OVERLOUDからPULTEC EQP-1A、MEQ-5、HLF -3CにインスパイアされたEQ、EQPがリリースされました。EQPは、1つのプラグインで3つの代表的なパッシブEQユニットをリアルで正確にエミュレートしているとのこと。筆者もOVERLOUDのプラグインはほかにも愛用しているので、期待を膨らませて試していきます。
音の変化が視覚的に分かるEQカーブのグラフィック表示
EQP-1A、MEQ-5、HLF-3Cをモデリングしたプラグインは他社からも多数存在していて、今までも数多くのシチュエーションでこのタイプのEQを活用してきました。真空管モデリングなので音に温かみが加わり、挿すだけでも音が変化する独特なEQカーブがとても特徴的です。
今までの同製品のモデリング・プラグインではツマミを回しただけでは聴感上でしか効果が分かりませんでしたが、EQPには周波数特性を視覚的に把握することができるグラフィック表示を搭載。音にどのような変化をもたらしているかがとても分かりやすくなっており、このプラグインの大きな特徴となっているかと思います。視覚的にも情報を得ることができるのはとてもありがたいですね。
最上段部分にてEQカーブをグラフィック表示で確認しながら、両隣にあるIN LEVELとOUT LEVELで全体のゲイン・コントロールができます。さらにCLIP LEVELでは、クリップした際のひずみを調整。ツマミを左に回してCLIPPERが赤く点滅したらそこからクリップし始めるので、絶妙なひずみ具合に設定しましょう。
筆者はトラップやポップスといった現代的なサウンドを扱うことが多く、今やその制作においてひずみ具合をコントロールするクリッパーは必須になっていると言っても過言ではありません。リミッターよりも音の変化が少なく、あえてクリップさせることで自然なひずみを与え、パンチのあるサウンドに仕上げてくれます。筆者は楽曲に応じてさまざまなクリッパーを使いますが、EQPの効き方はなかなかのパンチ力があるので、今後かなり重宝しそうです。ほんの少しクリップさせるだけでもほかの音に埋もれない太さを得ることができるため、ぜひ試してみてください。
高域を滑らかにしてボーカルの存在感を際立たせる
ここからは、EQとしての機能を備えた3つのユニットを検証します。まず画面左下部分はEQP-1Aのモデリングで低域と高域のコントロールができます。低域は20/30/60/100Hz、高域では3/4/5/8/10/12/16kHzのブーストと併せて、指定した周波数の帯域幅をBANDWIDTHノブでコントロールすることも可能。デフォルトが10なので、ツマミを左に回すことでタイトになりトランジェントが強調される印象です。さらに5/10/20kHzを選択して高域をカットできる仕組みになっています。
筆者がよく扱うトラップに必ず登場するROLAND TR-808やキックにとても効果的で、適度にブーストして20Hzから100Hzへとノブを回していくとちょうど良いスポットが見つかり、ローエンドに豊かさと深みを与え低域を強化できます。さらにCLIP LEVELをほんの少し加えると、お腹の辺りを打つようなパンチのあるTR-808サウンドに仕上がりました。
また、PULTECのEQの特性でもある、同じ帯域に対してBOOST、ATTENツマミを同時に使用する使い方も忠実に再現。BOOSTを上げてからATTENのツマミを回すとただブーストするだけとは違う独特な効き方がとても面白いです。周波数帯域を特定し、ブースト(増加)するかアッテネート(減衰)するかだけというとても単純な操作性。ですが、同じ帯域を増加させて減衰できるということはどういうことなのか?と疑問に思う方も多いでしょう。ただこの辺りの操作に対してもグラフィック表示搭載により効果がとても分かりやすくなっているので、いろいろと試してみていただきたいです。バシっとハマったときにはかなり良い効果をもたらします。ボーカルにも使用してみると、真空管的な温かみが加わり高域を柔らかく滑らかにしつつ、存在感を際立たせてくれました。
中段部分はMEQ-5をモデリングしていて、中域をコントロールできます。右のPEAKはQ幅が狭いので、ピンポイントで狙うことも可能。パーカッションやドラムもブーストすることで真空管の重厚感とハーモニクスが加わり、良い効果が得られます。選択できる周波数帯域には重要な役割を持つ帯域が多く、さまざまな音に利用可能です。3つのパラメーターの中では特にDIPが好みでした。例えば楽器パートをまとめたバスに対して、音が溜まりやすい500Hzや2kHz辺りをカットすることで、ボーカルのためのスペースを与えサウンドをスッキリとさせてくれる印象です。最後にはHLF-3Cをモデリングした画面右下部分で不要なローとハイの部分をカットすれば、理想のサウンドを得ることができるでしょう。
今回EQPをさまざまな素材に使用してみて、古くから愛され続ける素晴らしい質感を持った名機が、時代に合わせて形を変えつつ進化し続けていることを実感しました。ぜひ皆さまにも体感していただきたいと思います。
murozo
【Profile】 Crystal Soundを拠点に活動する気鋭のオーディオ・エンジニア。レコーディング/ミックス/マスタリングをはじめ、Dolby Atmosや360 Reality Audioによるイマーシブ作品にも携わる。
OVERLOUD EQP
オープン・プライス
(市場予想価格:18,700円前後)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.9〜10.15、AAX64(AVID Pro Tools 11以上)/AU/VST2&3対応のホスト・アプリケーション、またはスタンドアローンで起動
▪Windows:Windows 8/10、AAX64(AVID Pro Tools 11以上)/VST2&3対応のホスト・アプリケーション、またはスタンドアローンで起動
▪共通項目:INTEL Core I3 1.4GHz以上のCPU、4GB以上のRAM、1,200×800以上のディスプレイ解像度