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TWICE プロダクション・レポート【前編】〜世界を席巻するガールズKポップの制作術とは?

TWICE プロダクション・レポート【前編】〜世界を席巻するガールズKポップの制作術とは?

世界的なエンターテインメント産業へと発展しつつあるKポップ。そのブームの中枢を担うアイドル・グループTWICEの3rdアルバム『Formula of Love: O+T=<3』がリリースされた。このアルバムの制作について、JYPエンターテインメントのA&Rキム・ジェーン氏とエンジニアのイ・テソプ氏へインタビューを敢行。世界を席巻するKポップのサウンドがどのように生み出されたのか紐解いていこう。

JYPエンターテインメントのアイドル・グループ

 Kポップは、いわゆる“韓流”の一つである。世界に韓流というものが知られるようになったのは、1990年代初めのことだ。最初は徐々にであったその流れは次第に大きな波となり、韓流は今やハリウッドの地位すら脅かしかねない世界的なエンターテインメント産業へと成長している。

 この韓流ウェーブの中心にあるのがKポップだ。その成功は、若いバンドやアイドル・グループによりけん引されている。代表格がBTSであり、TWICE、BLACKPINK、TOMORROW X TOGETHER、Stray Kids、ENHYPEN、NCT127、ATEEZ、SEVENTEEN、ITZYなどが後に続いた。大文字のグループ名が特徴的で、カラフルで明るく元気なイメージを前面に押し出したプロジェクトが多い印象を受ける。

 多くの人気グループを生み出してきた韓国の音楽産業は、基本的に4つの会社によって独占されていると言ってよい。JYPエンターテインメント、SMエンターテインメント、YGエンターテインメント、HYBEエンターテインメントの4社で、それぞれ韓国の著名な音楽プロデューサーによって設立された。HYBEエンターテインメント以外の3社はそれぞれ創設者のパク・ジニョン、イ・スマン、ヤン・ヒョンソクのイニシャルを社名に冠しており、この3名はプロデューサーとしてだけではなく、シンガー・ソングライターとしても知られている。

 今回は、JYPエンターテインメントに所属する9人組女性アイドル・グループ=TWICEの3rdアルバム『Formula of Love: O+T=<3』についてのレポートだ。このアルバムは、ビルボードのワールド・アルバム・チャートで1位、ビルボード200で3位を獲得している。アルバム・タイトルのOは“ONCE”と呼ばれるTWICEのファンのこと。したがって“O+T=<3”というのは、“ONCE+TWICE=ハート形=ラブ”を意味しているという。この作品のA&Rを務めたキム・ジェーン氏とミックスを手掛けたイ・テソプ氏に話を聞くことができた。

英語の曲や過去に無いジャンルを取り入れた

 キム・ジェーン氏とイ・テソプ氏は、結成当時からTWICEにかかわっている。キムはニュージャージー州出身の韓国系アメリカ人だ。バークリー音楽大学バレンシア校にてA&Rとミュージック・ビジネスの修士号を獲得。2009年にJYPエンターテインメントに入社し、Wonder Girlsのマネージャーを担当した。Wonder Girlsはビルボード・アーティスト・ホット100に初めて選ばれた韓国グループで、Kポップが西洋に進出するパイオニアとなった。2014年以降はA&Rとなり、2PMやITZYなどを担当。現在はTWICEを含む複数のアーティストを担当する。キム氏はTWICEにおける彼女の役割や、『Formula of Love: O+T=<3』の制作について語った。

 「私がチームやグループの方向性について提言することもありますが、最終的には皆が一緒になって意思決定を行います。大きなチームが一体となって動くのです。JYPエンターテインメントの創業者、パク・ジニョンも制作に非常に深くかかわっていますし、ときには実際に曲を作ったりプロデュースをしたりもします。一方でアルバムの各トラックについてはチームに全幅の信頼を寄せてくれています」

JYPエンターテイメントのキム・ジェーン氏

JYPエンターテイメントのキム・ジェーン氏。リミックスを含む『Formula of Love: O+T=<3』の全曲においてA&Rを担当した

 『Formula of Love: O+T=<3』の制作には、欧米のプロデューサーもかかわっている。ブルーノ・マーズやジャスティン・ビーバーの作品で知られるステレオタイプス、同じくジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデの楽曲を手掛けたトミー・ブラウン、それにタイニー・テンパーの作品で知られるイギリス人プロデューサーのシフトキーがそうだ。

 「世界中のファンに向けて、英語の曲や今までに無いジャンルの曲を取り入れたりと、新しいことにチャレンジしました。とても大変でしたが、非常に楽しい仕事でしたよ。アルバムの準備中は、各方面と頻繁にコミュニケーションを取るようにしています。TWICEのメンバーとは音楽的にどういうものにしたいのかを相談しました。彼女たちからは3、3、3のユニット形式はどうかとの提案があったんです。ライブでよりバリエーションを持たせたいということでしたね」

レコーディングは社内のスタジオで行われる

 通常レコーディングは社内のスタジオで行われる。“ブルー”“レッド”と呼ばれるミックス用のスタジオに加え、レコーディング用のスタジオが4つあり、それぞれ“ホイットニー・ヒューストン”“ジェームス・ブラウン”“スティーヴィー・ワンダー”“プリンス”と名付けられている。どのスタジオにもUNIVERSAL AUDIO Teletronix LA-2A、PURPLE AUDIO MC-77、AMS NEVE 1073DPAといった機材を備えており、共用機材としてNEVE 1073やNEVE 1084などのビンテージ機材も用意してあるという。イ氏が詳細を話してくれた。

