SKY-HI インタビュー【後編】〜アルバム『八面六臂』より「Simplify Yourlife」「Oh s**t!!」のプロジェクト画面を公開!

SKY-HI インタビュー【後編】〜アルバム『八面六臂』より「Simplify Yourlife」「Oh s**t!!」のプロジェクト画面を公開!

SKY-HI3年ぶりのオリジナル・アルバム『八面六臂』を紐解くインタビュー後編。ここからは、自作トラックである「Simplify Yourlife」「Oh s**t!!」の制作過程や新設中のスタジオ紹介を通してSKY-HIの制作の核心に迫る。Web限定の撮り下ろしカットも掲載!

Text:Kanako Iida Photo:Hiroki Obara(*を除く)

インタビュー前編はこちら:

“部屋で一人”感を大事に空間系を作った

フィーチャリング・アーティストやプロデューサーが多数参加しつつも作品全体に統一された空気を感じます。

SKY-HI オリジナル・アルバムにしては自作トラックが多いかも。「Simplify Yourlife」は、THE SUPER FLYERS(編注:SKY-HIのハウス・バンド)のダンサーBFQのMoneyのライフ・タイム・テーマで、彼との会話から着想を受けて作りました。この曲は自分の中で数多くの実験をしましたね。デモは音が割れていてもそのまま使ったり、良い意味で結構粗いんですけど、好きなアプローチが全部できたし、逆に気に入ってます。ボーカルも本チャン用に録り直したんですけど、家で録ったテイクがすごく良くて少し混ぜました。最近レコーディングはほぼSTEINBERG Cubaseなんですけど、「Simplify Yourlife」は制作も声録りもABLETON Liveです。生々しさと打ち込みでしか作れないものを大事にしました。

 

サウンド面で特にこだわった部分はありますか?

SKY-HI トラップ以降の3連が混ざったハイハットに飽きてたから、新しいものにしたくてループを使うのを止めました。ハイハットの代わりに使えそうなサンプルをSpliceで探して、Liveで“カッカッカココ”と途中で音高を変えた打ち込みをしたのが気に入っています。自分を楽しませたくて作ってたところがあるから、自分の中では100点なんですよね。

 

空間の作り方に深みがありますね。

SKY-HI 数年後、コロナ禍に部屋で一人で作ったなって思い出したらめっちゃエモいと思って。その感じを忘れたくなかったので“部屋で一人”感を大事に空間系を作った記憶がありますね。打ち込みの音をスピーカーで鳴らして、それをマイクで録って使ったりもしたから部屋鳴りも入ってるし、リバーブもいろいろかけました。1バース目まではLive純正のリバーブをかけてますね。あとノイズも足してます。

 

何のノイズですか?

SKY-HI 2年前くらいに島根に行ったときにAPPLE iPhoneで録った水の音を加工しました。しかも神在月に行けたから、なんか良いなって。ロー感を足して音を汚したり、録った音のオーディオ・データをMIDIに変換してシンセを鳴らしたりしています。あとはIZOTOPE VocalSynthでサビを歌って、ハモとして成立する音高にして混ぜました。それも、スピーカーから流して録って1本にして使っています。

 

その後はどのように作ったのでしょうか?

SKY-HI その音を敷いた状態でピアノのリフを弾いて、プラック系のシンセをいっぱい立ち上げて何かしようと思って。今は制作のルーティーンとしてSPECTRASONICS Omnisphereを最初に立ち上げることが多いですね。プリセットはそのときの巡り合わせで選んで、ほぼそのまま使っています。例えば、イントロのプラックはプリセットのCave Stalactites。サビから入ってくるAssault Bass Pluckは大当たりでしたね。あとダントツで好きなのがMuted Expectations。カリンバみたいな単音で、これを32分音符のアルペジエイターで打ち込みました。いろいろ試しに立ち上げてみては消してを繰り返して、100tr近くあったのに最終的に残ったのは22trでしたね。

 

Omniphereをかなり駆使されたのですね。

SKY-HI そのときにお気に入りのオールインワン・シンセを多用してバーっと作るスタイルは余計なことを考える時間が要らなくてすごく楽しいですね。オールインワン型ってそれぞれ膨大に入ってるから、OmnisphereならOmnisphere、REFX NexusならNexusで良い気がする。ただ、NATIVE INSTRUMENTS Kontaktは生音シリーズがあるから、どうしてもどこかでお世話になるんだけど。

 

「Simplify Yourlife」のデータはどのような状態でエンジニアに渡して、どのように依頼したのでしょうか?

