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Night Tempo、トラック・メイクとレコーディングを語る〜『Neo Standard』はこうして生まれた

Night Tempo、トラック・メイクとレコーディングを語る〜『Neo Standard』はこうして生まれた

Wink「淋しい熱帯魚」や小泉今日子「NUDIST」、秋元薫「Dress Down」、中山美穂「CATCH ME」などのリエディット・シリーズ『Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』が人気を博す中、9日にメジャー2ndオリジナル・アルバム『Neo Standard』を発表したNight Tempo。本作は全10組のシンガー(秋元薫、小泉今日子、鈴木杏樹、当山ひとみ、土岐麻子、中山美穂、野宮真貴、早見優、BONNIE PINK、渡辺満里奈)を迎えた一枚で、多彩なボーカルがまばゆいダンス・トラックに乗る。『ザ・昭和グルーヴ』やプロデュースを務めるユニットFANCYLABOとは趣を異にする“アーティスト・ Night Tempo”の世界だ。アルバム制作について、本人に聞く。

“いかにも打ち込みな感じ”がクール

——『Neo Standard』にはレイト80's~アーリー90'sを思わせる音色がちりばめられています。本誌連載では、REFXのソフト・シンセNexusに言及していましたよね。

Night Tempo Nexus 3一択、と言っても過言ではありません。サンプル・ベースだからどんな音でも出せるし、最近は悩まずにほぼ全部、Nexus 3で作っています。ただ、KORG M1の音が欲しいときだけ、ソフト・シンセのM1 V2を使うんです。クラシックなハウスに出てくるピアノやオルガンって、大抵はM1のプリセットから作られていますよね。

——「Run Or Hide feat. 渡辺満里奈」では、冒頭からハウスの常とう句である“オルガン・ベース”が聴けます。

Night Tempo M1 V2のオルガンとベースをレイヤーしているんです。ベースだけを聴くとチープなスラップの音色ですが、同じような音を使った「Passion feat. 秋元薫」しかり、“いかにも打ち込みな感じ”をヨシとする感覚が好きで。1980年代の音楽は、例えばサックスもYAMAHA DX7のようなシンセで鳴らしています。それが“おしゃれ”だったので。

——80's的な感覚なのか、ヨーロッパの現行ハウスにも、打ち込み丸出しの生楽器音色を使った曲が散見されます。

Night Tempo 他方、日本の音楽って、バンドの音や生楽器らしさを重視する傾向があると思うんです。そこが自分の好みと違うところ。僕は、生楽器の音色を使う際も、打ち込みで演奏を精巧に再現するのではなく“っぽく”するのが好き。だから今回、すべて打ち込みにしようと思って、パソコン完結で作りました。前はYAMAHA DX100のような実機も使っていましたが、シンセさえ全部ソフトです。

——ドラムに関しては、大半の曲で、オールドのハードウェア・サンプラーを通したような質感に聴こえます。

Night Tempo 自作のサンプル・ライブラリーがあって、好きな音色を山ほど持っているので、そこから選んでレイヤーしているんです。日本の音楽には、ものすごく奇麗に音作りされたものが多いけれど、僕は“雑”でもいいんじゃないかと思っていて。前作の『Ladies In The City』を作った頃は、日本での活動を意識するあまり音が奇麗になりすぎていたように感じますが、今回は自分を取り戻そう、より自分らしい音にしようと思って、全く別モノにしました。

Night Tempo

今、新鮮に迫るストレートな歌詞

——微に入り細に入り作り込むのではなく、勢いやインスピレーションを素早く形にするのが、Night Tempoさんの言う“雑”の意味でしょうか?

Night Tempo 出自がベイパーウェーブのようにダーティなインターネット音楽だから、考え込みすぎると音が面白くならないってことですね。例えば「Run Or Hide」は、トラックとトップ・ラインを30分ほどで作りました。曲を考えたら、脳内だけで終わらせるのがもったいないので、すぐLiveにスケッチするんです。ストックは本当にたくさんあって、今も100曲以上は持っています。あと“曲が書けない”ってなることはなく、サラリーマンみたいな感じで、デスクに座ったらとにかく仕事できるって感じです(笑)。

——曲作りは、時間を決めてやっているのですか?

