Netflixで公開中のSFアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』シーズン2。『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズの監督を手掛けてきた神山健治(写真左)、『攻殻機動隊』の生みの親である士郎政宗原作のアニメ『APPLESEED』シリーズの監督としても知られる荒牧伸志(写真右)がタッグを組み制作された。ここではサウンドトラックを手掛けた作曲家チーム=戸田信子(写真中央右)×陣内一真(同左)との座談会を実施。まずは、アニメのテーマやサントラのあり方について語り合っていただいた。
Text:Tsuji. Taichi Photo:Hiroki Obara
アクション・シーンに“意味”を与える理由
ー『攻殻機動隊 SAC_2045』の舞台は2045年で、AIの知能が人類を超えると言われるシンギュラリティを連想させます。この時代に設定したのは、なぜなのでしょう?
荒牧 神山さんが以前、監督を務めた『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』は、もっと前の時代でしたよね?
神山 2030年でした。シンギュラリティという言葉はもはや一般化した感がありますが、作品を作り始めたころは何かしらの区切りの時代になるのではと言われていたので、その辺りに設定してみようと思って。また『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』と同じような時代設定では変化が出づらいんじゃないかという声もあり、もうちょっと遠くの時代にしたかったんです。
ー作品のテーマは、どういったものですか?
神山 『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズのテーマは一貫していて、“社会と人”とか“体制対個人”とか“テクノロジー対人間”とか、果ては“人間って何?”とか。割と普遍的なことを題材にしていると思います。『攻殻機動隊 SAC_2045』に関しては、AIが進化して人間を超えていくのではないかと言われる時代に、人間はAIに対して何を思うのか?……あるいはAIの目に人間はどう映るのかなど、思考実験みたいなところが一つのテーマになっていると思います。あとは、エンターテインメント作品としても見応えがあるように、アクションやディテクティブ・ムービー的な仕掛けもふんだんに取り入れました。
ーあの壮絶なアクション・シーンをスムーズに実現すべくCGでアニメーションを作ったのでしょうか?
神山 むしろ逆かもしれません。今話した通り、作品には思考実験的な部分もあるので、本当は“視聴者に設定を理解させるためのワンカット”のようなディテールを随所に作るべきなんですが、それには多大なコストを要します。またCGには、そういう細かい要素を作りにくいという特性もある。しかし一方で、アクションに関しては現状の半分ほどであっても、コストはそこまで変わらないんじゃないかと思っていて。なので、CGを使うにあたって、得意なことを積極的にやっていこうという発想だったと思います。
荒牧 銃を派手に撃ち合うような、いわゆるアクションらしいシーンも結果的には存在するんですが、例えば“敵も自分たちも見えない”とか“音がしない”っていう状況をあえて設定することで、新しいアクションができないものかと思っていました。つまり、そういう状況の設定が我々制作側にとっての“縛り”になるわけです。シナリオを考えていたときは、“敵も自分たちも見えない”なんていうのを映像としてどう表現するのか?という部分にぶつかりましたが、逆に、その縛りの中で何か面白いことができるんじゃないかと思って。そして、それを見せるためのシチュエーションとしてのアクション、みたいなことができれば斬新なものが作れるのではないかと。“これは無理なんじゃない?”とか言いつつも、どうやって乗り越えようかと考えながら取り組んだ結果、これまでと少し違うものが見えたなと思っています。
