DEAN FUJIOKA インタビュー【後編】〜映像作品が作れるほどに曲のビジョンを明確にする

DEAN FUJIOKA インタビュー【後編】〜映像作品が作れるほどに曲のビジョンを明確にする

 DEAN FUJIOKAへのインタビュー後編では、3rdアルバム『Transmute』の具体的な制作手法や、アルバム収録曲のプロダクション詳細に迫るロング・インタビューを、撮り下ろし写真とともにお届けしよう。

Text:Yusuke Imai Photo:Hiroki Obara

インタビュー前編はこちら:

ストーリーを生み出すための余白を見つける

具体的にはどのような流れで制作をしていきましたか?

DEAN 今までとは違ったやり方で、作り方を作るという感じでした。これまでも新しい取り組みはしてきましたが、リモート中心の制作は、例えるなら2から2.5への変化。そこから3への変化として“物語を作る”……一曲に対しての脚本を描いて、そのプロットで映像作品が作れるくらいまでビジョンを明確にするんです。メロディ、楽器の構成や音色、歌詞の言葉がどんな理由で選ばれているのか、質問されたら答えられるくらいの解像度の高さで決めます。アルバムの後半1/3くらいの曲はそのようにして作りました。このやり方はライブ・ツアーでも行っていて、ライブの脚本を自分で作って演出を決めていったんです。

 

脚本として曲のイメージを細部まで決め、それをプロデューサーと共有した?

DEAN 曲作りと同時進行で脚本を描くときもありました。抽象的な言い方になってしまいますが、作っていきながら自分たちでイースター・エッグを埋めていき、それをあとでリスナーだったり、作っている自分たちも再発見する。ダブル・ミーニングやトリプル・ミーニングを仕込んで作ったり、関係性が無いようなところに重層的なストーリーの連結を見出したり。

 

例えば、録り音やサンプルをたくさん用意し、それらをプロットに合わせて組み合わせていくイメージですか?

DEAN それもあります。テンポの変化もそうですね。例えば「Plan B」や「Sekken」はかなり変則的な楽曲構成になっているんです。テンポが曲中に変わっていくというのは、そこにストーリー上の意味を見出せないとあまり気持ちが良いものではないので。この楽曲では“過去と現在”“この世とあの世”みたいな、時間の流れというものの表現のために、テンポをコントロールしたんです。そういう意味を持たせた、複合的で重層的な絡ませ方で曲を構成していきました。

 

それらの調整はDEANさんがDAWで行った?

DEAN コライトの場合はサウンド・プロデューサーと一緒にセッションしながら作ったり、もしくは一度言葉でコンセプトを伝えてデモ・トラックの最初の一歩を作ってもらい、そのデモを解体してテンポや音色、コード進行も変えたりして、違ったものへと組み直したりしました。曲によっては自分が作ったデモ・トラック通りに生演奏を録ってくださいと言うこともありましたし。あまり作り方の途中では制限をせず、出会いを楽しむみたいな感じで作っていましたね。

 

アルバム全体として生楽器を生かしたアレンジが多いですが、トラック・メイカー的なエディット感があるのはそういう作り方だったからなのですね。

DEAN ミックスの段階でも、かなり細部までいろいろやっていましたからね。どのプロセスでも“ストーリーを生み出すための余白を見つける”ようなことをしていて。それがちょっとしたことであっても、自分の中で物語がより豊かなものになるのであれば、それは正解であり初志貫徹しているわけです。表現の仕方が最終的に違っていくかもしれないけれど、最初に作った脚本に沿っていれば“何が不正解か”は即判断できるので。メロディやコード進行、歌詞が変化し続けても初志貫徹できるんです。

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DEANのモバイル制作用システム。DAWはABLETON LiveやPRESONUS Studio One、AVID Pro Toolsを使用している。オーディオI/OはUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin MKIIで、モニター・スピーカーはIK MULTIMEDIA ILoud Micro Monitor、MIDIキーボードはNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol M32だ

「Neo Dimension」は青い炎

1曲目の「Hiragana」はピアノやストリングスがメインのスローな楽曲です。こういったサウンドからアルバムがスタートするのは意外でした。

DEAN NHK大河ドラマ『青天を衝け』で五代才助(友厚)を演じているのですが、この役は朝ドラの『あさが来た』に続いて2回目なんです。実在した人物の役作りをここまで深めてくると、だんだん本人と会話をしているような感じがしてきます。歴史の年表で見るのとは違い、感情を伴った人間の思いが波動のようにぶつかってくる。明治時代の先輩たちは命をかけて日本という国を作り、誰も見たことのないビジョンを生み出したわけですよね。そんな彼らが、後世に向けてどんな思いを持っていたのか、ふと自分のハートとシンクロするようなときがあって。「Hiragana」は自分にとって、明治維新のテーマ・ソングであり、日本を歌った歌なんです。日本という郷土に対する思いがコンセプトとしてありました。僕自身、これだけ日本に連続してずっと居るのは大人になってから初めてなんです。日本で仕事をするようになって10年たって、住むようになって5年くらいたつんですけど、これまでは海外でも活動しながらだったので、春夏秋冬の移ろいを途切れることなく感じながら日本に居るというのが貴重な体験でした。そういったいろいろなことが関係して、この「Hiragana」からアルバムがスタートするのはしっくりと来たんです。

