BLACK LION AUDIO Auteur DT レビュー:シカゴ発のブティック・メーカーによるデスクトップ向け1chマイクプリ/DI

BLACK LION AUDIO Auteur DT レビュー:シカゴ発のブティック・メーカーによるデスクトップ向け1chマイクプリ/DI

 BLACK LION AUDIOは、シカゴ発のオーディオ・ハードウェアのブティック・ブランドです。高級機材のサウンドをロープライスで提供しようという開発姿勢で、魅力的な製品を次々とリリースし、今とても注目されています。今回は、そんな同社が“BLAスタイル”と銘打って世に放つ小型1chマイク・プリアンプ/DIのAuteur DTを試していきます。

VUメーターとLEDの視認性が良い

 外観は黒を基調とした落ち着いたデザインで、必要十分のツマミやスイッチを機能的に配置。VUメーターやウッドのサイド・パネルも相まって、デスクトップに置いたときに、とても質感高く上品に感じます。

 フロント・パネルには、左側にゲイン・ツマミ、中央上段に+48Vファンタム電源、位相反転、−10dBのPAD、Hi-Z楽器入力を有効にするための各スイッチ、それぞれのオン/オフを示すLEDがスタンバイ。下段には電源スイッチとHi-Z楽器入力(フォーン)、右側にはVUメーターを有しています。VUメーターとLEDにより、入力信号レベルや機材の状態を明確に把握することが可能です。録音レベルのオーバーや、位相反転スイッチなどを意図せず押し込んだまま録ってしまった……といった失敗を防げるのでありがたいですね。

フロント・パネル。左にはゲイン・ツマミがあり、中央上段には+48Vファンタム電源、位相反転、−10dBのPAD、Hi-Z楽器入力を有効にするための各スイッチ、それぞれのオン/オフを示すLEDが備わっている。下段には電源スイッチとHi-Z楽器入力(フォーン)、右にはVUメーターを装備

フロント・パネル。左にはゲイン・ツマミがあり、中央上段には+48Vファンタム電源、位相反転、−10dBのPAD、Hi-Z楽器入力を有効にするための各スイッチ、それぞれのオン/オフを示すLEDが備わっている。下段には電源スイッチとHi-Z楽器入力(フォーン)、右にはVUメーターを装備

リア・パネル。左から、ACアダプターの入力端子、TRSフォーン出力端子、XLR入力端子

リア・パネル。左から、ACアダプターの入力端子、TRSフォーン出力端子、XLR入力端子

出力段にアメリカ製のトランスを搭載

 ゲイン・ツマミには“0dB~60dB”という表記がありますが、テスト信号を入力して出力レベルを測定/確認したところ、絞りきり時で既に+10dBのゲインを持っており、右に回しきることで+60dBのゲインを持つということが分かりました。-10dBのPADスイッチを併用することにより、最大0~60dBのゲイン幅で使用できます。

 内部構造におけるAuteur DTの最大の特徴は、集積回路ベースのハイスピードかつワイド・レンジな増幅ステージに、アメリカ製のトランスと、NICHICON及びVISHAY製のコンデンサーを使用したビンテージ・スタイルのトランス・カップルド出力ステージを組み合わせている点でしょう。一般的に出力段にトランスが入っていると、倍音が豊かになったり、わずかなひずみ感が付加されたり、音量的ピーク部分が良い意味で少しなまったりします。そして、それらの相乗効果により得られる質感や音の太さが、トランスを搭載した機材の魅力でしょう。筆者も含めベーシストは、とにかくトランスの入っている機材を通した音を好む人が多いと思います。

低音楽器の低域がまとまり粒立ちが良くなる

 まずは、Hi-Z楽器入力にパッシブ・ジャズ・ベースをつないで聴いてみます。音の粒立ちが良くなり、出力段のトランスの効果を感じます。低域のだらしなさがうまくまとまった、伸びやかで心地良い音です。また、私の場合、音の立ち上がりが遅いと弾いていて重く感じて疲れてしまい、速いとグルーブに乗りづらいのですが、この点もちょうど良く、弾いていてとても楽しいです。比較のために、普段使用している別のDIをAuteur DTのマイク入力に接続してみると、よりトラッドな音になる印象。Hi-Z入力に直接挿した方が、わずかなドンシャリ感がありモダンな音に感じました。

 次に、マイクをつないで声でチェックしてみます。明瞭感があり、中高域(4~7kHzくらい)のきらびやかさを感じる音です。楽曲のメインとなるボーカルや、楽器のソロ・パートに良さそうだと思いました。低域がわずかにスッキリするので、鼻で響くモワッとした感じの声なんかも、奇麗に録ってくれます。部屋の暗騒音をあまり拾わず、声や楽器に対してきちんとフォーカスしてくれるので、外来ノイズが多い宅録にも使いやすいでしょう。

 さまざまなマイクを使用して、声だけでなくピアノやウッド・ベース、小物打楽器などいろいろ試してみましたが“明るくパンチがある音”というのは、共通して感じる印象でした。特にウッド・ベースは、ボディの箱鳴りにより不明瞭になりやすい楽器なのですが、箱鳴りに埋もれずに音の芯が出るのがとても良いなと感じました。低域が過多になりがちな低音楽器の音をうまくまとめてくれるので、大音量で演奏するライブなどにおいても、扱いやすい音になると思います。

ボーカルやソロ・パートに存在感を与える目的でも使える

 価格帯的にも、オーディオ・インターフェースのマイクプリの録り音にいまいちグッとこなくて、単体のマイクプリの導入を検討し始めていたような人にとって、有力な選択肢の一つになるでしょう。オーディオ・インターフェースのマイクプリは何でも録れるようにとかく無難なキャラに作られていますから、オケの中で存在感を出したいボーカルや楽器のソロ・パートの録音は本機で、といった運用もお勧めです。

 そして、PADスイッチをオンにしてゲイン・ツマミを絞ると、ライン・レベルの信号も受けることができます(本機を通すと数dBレベルが上がるため、場合によっては送り出す際に少しレベルを下げる必要があります)。録音済みのトラックを本機に送って戻すことで、出力トランスのキャラをトラックに付与するといった、上級者も楽しめるような奥深さもありますので、広く長く深く使ってもらえるデバイスなのではないかなと感じました。

 

芹澤薫樹(せりざわしげき)
【Profile】レコーディング・エンジニアを経て、セッション・ベーシストとして多数の作品やステージに参加。現在は演奏活動を軸としながら、ジャズ・アコースティック系作品の録音やミックスも手掛けている。

 

BLACK LION AUDIO Auteur DT

オープン・プライス

(市場予想価格:39,600円前後)

BLACK LION AUDIO Auteur DT

SPECIFICATIONS
▪プリアンプ・タイプ:ソリッド・ステート ▪チャンネル数:1 ▪周波数特性:10Hz〜30kHz ▪PAD:−10dB ▪電源:AC24V、500mA電源アダプター(PSE準拠) ▪外形寸法:157(W)×49.2(H)×171(D)mm ▪重量:1.04kg

製品情報

関連記事