Night Tempo 昼は締め切りがある仕事をして、夜の8時を過ぎたら、とにかくスケッチをやろうと思って1~2曲、メロディ・ラインや何かしらのアイディアを作っています。だから、職業作家とアーティストの間って感じ。両方のスタイルで仕事していけたらいいなと思っているんです。

——『Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』は、どちらかと言うと締め切り仕事の方ですよね?

Night Tempo そうですね。そして“きっかけ作り”でもあります。『ザ・昭和グルーヴ』を通して関わりたいアーティストの方々とつながって、オリジナル・アルバムに参加してもらうことでまた新しいものを生み出せる。『ザ・昭和グルーヴ』がなかったら『Neo Standard』のようなアルバムはできなかったと思うし、『ザ・昭和グルーヴ』があるからこそ“Night Tempoという人は、ちゃんと仕事をしている”と、信頼してもらえる。何者か分からない人から“自分の曲で歌ってほしい”って言われても難しいじゃないですか。しかも、今回のフィーチャリング・シンガーは豊かなキャリアをお持ちの方ばかりなので、なおさらだと思います。

——『Neo Standard』では、シンガーの方々が作詞を手掛けています。Night Tempoさんがテーマ設定をした上で、作詞をオーダーするような形だったのでしょうか?

Night Tempo はい。曲を作る段階で“こういう歌詞になるといいな”っていうのがあるので、イメージした言葉を仮タイトルに入れたりメモしておいたりして、作詞を依頼するときに伝えるようにしています。例えば「Passion」は、 秋元薫さんに“1980年代の歌謡曲やバラードのような曲に乗せて恋の情熱を語りたいです。とにかく恋の情熱について書いてください”とお願いしました。そしたら“うんうん、何かできそう”とのことで、上がってきたものを見たら結構、グイグイ系の歌詞でした。“ストレートに、ストレート……に”という感じだったんですが、それが今、新鮮だなと。昨今のJポップには、かっこ良く見せるためなのか、難しい言葉を取り入れた詞が多い印象です。その中で「Passion」のような詞は、異彩を放つんじゃないかと。「Passion」に限らず、皆さんに書いていただいた詞はどれも素晴らしく“当時、すごい時代を生きてきた人たちは考え方が違うな”と思いました。

Night Tempo

マイクはAUSTRIAN AUDIO OC18一択

——シンガーの方々の歌録りは、どちらで?

Night Tempo 小泉今日子さんのボーカルをビクタースタジオ、野宮真貴さんと渡辺満里奈さんの歌をBlueMountain Studioで録音した以外は、皆さんKila Studioです。

——Night Tempoさんの所属事務所フジパシフィックミュージックのスタジオですね。使用マイクは?

Night Tempo 野宮真貴さんとBONNIE PINKさんの歌にはTELEFUNKEN Ela M 251を使ったんですが、僕のチョイスは基本的にAUSTRIAN AUDIO OC18一択。FANCYLABOも全部それで録っているし、2022年の暮れ辺りからほとんどすべて、OC18。元々はAKG C 414 XL IIを使おうと思って何度かトライしてみたんですが、結局は元AKGの技術者たちが創業したAUSTRIAN AUDIOのマイクに落ち着きました。シンガーの方々には、できる限りOC18で歌ってもらえるようにお願いしています。

Night Tempoの所属事務所、フジパシフィックミュージックが所有するKila Studio

Night Tempoの所属事務所、フジパシフィックミュージックが所有するKila Studio。写真はコントロール・ルームで、AVID Pro Tools UltimateをインストールしたAPPLE Mac ProやPro Tools|HDXシステムのほか、ステージ・ピアノSTUDIOLOGIC Numa Compact 2やアコースティック・ギターTAKAMINE SO-70などが用意されている

『Neo Standard』の歌録りの大半が行われたボーカル・ブース

『Neo Standard』の歌録りの大半が行われたボーカル・ブース。キュー・ボックスはCURRENT SC6014。広さは10畳ほどだ

デスク周り

デスク周り。常設のオーディオI/Oは写真右下のPro Tools|HD I/Oで、ディスプレイ足元にDAWコントローラーのPRESO NUS FaderportやUMBRELLA COMPANY The Fader Control、モニター・コントローラーDANGEROUS MUSIC Monitor STのリモート・コントローラーなどを置く。モニター・スピーカーは外側にADAM AUDIO A7X、内側にYAMAHA NS-10M Studioがスタンバイ

