常田大希インタビューを一部公開!〜『攻殻機動隊 SAC_2045』テーマ曲の制作手法を紐解く

常田大希インタビューを一部公開!〜『攻殻機動隊 SAC_2045』テーマ曲の制作手法を紐解く

Netflixで公開中のサイバーパンクSFアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』シーズン2。そのオープニング・テーマ「Secret Ceremony」とエンディング・テーマ「No Time to Cast Anchor」を制作したmillennium paradeは、プロデューサー/作編曲家/マルチ奏者の常田大希がけん引するコレクティブだ。ミュージシャンのほか、映像ディレクターやCGクリエイター、デザイナー、イラストレーターらを擁し、音楽を中心に据えた芸術表現を総合的に手掛けている。常田はバンドKing Gnuのメンバーとしても知られ、東京藝術大学の音楽学部で得た素養をポップ・ミュージックに昇華。オーケストラ楽器を取り入れるだけでなく、和声やアレンジの構造といった音楽の骨組みの部分にクラシックの語法を定着させ、オルタナティブ・ロックやヒップホップなどの感覚を合わせることで、唯一無二の世界を描き出す。本稿では「Secret Ceremony」「No Time to Cast Anchor」の制作手法を通し、彼の音楽観に迫る。

Text:Tsuji. Taichi Photo:TAKAKI_KUMADA Art Direction & Styling:TSUYOSHI KURATA Hair & Make:TAKAI Cooperation:TOSHIMITSU KON、STUDIO Dede

チェロ曲のメロディに相当する歌の旋律

millennium paradeは『攻殻機動隊 SAC_2045』シーズン1でオープニング・テーマ「Fly with me」を手掛けていました。今回は2度目のコラボレーションですが、曲作りに際して、どのような青写真があったのでしょう?

常田 アニメーションのオープニング・テーマとかに求められることって、大抵は派手でアクティブなアプローチだったりすることが多いんですけど、今回はその線で行きたくないなという気持ちがあって。2曲共、「Fly with me」の延長線上の世界にある別の感情というか、そういうイメージで作っています。

 

オープニング・テーマ「Secret Ceremony」は、ほの暗い和声とオルガンの厳かな響きが、アニメのシリアスな世界を音で高度に表現していると感じます。

常田 普段はもう少し“こういうのが求められている”というところに向けて作るんですが、『攻殻機動隊 SAC_2045』が題材なら“アニメ主題歌然”とした曲にしなくてもいいんじゃないかと思って。いつものマインドセットとは違うスタンスで取り組みたかったから、『ゴッドファーザー』のテーマみたいなのを意識して作ったのが「Secret Ceremony」です。

 

「Secret Ceremony」と「No Time to Cast Anchor」には、それぞれフル尺のバージョンとアニメ用のショート版が存在します。「Secret Ceremony」は両者でアレンジの異なる部分が目立ち、フル尺の方がオルガンや生ドラムを取り入れていたりと重厚な印象です。

常田 まずはショート版を作ったんですが、スマートフォンの内蔵スピーカーとかで聴かれる場合に、曲の熱量が伝わりにくいんじゃないかと思って。打ち込みのビートのローエンドやシンセの立体感など、どうしても出てこない要素があるので、生ドラムのセクションを加えたり、それに合わせて歌をシャウトっぽくしたりして、アプローチを変えてみたのがフル版です。ショート版もショート版で、すごく気に入っているんですけどね。

 

 

曲そのものは、どのような部分から作ったのですか?

常田 歌のメロディと基本的なコード進行です。コード進行は、フル版だとオルガンが担う部分ですね。

 

常田さんの書く歌のメロディは、King Gnuの諸作も含め、音の動き方がユニークだと感じます。

常田 例えば「Secret Ceremony」の歌は、チェロ曲のメロディですね。チェロで演奏して心地良く聴こえるメロディだし、跳躍するときの音の動き方などもチェロの運指に相当します。一般的な歌のメロディに比べて音域が広く、歌いこなすのが大変だと思うんですが、チェロで演奏すると非常に自然な音の流れなんです。

 

「No Time to Cast Anchor」の歌の方が符割りが細かく、器楽曲的な印象です。グラウンド・ビートを思わせるトラックも手伝って、エレクトロニックにさえ聴こえます。

常田 あの曲も歌モノらしくないんですけど、器楽曲的というよりはボカロっぽいメロディ・ラインだと思います。機械的な感じだからこそハマる音の動きというか。

 

歌のメロディは、短時間でフル・コーラス分を作ってしまうのでしょうか?

常田 ラフ・スケッチは鼻歌だったりするんですが、そういうものに対してすごくいろいろ試すんです。APPLE Logic上でMIDIノートを動かしながら吟味したり、鍵盤を弾いて幾つかのパターンを考えたりして、しっくりくるまで時間をかける。あと、使う楽器によって結果が大きく変わってきます。ピアニストが作るメロディとギタリストのメロディが違うようなものですね。俺は特殊と言えるほどさまざまな楽器を弾くので、その分、作る楽曲やメロディにも幅が出るのかなと。ちなみに「No Time to Cast Anchor」のメロディは完全に鍵盤で作りました。ザ・鍵盤メロディって感じだし、およそギタリストが作る曲じゃないですね。

 

他者の曲を聴いたとき、それがどのような楽器の奏者によって作られたのか分かったりするのでしょうか?

常田 分かりますよ。例えば管楽器の奏者が作ったメロディは、その楽器を演奏するにあたって自然な位置にブレスが入っていたりするので。

 

では、管楽器の奏者が歌メロを作ったら、管楽器的に心地良いメロディ・ラインになったり……?

常田 するでしょうね。たとえ複数の楽器を弾くことができなかったとしても、いろいろな楽器の“おいしさ”を知ることによって、作る楽曲のバリエーションが生まれると思います。自分は楽器自体が得意とするところを把握しているから幅が出せるし、そこが作編曲においても強みなのかなという気がしています。


このインタビューの完全版は、サウンド&レコーディング・マガジン 2022年7月号に掲載されています。また、サンレコWebの有料サービスをご購入済みの方はバックナンバーでもお読みいただけます。

Release

『Secret Ceremony / No Time to Cast Anchor』millennium parade(限定盤)
『Secret Ceremony / No Time to Cast Anchor』millennium parade(通常盤)
『Secret Ceremony / No Time to Cast Anchor』millennium parade(完全生産限定盤)
右から限定盤、通常盤、完全生産限定盤

『Secret Ceremony / No Time to Cast Anchor』
millennium parade
FlyingDog:VTZL-208(限定盤)、VTCL-35347(通常盤)、VTZL-209(完全生産限定盤)
6/1発売(「Secret Ceremony」は先行配信中。「No Time to Cast Anchor」は5/27から配信開始)

※限定盤(4,400円):楽曲CD+特典Blu-ray『millennium parade Live at Splendour XR』/デジトレイ仕様
※通常盤(1,320円):楽曲CD
※完全生産限定盤(7,700円):楽曲CD+特典Blu-ray『millennium parade Live at Splendour XR』/STEALTH MOTOKO EDITION(スペシャル・ケース仕様)

Musician:常田大希(prog、all other instruments)、ermhoi(vo)、timetheft(vo)、新井和輝(b)、勢喜遊(ds)、江﨑文武(k)、宮川純(org)、常田俊太郎(vln)、村岡苑子(vc)、MELRAW(tp、fl)、濵地宗(horn)、川原聖仁(tb)
Producer:常田大希
Engineer:佐々木優、中賢二郎、吉川昭仁、丸山武蔵、安中龍磨
Studio:Bunkamura、STUDIO Dede、Tanta、他