音楽と小説を組み合わせた制作を行うことでストーリー性のある楽曲を生み出すプロデューサー、じん。メディア・ミックスでの表現も追求し、『カゲロウプロジェクト』から派生したアニメ『メカクシティアクターズ』に携わるなど活動の幅を着実に広げてきた。そんなじんによる新しい作品は、なんとギター・アンプがロボットに変形するアニメ『LISTENERS』。ストーリー原案&脚本から音楽プロデュースも手掛けたじんに、制作プロセスと使用機材について語ってもらった。
Text:Mizuki Sikano
アニメ・ソングとしてではなく
音楽単体で魅力的なものを作りたかった
ー『LISTENERS』のスタートはどういうところから?
じん まず2014年に、音楽をテーマにしたアニメ企画をやろうという話からスタートしました。そこから『LISTENERS』の企画を考え始めたんです。このときにロボットが登場する物語を作りたいと考えていたので、プレイヤーがギター・アンプをロボットに変身させて、ミミナシという謎の生命体と戦うという設定を考えました。主人公のエコヲ・レック(以下エコヲ)が旅路の中で“自分にとって音楽とは何なのか?”のアンサーを見つけるための設定です。エピソードごとに、アーティストにインスパイアされたキャラクターが登場して、音楽に対する考えを語ります。エコヲも数々のプレイヤーの信念に触れながら、自分自身の夢と音楽に対する信念を見つけていくんです。
ー脚本が完成したのはいつごろでしたか?
じん 脚本作りは2016年にスタートして、完成したのは2018年末ぐらいだったと思います。佐藤大さん、宮昌太朗さんとパス・ワークしながら書きました。各エピソードは、第1話がブリット・ロック、第2話がノイズ、第3話がシューゲイザーというようにさまざまな音楽ジャンルをフィーチャーしています。
ーほぼ一人で書いたエピソードもありましたか?
じん 第1話、第6話、第10話の脚本は僕がメインで担当しました。今回は劇伴にもプロデューサーとしてかかわっているのですが、第1話の冒頭の脚本を書いているときにエコヲのモノローグで鳴っているインダストリアルなBGMも一緒に浮かんできたんです。なので、アニメ監督に提出する脚本と一緒に劇伴のイメージとなるデモを提出したりもしました。劇伴制作は、L!th!umさんにお任せしています。
ー各話のエンディング曲はじんさんがプロデュースしたそうですね。
じん 基本的にはアニメ制作が終わったタイミングで、エピソード順に楽曲を作りました。第6話のエンディングだけは監督が絵コンテを描く段階で必要だということになり、早い段階でデモを作ったりもしましたね。
ー各エンディング曲を制作する上で大事にしていたことは何でしょうか?
じん アニメ・ソングとしてではなく、きちんと音楽的に優れたものを作ろうと意識しました。各エピソードのジャンル・テーマに引っ張られ過ぎるとストーリー全体のエンディングとしてふさわしくなくなってしまうので、音楽単体で聴いたときに魅力的なものを作りたいと思ったんです。
ドラムはエア成分まで収音するために
スタジオ録音しています
ー普段の音楽制作はどのように行っているのですか?
じん 一番よく行う方法はメロディを口ずさみながら、GIBSON Hummingbirdでコードを弾いて作曲を始めることが多いです。アコギではアプローチのできないコードを使いたいときはピアノを使います。デモ作りの手順は、メロディを打ち込んで、エレキギターを自宅の防音室とアンプ・ブースで録音します。アンプにつないで、マイクからANTELOPE AUDIO Orion32へ送り、STEINBERG Cubase Pro 10に録音する流れです。基本的には、ギターとベースとドラムと歌メロだけで楽曲の方向性のみを伝えるデモを作ります。それをアニメの制作チームに共有してOKが出たら本格的にアレンジを加えるんです。
ーシンセは何を使っているのですか?
じん ROLAND RD-700SXの内蔵音色を使用したり、ほかはソフト・シンセで弾いているものが多いです。NATIVE INSTRUMENTS Massive、Batteryと、SPECTRASONICS Omnisphere2のカリンバの音がお気に入りです。
ードラムやベースは?
じん ドラムやベースはデモ段階では打ち込みで行います。その後にドラマーやベーシストに演奏を依頼する場合は外のスタジオで録音しに行きますね。今回のベースは自分で自宅で弾いたものが多いです。エレキベースを弾いたものと、SPECTRASONICS Trilianをキーボードで弾いた音とあります。その都度ほかのパートとのバランスを見て、生音と打ち込みのどちらが良いかは共同編曲家のzukioさんと一緒に試聴しながら慎重に判断していきましたね。ドラムを収録した楽曲では、ヒトリエのゆーまおさんにたたいていただきました。エア成分までしっかり収音するためにスタジオ録音しています。
ー「Muse」のビートからは生音だけではなく、打ち込みの音もレイヤーされていますね?
