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ザ・キッド・ラロイ【後編】収録曲「ゴー」のミックスを詳細解説! Pro Tools画面&使用プラグインを公開

ザ・キッド・ラロイ【後編】収録曲「ゴー」のミックスを詳細解説! Pro Tools画面&使用プラグインを公開

2003年生まれの新たなヒップホップ・スター
全米3位を記録したアルバムをミックス・エンジニアが語る

マイリー・サイラスをゲストに迎えた「ウィズアウト・ユー(マイリー・サイラス・リミックス)」が全世界で大ヒット中のザ・キッド・ラロイ。2020年11月にリリースした『ファック・ラヴ(サヴェージ)』はビルボード200で3位を記録している。エルトン・ジョンから熱いラブ・コールを受けるなど、いま最もホットな17歳と言えるだろう。今回取り上げる収録曲「ゴー」のミックス・エンジニアはクリント・ギブス氏。近年高い評価を受けている彼のミックスは、強力で確固としたローエンド・サウンドが特徴的だ。実際に使用されたプラグインを中心に、そのミックス・テクニックを掘り下げていこう。

Text:Paul Tingen Translation:Takuto Kaneko

 

インタビュー前編はこちら:

 

ドラムはパラレル処理で強めにコンプレッション
シンバルはドラムとは別のグループとして扱う

 彼が解説に選んだのは、アルバムの中での最初のシングル・カット、ジュース・ワールドが参加した「ゴー」だ。そのPro Toolsセッションの最上部には、マスター・セクションが備えられている。まずはMETERというトラックにPLUGIN ALLIANCE Brainworx BX_Meterがインサートされ、それからバウンスしたミックスのトラック、そしてMasterとSubというトラックが並ぶ。その下にはドラムなど各パートに対応したVCAトラックを10tr配置。グループAUXトラックも13trあり、VCAトラックとほぼ同じ構成だ。追加されているのはD-CRUSH、VOCAL REAR、Kick Paraの3tr。そこから下に各パートのトラックが並び、エフェクトAUXトラックがそれぞれに用意されている。セッションの最下部にはエフェクト用のAUXトラックが14tr備えられているが、そのうち11trはセッションに最初から入っていたもので、ギブス氏が追加したのはリバーブとディレイ、フェイザーの3trだ。

 

 「VCAトラックは、そのすぐ下のグループ・トラックをコントロールしています。私のテンプレートの一部で、ミックスをスタートした初期に全体のゲイン構成をコントロールするために使っています。大体の場合にはすべてが超ラウドな状態で届くので、VCAトラックを使って全体のレベルをあらかじめ下げておくんです。グループの構成は、直前にやっていた別の曲のミックスとある程度同じにしています。曲が変わっても一定の感覚を保持していたいですからね」

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「ゴー」編集ウィンドウの一部。画面中央にあるのが各パートに対応した10trのVCAトラック(赤枠)。その下にグループAUXトラックが13tr用意されていて、さらに画面外に各パートのトラックがある。ドラム、パーカッション、ROLAND TR-808、シンセ・ベース、ギター、ストリングス、ラロイのリード・ボーカルとバッキング・ボーカル、ジュース・ワールドのリード・ボーカルとバッキング・ボーカルの順で配置されている

 ドラムのサウンドは既に素晴らしい仕上がりだったとギブス氏は語るが、特に集中して処理したのはキックとのことだ。

 

 「ここに居てほしい、と感じた場所に据え付ける作業ですね。キックにはFABFILTER Pro-Q2を使っていますが、これはローカットと400Hz辺りをカットするために使っています。それからWAVES Renaissance CompressorとWAVES SSL E-Channelを使いました。SSL E-Channelはキックに使うスタンダードなプラグインですね。WAVES Renaissance Bassもありますが、これはローエンドをさらに足しつつサステインを伸ばしたかったからです。加えてKick ParaというAUXトラックがあり、これはWAVES DBX 160とPLUGIN ALLIANCE SPL Vitalizer MK2-T、UNIVERSAL AUDIO SPL Transient Designerを使ってパンチを足すためのものです。それからスネアにAIR Stereo Widthを使って少しだけワイドにしました」

 

