1980~1990年代にかけての日本のポップ・カルチャーに精通し、当時のカセット作品やポータブル・カセット・プレーヤーを集めているNight Tempo。所有量が膨大で、倉庫を使うほどだそうだが、コレクションの一部を紹介してくれた。

八神純子『FULL MOON』(1983年)
当山ひとみ『HUMAN VOICE』(1985年)
【左】八神純子『FULL MOON』(1983年) 【右】当山ひとみ『HUMAN VOICE』(1985年)
角松敏生『TOUCH AND GO』(1986年)
刀根麻理子『NATURALLY』(1986年)
【左】角松敏生『TOUCH AND GO』(1986年) 【右】刀根麻理子『NATURALLY』(1986年)
荻野目洋子『VERGE OF LOVE』(1988年)
RA MU『Thanks Giving』(1988年)
【左】荻野目洋子『VERGE OF LOVE』(1988年) 【右】RA MU『Thanks Giving』(1988年)
SONY WM-30(1984年)
SONY WM-55(1985年)
【左】SONY WM-30(1984年) 【右】SONY WM-55(1985年)
SONY WM-F6(1986年)
SONY WM-EX9(1998年)
【左】SONY WM-F6(1986年) 【右】SONY WM-EX9(1998年)
SONY WM-W800(1986年)
WM-W800を横から見たところ。ダブル・カセット仕様で、ダビングが可能
【左】SONY WM-W800(1986年) 【右】WM-W800を横から見たところ。ダブル・カセット仕様で、ダビングが可能

Night Tempo

Release

『Neo Standard』
Night Tempo
ビクター:VICL-65859(CD)、VIJL-60296(アナログ・レコード)、VITL-65859(カセット)
※CD(3,300円)は発売済み。アナログ・レコード(4,400円)は10月4日(水)、カセット(3,300円)は10月11日(水)に発売予定。各種ストリーミング・サービスにて配信中

Musician:Night Tempo(prog)、秋元薫(vo)、小泉今日子(vo)、鈴木杏樹(vo)、当山ひとみ(vo)、土岐麻子(vo)、中山美穂(vo)、野宮真貴(vo)、早見優(vo)、BONNIE PINK(vo)、渡辺満里奈(vo)
Producer:Night Tempo
Engineer:Night Tempo、石川翔平、藤原暢之、大久保孝洋
Studio:プライベート、Kila Studio、Blue Mountain Studio、ビクタースタジオ Studio 203

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