じん レコーディングした生音と打ち込みのビートを波形編集したり、組み合わせたりしながらトラックを構築しました。ギターも収録したバッキングをDAW上で短く切り張りしてフレーズを作ったりしています。ちなみに「Muse」の編曲はzukioさんで、清涼菓子を振ってシャカシャカと鳴らした音をサンプリングして用いたり、逆再生音を混ぜたりと面白いことをしてくれています。アンプからシールドを引き抜いた音をサンプリングしたりもしましたね。
深みのある音を作るために
5本のギター・サウンドをブレンドした
ー曲作りで特にこだわっていることはありますか?
じん ギターの音色は一番こだわっています。今回はどのギターも家の防音室で録音しました。以前はスタジオでレコーディングしてミックスをお願いしてきましたが、頭の中で鳴っている音をイメージ通りに表現できないことも多かったんです。ミックスにおいても、エンジニアの聴かせたい部分と僕が聴かせたい部分は違うんだなと理解しました。なので今回は、自分でさまざまなアンプとギターとエフェクトを思う存分試して理想の音を作っていったんです。ギターやアンプを変えることで顕現するニュアンスの違いをもっと強く伝えるために、かなり綿密に作り込みました。そして、今回ミックスをお願いしたエンジニアさんには、ギターの音色だけはできる限りいじらないでほしいとお願いしましたね。僕もそのまま張り付けてミックスできるような音を作ろうと心掛けました。
ーでは、アンプへのマイキングなどもご自身で行っているのですね。
じん そうですね。マイクはROYER LABS R-121やSHURE SM57、SENNHEISER MD 421-II、PELUSO 22 251を使いました。聴者がアンプやギターの違いを感じられるように、マイクプリはMANLEY Dual Mono Mic Preampを使用しました。音の雰囲気を大幅に変えることなく、クリーンでよりマッシブな音で録音できるので気に入っています。
ー「Trauma」のギターは、エッジが効いていてブライトさを兼ね備えたサウンドが印象的です。
じん この曲のギターでは激しいプレイとブライトにコードを響かせることにこだわりました。計5本のギターを使用していて、どれも明るく聴かせるためにアンプでローカットをしてその後それぞれ異なる音作りをしています。例えば、L/Rで同じフレーズのバッキング・ギターを配置して、左側だけ少し軽めのサウンドに仕上げて組み合わせたりしているんです。ギター・アンプは3本のギターにSTERRATONES 100W Red Heartを使って、残る2本にはFENDER Band Master Two Rock Modを使っています。ひずみをコントロールするためにエフェクトにはファズのZ.VEX Fuzz Factory 7とVEMURAM Myriad Fuzz、ディストーション・ファズのようなBJFE Candy Apple Fuzzなどを使いました。中でもより変態的にひずませたいときは、音がブチブチと切れるFuzz Factory 7でピーキーな音にして、それをさらにブーストして使ったりもしています。ギターを弾かずにFuzz Factory 7の“キュウィギュイー!”というようなファズの音だけを録音してうっすら重ねて鳴らしたりもしていますね。
ーファズ以外はどのようなエフェクトを使用したのでしょうか?
じん Lchに配置した2本目のギターはハイゲインなサウンドにするためにディストーションのOVALTONE 34-Xtremを使いました。Rchに配置した2本目のギターにはディストーションのJHS PEDALS Angry Charlieを使っています。この音はあまり目立ちませんが、カレー作りにおける蜂蜜と林檎のような存在で、加えると音に深みが増しますし、無いとこの味は出せない必要不可欠な存在です。そして異なるサウンドで録音したギターを組み合わせてミックス・バランスを整えると、意外にもシンプルにまとまってくれます。
ーほかの曲でもギター効果的に聴かせるために工夫をしていますか?
じん 「Borders」のサビで鳴っているエレキギターの存在感を強めるために“カタカタ”という効果音が鳴るソフト・シンセをアルペジエイターで鳴らしています。さらに、アコギの弦を指で弾いた7種類ほどのパターンを録って、DAWに張り付けてシンセのカタカタ音と2ミックスにして、エンジニアの方にコンプをかけていただきました。
ーギターの“ズンッ”という低域成分を魅力的に聴かせるコツはありますか?