アウトボード・ラックには、上からUNIVERSAL AUDIO 1176LN(コンプ)、6176 Vintage Channel Strip、RUPERT NEVE DESIGNS Shelford Channel(以上チャンネル・ストリップ)、AURORA AUDIO GTQ2 Mark III(プリアンプ)、TASCAM AV-P25RMKII(電源ディストリビューター)、CURRENT PS6014(キュー・ボックス用電源)をマウント

アウトボード・ラックには、上からUNIVERSAL AUDIO 1176LN(コンプ)、6176 Vintage Channel Strip、RUPERT NEVE DESIGNS Shelford Channel(以上チャンネル・ストリップ)、AURORA AUDIO GTQ2 Mark III(プリアンプ)、TASCAM AV-P25RMKII(電源ディストリビューター)、CURRENT PS6014(キュー・ボックス用電源)をマウント

——OC18の何が魅力なのでしょう?

Night Tempo 歌にとって不要な周波数帯域がちょうど良い具合に抑えられていて、録音後の処理を減らせるんです。もちろん、中低域が物足りないわけではなく音に“芯”のようなものがあり、なおかつ程良いブライトネスも備えている。自分の楽曲の音色にマッチするし、現代の洋楽トレンドっぽい音がするところも気に入っています。歌の録り音にローカットを入れると“ロス”が増えるというか、サウンド・イメージが変わってしまいがちですが、元のバランスが良ければローカットする必要はないので、なるべくOC18を使いたい。指向性を切り替えられるOC818という機種もあるけれど、歌録りの際は大抵カーディオイドだから、指向性可変でなくてもいいと思ってOC18を使っています。今、韓国でもOC18とOC818のユーザーが多く、特にラッパーの方々に目立ちます。また、同じAUSTRIAN AUDIOのモニター・ヘッドフォンHI-X65は“コスパが高い”と評判で、ホーム・レコーディングに使う人が増えていると思います。僕はダイナミック・マイクOD505の購入を検討中ですが、オーディオI/Oも出してほしいなあと思っていますね。

Night Tempoが「これ一択」と語るほど愛用しているAUSTRIAN AUDIO OC18

Night Tempoが「これ一択」と語るほど愛用しているAUSTRIAN AUDIO OC18。ウィーン製の単一指向性コンデンサー・マイクで、『Neo Standard』の歌録りにも多用。「最近はパソコン完結で曲を作るから、必須の“機材”って、声を録るためのマイクなんです。気が変わらない限りは、OC18をメインに使っていくと思います」と熱弁する

——アルバムを総括して、どのような所感を抱いていますか?

Night Tempo 豊かなキャリアをお持ちの方々とご一緒させていただきつつ、非常にフレッシュなアルバムにできたと感じています。音楽制作に大事なのは経験以上に“感覚”なんだなと、あらためて思いました。多くを学び、成長できたと思います。このアルバムのセルフ・リミックスなんかも作ってみたいですね。FANCYLABOも新しいレコーディングをしているんですが、今回の経験を反映したものになっているので、楽しみにしていてください。


インタビュー前編:Night TempoがDJ/制作の機材&手法を明かす。カセット・コレクション・ギャラリーつき!

Release

『Neo Standard』
Night Tempo
ビクター:VICL-65859(CD)、VIJL-60296(アナログ・レコード)、VITL-65859(カセット)
※CD(3,300円)は発売済み。アナログ・レコード(4,400円)は10月4日(水)、カセット(3,300円)は10月11日(水)に発売予定。各種ストリーミング・サービスにて配信中

Musician:Night Tempo(prog)、秋元薫(vo)、小泉今日子(vo)、鈴木杏樹(vo)、当山ひとみ(vo)、土岐麻子(vo)、中山美穂(vo)、野宮真貴(vo)、早見優(vo)、BONNIE PINK(vo)、渡辺満里奈(vo)
Producer:Night Tempo
Engineer:Night Tempo、石川翔平、藤原暢之、大久保孝洋
Studio:プライベート、Kila Studio、Blue Mountain Studio、ビクタースタジオ Studio 203

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