 「ブルー、レッド、ホイットニー・ヒューストンの3スタジオのモニターは、AMPHION Two18とBaseOne25を組み合わせています。スティーヴィー・ワンダー・スタジオではBAREFOOT SOUND MicroMain26、プリンスとジェームス・ブラウン・スタジオではGENELEC 8351Aを使っています」

JYPエンターテインメントのチーフ・エンジニア、イ・テソプ氏

『Formula of Love: O+T=<3』のレコーディングとミックスを手掛けたイ・テソプ氏。写真のスタジオは、JYPエンターテイメント内にあるブルー・スタジオ。アルバムのリード・シングルである「SCIENTIST」のミックスはここで行われた

 『Formula of Love: O+T=<3』のレコーディングの大部分は、ジェームス・ブラウン・スタジオで行われた。エンジニアは計6名で、イ氏の管理下で進められたという。ボーカル録りの際には、イ氏が各エンジニアにどういう機材をどのように使うのか指示を出していたそうだ。

 「TWICEのレコーディングで使用したマイクはTELEFUNKEN Ela M 251Eだけでした。TELEFUNKEN U47やSONY C-800G、MANLEY Reference Goldも試しましたが、Ela M 251 Eは9人全員にバッチリハマったんです。これを1073とTeletronix LA-2Aを通して録りました」

 レコーディング後のプロダクションやエディットは、社内で行われることもあれば社外に委託することもあるという。キム氏はなるべくすべてを社内で賄いたいと思っているそうだ。

 「レコーディングからマスタリングまでコンスタントなサウンドをキープしたいんです。JYPエンターテインメントでは多くのアーティストがさまざまな作品をリリースしているので、A&Rにはそれぞれの曲にベストなミックス・エンジニアを割り当てることが求められます。『Formula of Love: O+T=<3』のリード・シングル「SCIENTIST」についてプロデューサーに相談したところ、テソプが指名されました」

「SCIENTIST」のベース・ヘビーな曲調にイ氏のユニークなサウンドがフィットした

 イ氏はソウル出身。彼の音楽活動はバンドでギターを演奏することから始まった。13歳のときに両親の都合でモスクワに移住し、後にモスクワ大学に入学。10年後には韓国へ帰国し兵役に服し、その後韓国随一の音楽教育機関であるソウル・ジャズ・アカデミーに入学を果たす。そこでエンジニアリングを学んだという。なぜエンジニアを志したのか尋ねると、イ氏は次のように語った。

 「世界を見渡すと素晴らしいギタリストが山ほどいますからね。ギターで生計を立てるのは無理だと思ったんです。ソウル・ジャズ・アカデミーを卒業した後は2つのスタジオに勤め、2013年にはJYPエンターテインメントのチーフ・エンジニアに就任しました」

 『Formula of Love: O+T=<3』には7名のミックス・エンジニアがクレジットされており、中には2名のアメリカ人の名前もある。トニー・マセラティとケビン・デイビスというスター・エンジニアだ。サーバン・ゲネアの右腕として知られるジョン・ヘインズが、収録曲の「The Feels」にてイマーシブ・ミキシングとしてクレジットされているのも面白い。イ氏は「SCIENTIST」を含む3曲のミックスを担当した。彼がリード・シングルのミックスを会社から託されたのは大きな意味を持っているように思えるが、これはごく普通のことだそうだ。イ氏はそのユニークなサウンドで知られており、「SCIENTIST」のベース・ヘビーな曲調によくマッチしたという。

 「僕はロックが大好きで、そこから大きな影響を受けています。すべてがラウドでノイジーな感じで、さらにきっちり整理されてしかるべきところに配置されている感じが好きなんです。バランスがしっかり取れていないと駄目なんですよ。ヒップホップに影響を受けた楽曲を扱うときは、常にボーカルが出過ぎないようにし、代わりにキックとスネアを強調するんです。よりロックな感じになるようにね。ただしヒップホップの流れの中に収めることは意識します」

 

 

インタビュー後編(会員限定)では、 イ氏がミックスを手掛けたアルバムのリード・シングル「SCIENTIST」の制作にフォーカス。160トラックにも及ぶPro Toolsセッションから紐解きます。JYPスタジオに備わる機材にも注目です!

Release

『Formula of Love: O+T=<3』
TWICE

Musician:ナヨン(vo)、ジョンヨン(vo)、モモ(vo)、サナ(vo)、ジヒョ(vo)、ミナ(vo)、ダヒョン(vo)、チェヨン(vo)、ツウィ(vo)、ソフィア・パエ(cho)、メラニー・フォンタナ(cho)、他
Producer:アン・マリー、メラニー・フォンタナ、ミシェル・リンドグレン・シュルツ、トミー・ブラウン、スティーブン・フランクス、72、ステレオタイプス、シフトキー、他
Engineer:イ・テソプ、トニー・マセラティ、ケビン・デイビス、他
Studio:ジェームス・ブラウン、ブルー、他