SKY-HI マスタリングはマイク・ボッツィにお願いすると決めてたから、ある程度の状態なら大丈夫ではあったけど、ちょっと厄介になる点があったから(Ryosuke “Dr.R”)Sakaiさんにお願いしました。一つは、渡すデータではIZOTOPE OzoneでかけたMaximizerとかを外すんだけど、質感はそれらをかけているときの状態に近付けてほしいと。オール・ドライと全がけを送って、必要とあらば混ぜてくださいとお願いしました。もう一つは、普通ミックス・エンジニアはある程度整えた状態にしたいと思うんだけど、サビ前のリバース・シンバルやオケヒットを極端に大きくしたかったんです。ベロシティの差を作ってフックでいきなり音が大きくなるようにはしたいけど、聴いている人がびっくりしないような良い感じのバランスでとお願いしました。音楽制作は本当にノリと勘とバイブスだから、SOURCEKEYでも好き勝手やって最後はSHIMIさんに丸投げしてます(笑)。

 

ダンス・パフォーマンス・グループs**t kingzへ書き下ろした楽曲である「Oh s**t!!」も自作曲ですね。

SKY-HI 「Oh s**t!!」もOmnisphereの音色が多いけど、ギターの音とかはSpliceのものですね。メインの音はホーンを元にしてひずませたり、ローカットを効かせたりして作っています。あとは、トレモロっぽくなるようにサンプルを細かく切ったりもしました。自分の音は、幾つもユニゾンさせてひずませたり、ユニゾンで鳴ってる途中で急に1音だけにしたりするのが特徴かもしれないですね。その出音をミックスやマスタリングで優秀なエンジニアにそろえてもらうことで鳴りがちょっと特殊に聴こえるのでは、という気がします。

 

SKY-HI's PROJECT & STUDIO

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 ここでは、SKY-HIがプログラミングから手掛けた「Simplify Yourlife」「Oh s**t!!」をピックアップ。ABLETON Liveで制作された2曲のプロジェクト画面とともに、その制作手法に迫る。また、事務所に現在構築中の新たなスタジオ・スペースもいち早く紹介。移動に伴い新規導入した機材とともに見ていこう。

Oh s**t!! feat. SKY-HI<s**t kingz>

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ABLETON LiveでSKY-HIが制作した「Oh s**t!!」のプロジェクト・データの一部。SPECTRASONICS Omnisphereのさまざまな音色を各トラックに立ち上げて、それぞれをユニゾンで重ねた後にひずませるような音作りを行う。そのほか、音色を小刻みにすることでトレモロのような効果を生み出すなどのサウンド・メイクも施されている

Simplify Yourlife

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全22trから構成される「Simplify Yourlife」のABLETON Liveデモ・プロジェクト画面。ボーカル素材もLiveで録音したといい、上部のトラックにはアカペラ素材やSpliceのシンセ音色のオーディオ・トラック、トラック4以降にはOmnisphereのMIDIトラックが並んでいるのが見て取れるほか、IZOTOPE VocalSynthや自身が録音した環境音も使用。音作りには、EQ EightのプリセットであるDance Master、クリーン・ディレイのDelayといったオーディオ・エフェクトが使われている

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Omnisphereのプラック系音色Assault Bass Pluck。「Simplify Yourlife」ではサビ以降で使われている

New Studio

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机上にはAPPLE Mac Mini、MIDIキーボードのM-AUDIO KeyStation49 MK3、オーディオI/OのUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin X、モニター・ヘッドフォンのSONY MDR-CD900STが置かれている。マイクはAUSTRIAN AUDIO OC818、デスク横のラック・ケース上にはRUPERT NEVE DESIGNS R6の中に、API 500互換モジュールのマイクプリ511を配備。その上には、ヘッドフォン・ディストリビューターのPRESONUS HP4が置かれているのが見て取れる。デスクはZAOR Vision OS、スピーカー・スタンドにはZAOR Croce Standを採用している

 事務所の2階に新たにスタジオ・スペースを作っているSKY-HI。現在は従来のプライベート・スタジオと両方稼働しながら、そのシステム構築を進めている。ここでは、新規導入した機材を中心に紹介しよう。システムの中心となるのはAPPLE Mac Mini。MIDIキーボードは49鍵のM-AUDIO KeyStation49 MK3が設置されている。モニター・スピーカーは、これまでGENELEC 8030Bを使用していたが、GLMソフトウェアでの補正に対応した8330Aを導入。新スタジオで早速効果を発揮している。

 

