MUCCのミヤが『新世界』のミックスで駆使した新旧アウトボード群

MUCC

インタビュー前編では、アナログ・テープでのレコーディングをディープな視点で語ってくれたMUCCのミヤだが、ニュー・アルバム『新世界』のミックスはいかにして完遂したのか? 厳選されたアウトボードの写真とともに、その手法を公開してもらう。

Text:Tsuji. Taichi Photo:Hiroki Obara Cooperation:aLIVE RECORDING STUDIO

インタビュー前編はこちら:

1,000人分のコーラスをミックスした

「いきとし」はSSL SL4000Gでアナログ・ミックスされました。Pro Toolsでのミキシングとは、どのような違いがありましたか?

ミヤ テレコのパラアウトを卓に立ち上げてアウトボードなどで音作りする、というフル・アナログのミックスでは、一定区間をループ再生して何度も調整するようなことができません。だからテープを頭から回して、曲が終わるところまでで何とか調整を終えなくてはと思うんです。実際は、曲が終わったら巻き戻して、もう一回通しで調整しますけどね。ただ、“次の再生までにはここの処理を終わらせて……”とか考えるからクリエイティブにはなります。録音がアナログだったので、ミックスも1曲くらいアナログだと面白いかなと思ってやってみたんです。

 

ミヤさんはミックスの際、どのような手順で音作りをしていくのですか?

ミヤ 決まったやり方はないというか、曲によります。でも“ここのバランスが決まらないと全体像が見えない”という意味では、ドラムから手を付けることが多い。優先するのは、ドラムとボーカルですかね。

 

アルバムのラスト「WORLD」は、あれだけの多重コーラスが鳴る中でもドラムを粒立ち良く聴かせています。

ミヤ 俺がエンジニアである以上にミュージシャンだからなのかもしれませんが、聴かせたいものはキチッと聴かせたいんです。「WORLD」は、ファンから募集した1,000人分の声を使うという企画が絡んでいたので、そのコーラスを聴かせないといけないし、ドラムもベースもボーカルも聴かせたいということで、かなり苦戦しました。1,000人分の声のエネルギーって、ものすごいんですよ。

 

ボーカルとのすみ分けも難しそうですね。

ミヤ 歌詞の言葉単位でEQをかけたりしました。また、コーラスのうちボーカルと重複する帯域にだけカットEQを入れて、逆のところはブーストしたりとか。だからEQのオートメーションは、すごい動き方をしていますよ。今のデジタル環境では、そういうことができるので、出したい音が見えるようになるなら何をしてもいいと思っています。

 

ミヤさんは、オトループやDISCO VOLANTEといった後進バンドのエンジニアリングも手掛けています。MUCCでの音作りと変わらない姿勢で臨んでいるのでしょうか?

ミヤ 俺は、出ている音を忠実に録るタイプではないと思うんです。それよりは、音楽的なテイストをプラスして、より楽しく聴けるようにしたい。例えばリバーブをかけるにしても、視点が専業のエンジニアとは違うところにあるので、すごく派手にやる方だと思います。音響機器は俺にとって楽器のひとつだし、作った音を喜んでもらったりもするから、楽しくできるんだったらウェルカムです。

ラック最上段のプリアンプ、AMS NEVE 1073SPXは「低音のスピード感が現代的で、NEVEらしいキャラクターもある。その点でオールドNEVEとは違う魅力を感じます」と、ミヤが絶賛する一台。キック、スネア、ベース、ギターなど主要な楽器に多用しているそう。中ほどの2U機、HERITAGE AUDIO HA-609AはNEVEインスパイアのコンプ。ベースによく使っており「低音のスピード感がモダンな33609、という視点で探したところ、これに行き着きました」と語る

ラック最上段のプリアンプ、AMS NEVE 1073SPXは「低音のスピード感が現代的で、NEVEらしいキャラクターもある。その点でオールドNEVEとは違う魅力を感じます」と、ミヤが絶賛する一台。キック、スネア、ベース、ギターなど主要な楽器に多用しているそう。中ほどの2U機、HERITAGE AUDIO HA-609AはNEVEインスパイアのコンプ。ベースによく使っており「低音のスピード感がモダンな33609、という視点で探したところ、これに行き着きました」と語る

上から2つめのラックには、リバーブとして愛用しているYAMAHA SPX900とSPX90IIの姿が。「プラグイン・リバーブとは違い、きめ細かい響きでないからこそ良い……ダーティな質感で、ドラムなどに混ざると録音に使った部屋の響きみたいに聴こえるんです」とミヤ。『新世界』では、例えば「HACK」のドラムでSPX90IIのリバーブを聴くことができる

上から2つめのラックには、リバーブとして愛用しているYAMAHA SPX900とSPX90IIの姿が。「プラグイン・リバーブとは違い、きめ細かい響きでないからこそ良い……ダーティな質感で、ドラムなどに混ざると録音に使った部屋の響きみたいに聴こえるんです」とミヤ。『新世界』では、例えば「HACK」のドラムでSPX90IIのリバーブを聴くことができる

写真上のコンプはミヤのニュー・ウェポン、SSL The Bus+。SSL伝統のバス・コンプとモダンな機能を兼ね備える、といったコンセプトの一台だ。「アコースティック・ライブ配信やMUCCとは別のプロジェクトのミックスで使いました。クラシックなSSLバス・コンプよりエッジの効いた音で、ひずみ感の増強やステレオ・イメージング、ダイナミックEQなど、SSL Fusionに通じる現代的な多様性があります」と語る