 Kick 

EQ処理でクリック感をカット
ローエンドはサステインを強調

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FABFILTER Pro-Q2。ローカットと400Hz辺りをカットするために使用。この後段にはWAVES Renaissance Compressorを使用している

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キックに使うスタンダードのプラグインというWAVES SSL E-Channel。ギブス氏は「ローエンドを足しつつ2kHz近辺のクリック感のあるアタックをカット。それから8kHzを足し小さなスピーカーでもしっかりと聴こえるようにしました」と語る

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WAVES Renaissance Bass。ローエンドをさらに足しつつサステインを伸ばすために使用。周波数は78Hzにセットされている

 

 グループ・トラックに使っているプラグインはギブス氏のテンプレートからそのまま使っているとのことだが、それぞれのトラックでは必要に応じて追加しているという。

 

 「ドラムのグループ・トラックに使っているものはそこまで必須と言えるものではなく、FABFILTER Pro-Q3とCYTOMIC The Glue、それからPLUGIN ALLIANCE Black Box Analog Design HG-2でサチュレーションを少し加えます。MASSEY PLUGINS L2007 Mastering LimiterをかけてからSTILLWELL Event Horizonでクリッピングを足しています。どれも最小限の設定でしか使っていません。それよりドラムの処理で重要なものはDrum-Crushというパラレル処理を行っているトラックです。The Glueでかなりのコンプレッションをしています。シンバルのトラックにはJOEY STURGIS TONES JST Clipを使ってサチュレーションをかけ、パーカッションにも同様の処理を行いました。普段からシンバルはメインのドラムとは別のグループにまとめることが多く、これはドラムのグループ・エフェクトをキックとスネアに集中してかけたいからです。そこに必要に応じて好きなだけシンバルを足していきます」

 

 Drum-Crush 

ドラムを前に押し出す
パラレル処理のコンプは強めに

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ドラム・グループのパラレル処理用トラック、Drum-Crushで使用されているFABFILTER Pro-Q3。400Hz辺りを3dBカットしている

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CYTOMIC The Glue。メインのドラム・グループ・トラックでも使用しているが、Drum-Crushではより強めにコンプレッションをかけている

 

ギターはサチュレーションを重ねてタイトに
グループ・トラックで倍音を足し存在感を強調

 次はメインのギター・トラック、Main Melodyについてだ。

 

 「SOUNDTOYS Little Radiatorを使って中低域にサチュレーションを足しています。こうすることで全体を少しだけタイトにすることができます。ここにさらにサチュレーションを足したかったのでFABFILTER Saturnを追加で使い、それからPro-Q3で135Hz以下をなだらかにカットしつつ、400Hz周辺をカットしてミックス内での座りを良くしました」

 

 Main Melody 

サチュレーションで作る
タイトなギター・サウンド

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SOUNDTOYS Little Radiator。ギブス氏いわく「HEATノブはデフォルトのままだと少し過剰なので控えめに。Little Radiatorは元から既にノイジーなので、常にNOISEスイッチとBIASスイッチはオフにしています」

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Little Radiatorの後段でさらにサチュレーションを足すために使用されているFABFILTER Saturn。ディストーション・スタイルはWarm Tubeに設定されている

 

 最近のミックスではギターの存在感が増してきており、これが新しいトレンドになる予感がするというギブス氏。続けてギターのグループ・トラックについて語る。

 

 「ここにはUNIVERSAL AUDIO API Channel Stripを使っています。通常240Hzと5kHzをブーストして強調することが多いです。IZOTOPE Ozone 9のExciterも使って倍音をさらに付加し、比較的密度の高いミックスの中でも存在感が出るようにしました。ダイナミックEQのWAVES F6はリード・ボーカルをサイド・チェイン入力していて、ボーカルが出てきた際にギターが少し控えめな音になるようにしています。PLUGIN ALLIANCE Brainworx BX_Shredspreadも使って、サウンドをワイドにしましたね」

 

 Guitar Group 

ハイをブーストし
倍音を加えて存在感を演出

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UNIVERSAL AUDIO API Channel Strip。240Hzと5kHzをブーストして強調することが多く、またインプット・ゲインを突っ込んで全体を少しドライブさせることもよく使うテクニックとのことだ

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PLUGIN ALLIANCE Brainworx BX_Shredspread。ギブス氏は「サウンドをワイドにする類のプラグインの中でも特に素晴らしいものです」と語る

