「CRANBORNE AUDIO Camden EC1」製品レビュー:ヘッドフォン・モニター向けのディスクリート・ミキサーを持つプリアンプ

Cranborne Audioのプリアンプ「CAMDEN EC1」

 CRANBORNE AUDIOは“ビンテージ・サウンドへのモダンなアプローチ”をキャッチ・フレーズに、プロフェッショナルなオーディオ機器を設計するロンドンの新興メーカー。オフィシャルWebサイトを見ると、設計にかかわるチーム全員がミュージシャンやサウンド・エンジニアであると紹介されています。そんなCRANBORNE AUDIOから1chマイク・プリアンプにディスクリート・ライン・ミキサーを加えたCamden EC1が発売されました。

アナログ・サチュレーションを付加するMOJO
Hi-Z入力した信号はアンプへの出力も可能

 Camden EC1は、ハーフ・ラック・サイズに240mmの奥行きで1.8kg。電源アダプター、IEC電源ケーブルが付属しています。

 

 フロント・パネルの左側がプリアンプ・セクションで、右側がミキサー/ヘッドフォン・アンプ・セクションです。一番右が電源ボタンですが、オンの際は普通に押して、オフの際は長押しでないと電源が切れないようになっています。これにより、うっかり触ってしまいふいに電源が落ちてしまうというようなトラブルを防いでいます。

フロント・パネル。左側がプリアンプのセクション、右側がミキサー/ヘッドフォン・アンプのセクションだ。プリアンプのセクションにはライン/Hi-Z入力端子が1つ、ミキサー/ヘッドフォン・アンプのセクションには、EXT IN(ライン入力)とヘッドフォン出力を1つずつ用意

フロント・パネル。左側がプリアンプのセクション、右側がミキサー/ヘッドフォン・アンプのセクションだ。プリアンプのセクションにはライン/Hi-Z入力端子が1つ、ミキサー/ヘッドフォン・アンプのセクションには、EXT IN(ライン入力)とヘッドフォン出力を1つずつ用意

 まずはプリアンプ・セクションからチェック。ゲイン・ノブは5.5dB刻みでの12ステップです。マイク入力のときは+8dBからですが、ライン入力のときは0dBからになってくれます。アナログ・サチュレーションを付加するMOJOノブはスイッチ付き連続可変で、絞り切るとカチッとスイッチが切れてバイパスになります。MOJOは2つのモード“CREAM”と“THUMP”を用意。これらを切り替えるのは、MOJO STYLEトグル・スイッチです。その上にあるシグナル・インジケーターは一つですが、プリアンプのゲインを上げていくと緑→橙→赤色へ変わっていくので、クリップしているかどうかはすぐ分かります。ハイインピーダンスのライン入力もあり、ベースやギター、キーボードなどのDIとしても使用可能です。

 

 リアには、−10dBのPADスイッチ付きバランスXLR出力とTRSフォーン出力がありますので、さまざまなオーディオI/Oの外部プリアンプとして使うことができます。また、リンク端子(TRSフォーン)はHi-Z入力の分岐に使用できるので、ライン信号を押さえるとともにアンプを鳴らすことが可能に。XLR出力やTRSフォーン出力はオーディオI/Oに、リンク端子をギター/ベース・アンプに接続します。もう1台マイクプリが必要になりますが、これでMOJOで音作りした信号をラインとアンプ、両方で録音できるのは魅力ですね。

リア・パネル。AUX入力L/R、別のCRANBORNE AUDIOのデバイスとの入出力の相互伝送が行えるC.A.S.T.アウト、プリアンプ出力(XLR、TRSフォーン)とリンク端子(TRSフォーン)、プリアンプ入力(XLR)を装備

リア・パネル。AUX入力L/R、別のCRANBORNE AUDIOのデバイスとの入出力の相互伝送が行えるC.A.S.T.アウト、プリアンプ出力(XLR、TRSフォーン)とリンク端子(TRSフォーン)、プリアンプ入力(XLR)を装備

 続いてはミキサー/ヘッドフォン・アンプのセクション。EXT INというライン入力は、モノラルのプレイバック・ソースをヘッドフォン出力およびC.A.S.T.アウトの信号経路に送り込むための端子。C.A.S.T.を使用すれば、Camden EC1の入力信号を同社500R8/500ADATに(ちなみにアナログです)伝送したり、逆に500R8/500ADATからの信号をEC1でモニターしたりできます。EXT INの傍らには、EXT INのレベル・ノブとプリアンプのレベル・ノブがあり、これらのバランスでミックスを行います。ヘッドフォン出力のそばには、ヘッドフォン・レベルのノブとリアのAUX入力L/Rのレベル・ノブがスタンバイ。AUX入力L/Rはヘッドフォン出力の信号経路につながっているため、例えばDAWのオケを入力すれば、プリアンプに入力されている歌などの音声とミックスしてモニターできます。つまり本機のミキサーは、プリアンプへの入力とEXT IN/AUX入力をミックスしてヘッドフォンでモニターするためのものと言えます。