写真上のコンプはミヤのニュー・ウェポン、SSL The Bus+。SSL伝統のバス・コンプとモダンな機能を兼ね備える、といったコンセプトの一台だ。「アコースティック・ライブ配信やMUCCとは別のプロジェクトのミックスで使いました。クラシックなSSLバス・コンプよりエッジの効いた音で、ひずみ感の増強やステレオ・イメージング、ダイナミックEQなど、SSL Fusionに通じる現代的な多様性があります」と語る

SSL SL4000Gコンソールのそばに置いたアウトボード群。上からCHANDLER LIMITED Germanium Pre Amp/DI、VESTA FIREのモジュレーションSF-100B、QUADEIGHTのコンプCL22、NEVEのコンプ33609/C×2台、VINTECH AUDIO製プリアンプ/EQのX73×4台

SSL SL4000Gコンソールのそばに置いたアウトボード群。上からCHANDLER LIMITED Germanium Pre Amp/DI、VESTA FIREのモジュレーションSF-100B、QUADEIGHTのコンプCL22、NEVEのコンプ33609/C×2台、VINTECH AUDIO製プリアンプ/EQのX73×4台

スネアやキックなどに使用しているプリアンプ/EQのNEVE 1066×6台

スネアやキックなどに使用しているプリアンプ/EQのNEVE 1066×6台

aLIVE RECORDING STUDIO常設のディエッサー、ORBAN 526A(写真中央の水色の機材)は「いきとし」のアナログ・ミックスで活躍

aLIVE RECORDING STUDIO常設のディエッサー、ORBAN 526A(写真中央の水色の機材)は「いきとし」のアナログ・ミックスで活躍

ミヤがプライベート・スタジオからaLIVE RECORDINGに持ち込んで使用していたGENELEC 8341A。独自のGLMシステムによる音場補正機能が重宝しているという

ミヤがプライベート・スタジオからaLIVE RECORDINGに持ち込んで使用していたGENELEC 8341A。独自のGLMシステムによる音場補正機能が重宝しているという

サンプル・レートの変換はStudio Oneで

今回はマスタリングまでミヤさんが手掛けています。

ミヤ ダイナミック・レンジやヘッドルームが大きい状態のミックスが多く、それがイアフォンなどで聴かれたときにマイナス・ポイントになり得ると思ったので、少し音圧を上げるような処理をしました。とは言え、サブスクリプション・サービス以降、音圧はそこまで重要だと思っていないので、メーター上のレベルはかなり小さいんです。セルフ・マスタリングは、自分との戦いですね。頑張って作り上げたファイナル・ミックスに手を入れるわけだし、「いきとし」に関してはBURL AUDIOのI/O経由でテープに落としたとき、“最高だ”って思っていたからなおのこと。そこから音圧だの何だのっていうのを考えたくなかったんです(笑)。

 

しかし過去作と聴き比べても、聴感上のレベルに大きな差を感じませんでした。

ミヤ それは今回のレコーディング環境による部分が大きいかもしれません。あと、マスタリングの音作りはPro Toolsで行ったんですが、96kHzから44.1kHzや48kHzへのコンバートはPRESONUS Studio One 5のマスタリング・プロジェクトでやっていて。コンバートの音質については、Pro ToolsよりもStudio Oneに分があると思うんです。96kHzと44.1kHzで全く同じ音にするのは不可能だから、そのギャップがなるべく少ないDAWを探したところ、Studio Oneに行き着きました。とても音の良いDAWだと思います。DDPファイルの作成もStudio Oneで行いました。

 

良い条件が噛み合って完成したアルバムとなりました。

ミヤ そうですね。気づいたら、みんな同じ方を向いていたという感じがあって。今回、実家にあるBECHSTEINのピアノをaLIVEに持ち込んで録ったんですよ。前からちゃんとしたスタジオで録音したいと思っていたから、念願がかないましたね。アルバム制作が走り始めたときは“これ、本当に完成するのかな”と思う部分もあったから、うまくまとまって何よりです。アナログへのこだわりやメンバーの動き方を含め、とても良いセッションになったと思っています。

MUCC

 

インタビュー前編(会員限定)では、『新世界』の大半の楽曲をアナログ・テープでレコーディングした経緯や、そのセッションの様子について話を伺いました。

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【Profile】逹瑯(vo/写真中央)、ミヤ(g/同右)、YUKKE(b/同左)から成るロック・バンド。叙情的なメロディを軸にしつつ、メタルコアからオルタナティブ/インディー・ロック、ダンス・ミュージックまで、多彩なサウンド・アプローチを実践してきた。国内の大規模会場/フェスはもちろん海外での活動にも積極的で、これまでに欧米、中国、南米などで計150本ものライブを敢行。アヴェンジド・セヴンフォールドやアトレイユら、海外のラウド・ロック・バンドと欧米をツアーした実績も持つ。

Release

『新世界』
MUCC
MAVERICK:MSHN-163(通常盤)

Musician:逹瑯(vo)、ミヤ(g)、YUKKE(b)、Allen “Michael” Coleman(ds、cho)、吉田トオル(p、org、k、cho)、千葉芳裕(conductor)、ゆりがおか児童合唱団(cho)、1000 MUCCER(amazing big cho)、他
Producer:MUCC
Engineer:ミヤ
Studio:aLIVE RECORDING、Baybridge、Sixinc Studio2、AVACO、Volta、Numabukuro Section9、SM Studio HKT

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