神山 単にアクションをやっても、インフレが起きて飽きてしまうんです。でも、やれることはアクションで表現していくしかないという、ちょっと苦しい状況もあって。だから、それを逆手に取って“アクションはたくさんやろう”と。しかし、ただ派手にやっても面白くないので、アクションに意味やストーリーを持たせていく。さっきの“見えないもの”に関連して言えば、光学迷彩で物理的に見えなくなっているもの以外の見えないもの……例えば、隠された事件とかを、どうやって可視化していくかが『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズを通して意識してきたところで。今回、そういうサジェスチョンをアクションに織り込んでいるんです。
作品への解釈を誤らないのが作曲の秘けつ
ーアクション・シーンでもストーリーが進行していくのですね。そういった作品作りにおいて、サウンドトラックも非常に大事な要素だったかと思います。
神山 戸田さんと陣内さんとは『ULTRAMAN』(2019年のアニメ)で初めてご一緒しました。そのときもフィルム・スコアリングをやりたい、とおっしゃってくださって。
ー映像制作チームが用意した楽曲リストに基づいて曲を作るのではなく、実際に画(え)を見ながら音楽を制作していく方法ですね。
神山 はい。戸田さんと陣内さんは映像に音楽を付けるということを強く意識されていて、我々に“音楽の意味”を分かりやすい言葉で説明してくださるんです。
戸田 監督お二方と話したのは、ほとんどが作品に対する解釈についてでした。画って、映っているものが、それ自体とは違う意味を持つ場合があるので難しいんです。例えば、草薙素子が怒りを感じているシーンでも、実は内包している悲しみが表現されていたりする。そういった画の表層から伝わりにくいものを、どれくらい音楽がくみ取れるか。もしくは音楽で下手にリードしないようにするとか、さまざまなアプローチがあります。物語をどちらに進めていくかという分岐点は数多く存在するので、解釈を間違えたくないんです。今回の『攻殻機動隊 SAC_2045』は、ある一点に向かう物語ですが、そこを匂わせたりしていいのか、だめなのかということも含め、“この場面はこういう解釈で合っていますか?”という話をたくさんさせていただきました。だから、まずは自分たちが“こう”と思うものを提出しつつ、その解釈が違ったときにすぐ代替案を出せるよう、違う視点で解釈した音楽も用意しておいたんです。
荒牧 我々からは“この人物は、このときこう思っているので、その感じを出してほしい”といったリクエストをしていました。で、返ってきたものに対して“あと少し裏の悲しみを足してもらえませんか?”とか“ここはもうちょっと引っ張った方が、気持ちが次のシーンにつながると思います”みたいなオーダーをして。でも、それはごく稀(まれ)で、多くは僕らの想定を上回る出来栄えでした。“アクションでテンポは良いんだけど、実は悲しみと戦っている”といった複雑な場面まで見事に表現していただいたんです。
インタビュー後編に続く(会員限定)
インタビュー後編(会員限定)では、 戸田信子×陣内一真の作曲家チームに本作の制作手法を詳しく伺います。
Release
『攻殻機動隊 SAC_2045 O.S.T.2』
戸田信子×陣内一真
フライングドッグ:VTCL-60564
6/22発売(※上は先行配信されたEP)
※『攻殻機動隊 SAC_2045』シーズン2は、Netflixにて全世界独占配信中
Musician:戸田信子(prog)、陣内一真(g、syn、prog)、アーネスト・ティブス(b)、吉池千秋(b)、國田大輔(g)、サイモン・フィリップス(ds)、臼井かつみ(ds)、佐々木史郎(tp)、鹿討奏(tb)、本間将人(sax)、金子昌憲(concertmaster)、村田晃歌(vln)、金子由衣(vln)、若林知怜(vln)、波多江真里菜(vln)、野尻弥史矢(vln)、高宮城凌(vln)、小林万理能(vln)、石井優梨菜(vln)、青木志帆(vln)、福田勝大(vln)、久保田有造(vln)、 篠崎紀音(vln)、飯顕(viola)、今井凛(viola)、松本麗(viola)、荒木開(viola)、渡辺伸啓(viola)、中島伊代(viola)、秋津瑞貴(vc)、大宮理人(vc)、江口友理香(vc)、井上崇(vc)、中川優(vc)
Producer:戸田信子×陣内一真
Engineer:ジェイソン・マリアーニ、ニラジ・カジャンチ、鈴木浩二、マロンド・ケー、ピーター・アンダーソン
Studio:BROTHERYN、NK SOUND TOKYO、Sony Music Studios Tokyo、Remote Control Productions、FILM SCORE STUDIO ONE