下村亮介 インタビュー【前編】アジカンとの共同プロデュースとなる映画『僕のヒーローアカデミア』楽曲制作

下村亮介 インタビュー【前編】アジカンとの共同プロデュースとなる映画『僕のヒーローアカデミア』楽曲制作

Ⓒ2021「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE」製作委員会
Ⓒ堀越耕平/集英社

後藤正文(vo、g)、喜多建介(g、vo)、山田貴洋(b、vo)、伊地知潔(ds)から成るバンド=ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下アジカン)。結成25周年を迎えた彼らの、今年最初のシングル『エンパシー』が発売された。この作品に収録されている「エンパシー」「フラワーズ」は、映画『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』の主題歌と挿入歌として制作。その制作においてアジカンと共同プロデュースを行ったのが、これまでサポートとして参加してきた下村亮介だ。彼が愛用している機材&ソフトウェアの話を中心に、楽曲制作を振り返ってもらった。

Text:Yusuke Imai Photo:Takashi Yashima

Komplete Kontrolを制作~ライブで愛用。アナログ・シンセのように操作できるのが魅力

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「エンパシー」「フラワーズ」で共同プロデュース/編曲を担当した下村亮介。自身のプロジェクトthe chef cooks meでも活動している。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの8thアルバム『Wonder Future』からサポート・メンバーとしてライブから制作まで参加

普段はどのような機材で制作をしているのですか?

下村 基本的なセットアップは、ラップトップとNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S61、APOGEE Duet 2です。ライブでもソフト音源を使うのですが、制作でもライブでもなるべく同じ環境にしておきたいということもあり、この構成になりました。ほかにもNATIVE INSTRUMENTS Maschine Jamやハードウェア・シンセも使ったりしますね。スピーカーはIK MULTIMEDIA ILoud MTM、ヘッドフォンはSENNHEISER HD 800を使っています。

 

ライブ時にはどのような音源を使うのですか?

下村 ピアノはSPECTRASONICS Keyscapeがメインで、シンセなどはARTURIA V CollectionやNATIVE INSTRUMENTS Komplete 13 Ultimate Collector's Editionの中から使うことが多いです。アジカンのライブ・サポートではMOOG Minimoog Voyager XLやHAMMOND XK-3、ROLAND SP-404SX、STRYMON Timelineというセットアップでした。基本的にはKomplete Kontrol S61で音源を鳴らすことが多いので、バッファー・サイズが64サンプルくらいでも鳴らせるスペックのラップトップを使って、各ソフト音源を切り替えて演奏しています。

 

愛用しているKomplete Kontrolの魅力とは?

下村 NATIVE INSTRUMENTSの音源との親和性も高く、アナログ・シンセを使うようなイメージでKomplete Kontrol上で操作できるのが気に入っています。ディスプレイも2つ搭載され、ステージなどの暗いシーンでも視認性が高いのは非常にうれしいポイントです。Komplete Kontrol S61はFATAR製鍵盤のタッチがちょうど良いんですよ。僕はピアニストではないので、S88のフルウェイトだと気張って演奏してしまうんですが、FATARは力まずにストンと打鍵できます。また、MK1ではピッチ・ベンドとモジュレーションがタッチ・ストリップでしたが、MK2でホイールが変わったのでより操作しやすくなりましたね。もちろんタッチ・ストリップでしかできない表現もあるので、そのための練習も楽しくしていました。

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下村が制作~ライブにおいて活用しているセットアップ。DAWはAVID Pro Toolsで、オーディオ・インターフェースはAPOGEE Duet 2を使っている。MIDIコントローラーはNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S61とMaschine Jamで、ソフトウェア音源も同社のものを多く愛用しているとのことだ

Maschine Jamはそのタッチ・ストリップを大きくフィーチャーした製品ですね。

下村 スタッターなどのPerform FXを重宝していて、録音しながらエフェクトをタッチ・ストリップで操作して抑揚や起伏を演出できます。マウスでオートメーションを描くのとは違い、操作の上で“ちょっと行き過ぎたな”という動作まで録音されたりするわけですが、そういったポジティブな意味でのエラーが起きてくれるんです。パッドのステップ・シーケンサーで視覚的に打ち込むことで素早くビートを構成できますし、あえて揺れを出したいときは手でたたいて演奏することもあります。

過去と現在のアジカンらしさを出しつつ、メンバーに制限を与えないような編曲をした

アジカンのサポートを長らく務めていますが、共同制作というのは初めてですか?

下村 はい。これまでキーボードやシンセ、パーカッションやコーラスでの参加などはありましたが、一からの曲作りに参加したのは初めてですね。去年の夏ごろ、ゴッチ(後藤)さんのソロ名義のアルバム『Lives By The Sea』を作っていたときに、アジカンが25周年を迎えるということもあって“新曲を作りたいと思っている”という旨を聞いていました。ゴッチさんとしては、アジカンの制作に対して意欲的に向かうためには新たな刺激が必要と感じていたようで、“そういうことならぜひ僕に参加させてください”という話をさせていただきました。

 

「エンパシー」の制作はどのように進みましたか?

下村 アジカンではゴッチさんか山田さんのデモ・トラックから発展していくことが多く、ゴッチさんが作った曲を3人のメンバーがアレンジしていったり、山田さんが作った曲をゴッチさんが受け取り、歌詞やメロディ、アレンジを加えていくことが多いようです。今回は、『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』という作品にしっかり寄り添いながら、“アジカンの新基軸となる楽曲にもしたいよね”ということをメンバーと話していました。それを踏まえ、通常であればゴッチさんがデモ・トラックをメンバーに共有して制作を進めるのですが、今回は僕に託してからメンバーに展開したいとおっしゃっていました。ゴッチさんのソロの楽曲でも何曲か編曲をさせてもらったので、その信頼もあって託してくれたのだと思っています。

 

後藤さんのデモはどんな内容でしたか?

下村 歌とコーラス、ギター、ドラム・ループがワンコーラス分という感じでした。デモの段階では、どちらかというともう少しダークで勢いのあるロック・サウンドでしたね。ゴッチさんは“好きなようにやってみて”と言ってくれたのですが、僕が作り込み過ぎてもアジカンというバンドの“らしさ”が出なかったり、不必要な制限をかけてしまう気がしたので、最初のアレンジメントは比較的オープンにしてみました。ベースはシンセ・ベースで白玉で作ってみたり、ドラムに関してはビート・アプローチが伝わるように作った上で、潔さんには“これより格好良いものをたたいてください!”ってお伝えしました(笑)。ギターの喜多さんはゴッチさんに次ぐメロディ・メイカーであり、アジカンというバンドのロック・サウンドを形作る上ですごく重要な役割を持っていると思うので、ゴッチさんと喜多さんと3人でのスタジオ制作時に曲の構成やリハーモナイゼーション、ビートのアプローチなど細かい提案をしました。

 

 

インタビュー後編では、 楽曲制作で使用したピアノやシンセの音作り、プラグイン・エフェクトの使い方について詳しく話を聞きました。

Release

『エンパシー』
ASIAN KUNG-FU GENERATION
KSCL-3308(通常盤)、KSCL-3306~3307(初回生産限定盤)
(キューン)

Musician:後藤正文(vo、g)、喜多建介(g、vo)、山田貴洋(b、vo)、伊地知潔(ds)、下村亮介(syn、prog)
Producer:下村亮介、ASIAN KUNG-FU GENERATION
Engineer:中村研一、古賀健一
Studio:LANDMARK、Xylomania、Cold Brain

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