最大ゲイン68.5dBでクリーンな音質
クリアでフラットなヘッドフォン・アンプ

 輸入元の宮地商会M.I.D.のWebサイトでは、Camden EC1は“最大68.5dBのクリーン・ゲインを提供するのでダイナミック・マイクやリボン・マイクの使用に最適”とあるので、今回はSHURE SM7Bでチェック。ゲインを52dBまで上げて小さめの音を録っても、非常にクリーンなサウンドを得られました。これはオーディオI/O単体だとハイエンド機の内蔵プリアンプでなければ実現できない音だと思います。

 

 続いてMOJO STYLEのトグル・スイッチを“THUMP”側にしてMOJOノブを上げていくと、低域の倍音が足されて“ドスッ”とした感じの音になります。私が個人的に好んで使っているUNIVERSAL AUDIO UADプラグインのベース・レゾナンス・ツール=Little Labs VOGに似た効果を得ることができました。ベースやバス・ドラムなど、低音楽器にとても効果的。実際にベースをライン入力してMOJOノブを12時くらいまで上げていくと、存在感がグッと出てきて良い感じになりました。次にスイッチを“CREAM”側にしてみると、先ほどとは打って変わって柔らかくも“シャキッ”とした印象の音になります。こちらは高域の倍音が増えつつも、耳に痛くない音質。チューブ・プリアンプっぽさを感じます。ボーカルやコーラスはもちろん、シンセなどのライン録音にも良いですね。シンセに使うとなると2chモデルのCamden EC2も欲しくなってしまいますが、本機で頑張りたい場合は、いったん普通にステレオで録ったシンセをL/Rで1回ずつリアンプならぬ“リMOJO”しましょう! 場合によってはゲインを思いっ切り上げてひずませてみるのも良いと思います。

 

 続いてミキサー/ヘッドフォン・アンプの性能をチェックしていきます。リアのAUX入力L/RにDAWのプレイバックを入力すれば、プリアンプおよびEXT INを合わせて最大4chの入力をミックスし、ヘッドフォンからモニターできます。ヘッドフォン・アンプの音質が極めてクリアかつフラットなので、単純にミックス/マスタリングでも、こちらでモニターすることをお勧めします。

 

 このようにCamden EC1は、1台で2種類のサチュレーションを付加できるプリアンプ/DI/リファレンス用ヘッドフォン・アンプとしてさまざまな場面で活躍するでしょう。普段使い慣れたオーディオI/Oを買い換えずに、グレード・アップさせるにはうってつけの機材だと思います。

 

濱本洋平
【Profile】フリーランスでPAやレコーディングを手掛けるエンジニア。これまでに集団行動やSHE IS SUMMER、GARLICBOYS、 あっぱ、Vampilliaなど、多くのアーティストのライブや作品に携わる。

 

CRANBORNE AUDIO Camden EC1

オープン・プライス(市場予想価格:88,000円前後)

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SPECIFICATIONS
▪入力インピーダンス:8.9kΩ(マイク48Vオフ)、5.4kΩ(マイク48Vオン)、24.3kΩ(ライン)、1.5MΩ(Hi-Z、アンバランス)、3MΩ(Hi-Z、バランス) ▪出力インピーダンス:150Ω(バランスXLR)、150Ω(バランス/TRSフォーン、75Ω(アンバランス・フォーン) ▪最大入力レベル:+17.6dBu(マイク、<0.003% THD)、+26.5dBu(ライン<0.02% THD)、+24dBu(Hi-Z、<0.02% THD) ▪最大出力レベル:+27.5dBu(バランスXLR、<0.002%THD、30dBゲイン)、+21.5dBu(TRSフォーン、<0.002% THD、30dBゲイン) ▪最小ゲイン:8dB(マイク)、0dB(ライン)、3dB(Hi-Z) ▪最大ゲイン:68dB(マイク)、60dB(ライン)、63dB(Hi-Z) ▪外形寸法:220(W)×44.45(H)、240(D)mm ▪重量:1.8kg

 

製品情報

 

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