 

 ギブス氏はデータをもらった状態こそクライアントが欲しているサウンドだと考えているため、ボーカル・トラックのプラグインはほぼ受け取ったそのままのものを使っているという。その上で追加したプラグインについて語ってもらった。

 

 「まずAuto-TuneはAuto-Tune Proに置き換えます。そのほか、例えばジュース・ワールドのトラックにはWAVES Aphex Vintage Aural ExciterとOEKSOUND Soothe2を追加しました。ラロイのトラックでRXDとメモしてあるものはIZOTOPE RXを使い、リップ・ノイズやポップ・ノイズを除去したトラックです。ボーカル用にはテンプレートからエフェクトAUXトラックを3tr使っています。リバーブにはWAVES H-Delay、Pro-Q3、VALHALLA DSP Valhalla VintageVerbを、それからH-Delayを使った8分音符のディレイ、最後にPro-Q3とSOUNDTOYS MicroShiftを使用したBack Spreadというフェイザーのトラックです。それ以外のセッション下部にあるトラックはもらったセッションに元からあったものになります。Laroi Verseというグループ・トラックのプラグインも、ラロイのレコーディングで使われていたものです。それに対してLaroi Hookというグループ・トラックの方はすべて私が使ったプラグインで、普段のボーカル・ミックスに使っているセッティングをほぼそのまま用意しました。それぞれWAVES Renaissance Vox、WAVES C6、FABFILTER Pro-DS、MCDSP AE600、Soothe2となっています」

 

最終的なキックとベースの関係性を決めるのは
マキシマイザーのスレッショルド

 これらすべてのグループ・トラックはAll Masterトラックにまとめ、アーティストが試聴しやすいようにOzone 9を使ってEQ処理とマキシマイズ処理を行っている。ギブス氏によれば、マキシマイザーのスレッショルドが最終的なキックとベースの関係性を決めるとのことだ。ただ、ミックスしたものがマスタリング後に同じ結果になるとも限らないため、マスタリング・エンジニアにはスタッフ全員が聴いてOKを出したバージョンを送るようにしているという。

 

 「最終的にミックス・テープ全体をPro Toolsに取り込み、スキット(編注:ヒップホップのアルバムで曲間に挟まれる短い曲や語りのこと)を足した上で全体を並べました。どの曲にも次の曲につながる強力なアウトロがあり、この一連のシーケンス全体をバウンスし、その上で皆が満足できるまで修正をしていったんです。マスタリング・エンジニアのエリック・ラグは全体が超ラウドな素晴らしい仕上げをしてくれましたよ!」

 

 ラロイが『ファック・ラヴ(サヴェージ)』でオーストラリアのヒップホップ・コミュニティを代表する存在になったように、ギブス氏もスタジオ業界のスター・ロードを歩んでいくことになるのは間違い無いだろう。

 

 Master 

マキシマイザーのスレッショルドで
キックとベースの関係性を決める

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マスター・トラックのIZOTOPE Ozone 9 Maximizer。このスレッショルドでキックとベースの関係性を最終的に決定するという。Ozone 9 EQも併用されている。ギブス氏いわく「マスタリング・エンジニアにはここからさらに1dB下げたものを渡します。EQ処理やサチュレーションを足すなど、何かしらマスタリングでマジックが行われる余地を残すためですね」

 

インタビュー前編では、 ミックスに取り掛かるまでの準備や、その段階で解決すべき問題点、そしてミックスにおけるローエンドの役割を語っていただきました。

 

Release

『ファック・ラヴ(サヴェージ)』
ザ・キッド・ラロイ
ソニー

Musician:ザ・キッド・ラロイ(vo、rap)、ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン(rap)、タズ・テイラー(rap)、マシン・ガン・ケリー(rap)、コービン(rap)、リル・モジー(rap)、ジュース・ワールド(rap)、他
Producer:ハレド・ローハイム、オマー・フェディ、ドクター・ルーク、マシュメロ、ベニー・ブランコ、他
Engineer:クリント・ギブス、ジョン・カステリ、ドン・ロブ、他
Studio:THREE3ONE7、ザ・ギフト・ショップ、メイト、インターネット・マネー、他