じん まず奏法での工夫ですが「Borders」ではブリッジ・ミュートを用いていて、その際に押さえ方がキツ過ぎるとチャキチャキしてしまうので、少し緩めにして弾くようにしました。また、100W Red Heartのように100Wのアンプはローがひずみにくいです。マイキングにおいても地面に近い方がローの成分をしっかり録れるので、2つの12インチ径スピーカー・ユニットのうち下の方に向けてROYER LABS R-121やSHURE SM57を立てて録音しました。
ーコンプは録音段階ではあまり使いませんか?
じん そうですね。僕はギターの音をかなりブレンドするので、コンプをかけて録ってしまうとその後エディットする際に扱いにくくなってしまうんです。できるだけ派手な音で録音して、後から録音した素材を並べてバランスを見ながらコンプをかけます。その際のコンプはWAVES CLA-2Aなどのプラグインを使うことが多いです。
ー今回アンプ・シミュレーターなどは使用しなかったのでしょうか?
じん 一切使用していません。今回はギター・アンプならではのエア成分が欲しかったんです。ロック全盛期のエンジニアがどういう思いでギター・アンプと向き合っていたのかをイメージして弾くギターの方が、エモーショナルなプレイができると思いました。
学生らしい雰囲気を表現するために
ミュート・バッキングをLとRで鳴らした
ー「Slip out!」を聴いた際には、ライブのようなエモーショナルな音の演出がされていると感じました。
じん 第4話は学校が舞台でティーン・ロックがテーマの話なので、そのエンディングの「Slip out!」は文化祭のステージみたいな雰囲気にしたかったんです。なのであまりエフェクターは使わずに、ギター・アンプのMARSHALL JCM900の音をそのまま録音したりしています。ほかにも、学生でも弾けるギター・フレーズを意識して作曲したり、家で立って弾いて録音したりしました。文化祭で“お前ら同じこと弾くんかい!”ってツッコミたくなるツイン・ギターとか、“3人目のギターの子はそこで今何してるの!?”っていう謎なステージを目撃したりするじゃないですか? あの学生らしいニュアンスを表現するために、Aメロではミュート・バッキングをLとRで鳴らしたりしています。
ーミックスを担当した佐藤香奈さんとはどのようにコミュニケーションをとったのでしょうか?
じん 佐藤さんは専門学校の同級生で、僕の音楽のこだわりや好みを前もって理解している方です。今回は12曲もエンディングを制作しなくてはならなかったので、それぞれの楽曲の音作りについて、相談に乗っていただきました。こちらの要望に応えてさまざまなエフェクトをかけてくれましたね。「Borders」のイメージを “カリフォルニアのような広い空と何もない道だけが続く場所を歩いていくみたいな感じにしたい”と伝えた際には、絵を送ってほしいと言われたりもして(笑)。なので、絵を準備して渡したりもしました。
ーじんさんは音楽だけでなく、分野を超えた表現をしてきましたが、今後挑戦してみたいことはありますか?
じん これから“ファッションと音楽”をテーマにしたプロジェクトを開始する予定です。『LISTENERS』は過去のロックを振り返るような活動だったので、これからはまだ自分が作ったことのない音楽を、斬新な形で表現したいと思います。
アニメ『LISTENERS』
Amazon Prime Videoにて好評配信中
監督:安藤裕章 脚本:じん/佐藤大/宮昌太朗 キャラクター・デザイン:pomodorosa アニメーション制作:MAPPA 楽曲プロデュース:じん
Opening Music
『Into the blue’s』
ACCAMER
DMM music/Astro Voice
Musicians:ACCAMER(vo)、じん(g)、菅波栄純(g)、日向秀和(b)、ゆーまお(ds)
Producer:じん
Engineer:八反田亮太、柴晃浩
Studio:Endhits Studio、LAB recorders
Ending Music
『Song of LISTENERS:side Goodbye』
ミュウ(CV:高橋李依)
DMM music
第2話~第6話よりエンディング5曲収録
- Muse
- Borders
- Slip out!
- Rainy lain
- Top of ocean
『Song of LISTENERS:side Hello』
ミュウ(CV:高橋李依)
DMM music
第7話~第12話よりエンディング7曲収録
- Trauma
- Slumber
- Dilemma
- Love song
- Fairy tale
- Listeners
- Bonus Track
Musicians:高橋李依(vo)、じん(g、prog)、zukio(prog)、ゆーまお(ds)
Producer:じん
Engineer:佐藤香奈、芽根裕司
Studio:プライベート、LAB recorders、SOUND INN STUDIOS AOYAMA
『LISTENERS』オリジナルTシャツ
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