 「これまでの部屋はカーペットや壁の感じを含めてデッドが作りやすかったんだけど、新しいスタジオは部屋鳴りが強過ぎて。どこにどのくらいの量の吸音材を敷くと良いのか、どこにボーカル・スペースを置くのかとか、まだ検証できてないから、補正のおかげで助かっています」

 

 オーディオI/Oは、UNIVERSAL AUDIO Apollo Twin MK2からApollo Twin Xへ更新。マイクは、これまで使ってきたMANLEY Reference Cardioidに加え、現在新スタジオではAUSTRIAN AUDIO OC818が設置されている。さらに今後導入したいマイクについて、THE FIRSTプロジェクトで使われたマイクのエピソードを交えてSKY-HIはこう語った。

 

 「THE FIRSTの合宿所では、ライブDJ兼マニピュレーターのHIRORONに移動型スタジオを持ってきてもらって、SHURE SM7Bでみんなの声を録っていました。コンプが強めにかかるのでラッパーに向いていますね。あと、最近気になっているのが、SOUNDELUX USA U99です。HIRORONに本チャンRECのときにたまに持ってきてもらっていたのがすごく良かったんです」

 

 今後、このスタジオがどのような進化を遂げ、どのような楽曲が生み出されていくのか引き続き注目していきたい。

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よりオルタナティブな人になっていきたい

今後はどのような作品を作っていきたいですか?

SKY-HI 『八面六臂』はマイク・ボッツィのおかげもあって、誰が何と言おうと音像で満足しているところがあるのでハッピーなんですけど、アーティストとして作りたい音楽は明確にあって。今はオーセンティックなサウンド……例えばトラップ・マナーでヒップホップをやるとか、生ドラムでロックをやるとかいう方向にあまり興味が無くて、変なことをいっぱいしたくてしょうがないんですよ。最近はビーツ&ライムよりアルティメット・インディーとかのプレイリストを聴く方が驚きがあって。よりオルタナティブな人になっていきたいですね。

 

最後に、これから前へ進もうとしているトラック・メイカーやラッパーへのアドバイスをお願いします。

SKY-HI 一発の出会いで人生が劇的に変化するシンデレラ・ストーリーのようなことが本当にあったりするんですよね。それは数年前のJP THE WAVYみたいなことかもしれないし、TOKYO DRIFTの重盛(さと美)ちゃんみたいなことかもしれない。自分の場合はものの半年でトラウマを解消するような出会いがあったし、THE FIRSTで出会った彼らも1年前は面識の無かった俺と、同志のような存在として巡り合っている。そういうことがあるので、不服で無いのであれば黙々と作り続けてそれを世の中に出し続ければいいわけだけど、今居る場所が不服であれば、飛び出してやり直す、生まれ直すということが可能な時代だから、すごく夢があると思うんですよね。あとは、極力嘘を言っていない人と一緒に居た方がいいよっていう。人が3人以上かかわると社会だし、そこにはやっぱり裏切りとか謀りとかあると思うので気を病むことも少なくないと思いますが、誰ともかかわらず1人で音楽を作ることも可能な時代だし、かかわったとて100人そういう人が居ても101人目にどういう人が居るか分からない。ものが良ければでしょうけど、他者に依存せず自分の作る音楽にのみ誠実であれば、自分と同じように自分の音楽に誠実に向き合ってくれる人といつか出会うのは割と道理じゃないですかね。

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インタビュー前編では、 アルバム『八面六臂』の制作経緯や、プロデューサー/フィーチャリング・アーティストとの制作過程について話を伺いました。

Release

『八面六臂』
SKY-HI
エイベックス:
AVCD-96818(CDのみ)
AVCD-96816/B(CD+DVD)
AVCD-96817/B(CD+ Blu-ray)

Musician:SKY-HI(vo)、SUNNY BOY(vo)、Shingo Suzuki(k、g、prog)、Tak Tanaka(g)、Michael Kaneko(g)、Aile The Shota(vo)、山岸竜之介(g)、山中拓也(vo、g)、ちゃんみな(vo)、RUI(vo)、 TAIKI(vo)、edhiii boi(vo)、DABOYWAY(vo)、Kan Sano(k、cho)、REIKO(vo)
Producer:SKY-HI、Ryosuke “Dr.R” Sakai、SUNNY BOY、Shingo Suzuki、hokuto、KM、☆Taku Takahashi、SOURCEKEY、Matt Cab
Engineer:Ryosuke “Dr.R” Sakai、SHIMI、D.O.I.、yasu2000、神部秀彰、Mitsunori Ikeda、Matt Cab
Studio:THE LAB -OVERTURE-、prime sound studio form、他

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