 

そのイメージがピアノやストリングスのサウンドとして表現されていると思いますが、この曲のトラックを作ったのがstarRoさんというのは驚きです。

DEAN starRoさんはどちらかというとビート・ミュージックのイメージがありますからね。だから、あえてstarRoさんの代表的なサウンドではなく、とことん削ぎ落とした楽曲を作ってみたかったんです。starRoさんには「ピアノ1本だけでもいいくらい。音はとにかく削ぎ落として、かつ郷土を感じさせるようなものを作りたい」と伝えていました。そのイメージを的確につかんでもらえたと思います。

 

『History In The Making』のときにも感じましたが、オーケストラとエレクトロニックなトラック・メイクの組み合わせがDEANさんらしさを生んでいますね。「Spin The Planet」はその代表的な曲だと思います。

DEAN ストリングスというものが、脚本のアプローチにすごく合うなと思ったんです。シネマティックに見せたいときにはオーケストレーションはとても効果的ですよね。曲によってはオーケストラだけでも良いかもしれないとも思っています。とにかく一つのアプローチに偏る必要は無いですし、要はバランスですよね。

 

その上で音数も絞っていくわけですね。

DEAN 音数を少なくしたいというのは前からありました。最小限の要素で最大限の効果が得られるのであればそれが答えかなと。パンチが効いているサウンドというのはある程度やってきましたし、今はとにかく“自分にとって新しい作り方”を作っていきたいです。

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「Neo Dimension」は1stシングル「My Dimension」のリアレンジです。スペイン音楽への傾倒がここに現れていると思います。

DEAN 影響はあると思いますね。原体験に対するあこがれとか懐かしさってあるじゃないですか。胎内へ還るような感じというか。実際にナイロン弦ギターの演奏法を教えてくれたのは母だったんです。

 

なぜ今アレンジし直そうと思ったのですか?

DEAN 「My Dimension」のころはEDM全盛で、全力で攻めるような力強いイメージで作っていました。それから何年も「My Dimension」をライブで演奏してきましたが、これから先もずっとプレイするためにタイムレスなアレンジにしたかったんです。それでおのずとスパニッシュな曲調になりました。スペインにタブラオってあるじゃないですか(編注:フラメンコのショウを行うステージ。レストランやバーに併設されている)。あの場所でやっている感じにしたかったんです。みんなで手をたたいたりステップを踏んだりしながらアンセムを歌う。でもスタジアム・ロックのアンセムではなくて、プリミティブかつスピリチュアルで。小さいタブラオや洞窟の感じだけど、宇宙とのつながりもあるようなイメージにしたかったんです。

 

燃えるような熱さというよりも、奥側に熱を携えているようなサウンドになっています。

DEAN そう、青い炎ですね。「My Dimension」が火力マックスだとしたら、「Neo Dimension」ではそれをどれだけ抑えられるか。出力エネルギーは抑えているけど虎視眈々として、温度の高さとしては一番熱い青い炎になっているというイメージで。アレンジの元になったのは、ファンクラブ限定ライブで演奏したアコースティック編成のバージョンです。バンドマスターの横山(裕章)さんに“これをベースに新たなアレンジを形にしたい”と伝えました。そしてドラムのマバちゃん(mabanua)やベースのShingo(Suzuki)君、ギターの佐田(慎介)さん、パーカッションのラムジーさん(坂井"Lambsy"秀彰)に入ってもらいレコーディングしたんです。

 

そのアレンジで新たに生まれ変わって「Neo Dimension」という名前になったわけですね。

DEAN 火の鳥みたいに、一度灰になって復活したような感じですね。それは僕とシンクロする部分もありました。2019年のアジア・ツアーが終わった後、体を壊して立ち上がれなくなってしまったんです。それからリハビリを始めて、やっと普通に生活ができるようになって……という、灰になって復活するような体験もしていたから、これも何かのサインなのだろうと思って。「My Dimension」は自分の音楽キャリアの中で一番最初に作ったと言ってもいいくらい古い曲で、長い時間をかけて形作った自己紹介的な曲です。だからこそ、今あらためて作るべきだとも感じたし、新しい曲を作るよりも意味があると思いました。

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「Plan B」にはメタルの精神がある

「History Maker 2021」もリアレンジされた曲です。これも「Neo Dimension」と同じく、長く歌い続けたいという思いから再録したのですか?

DEAN そうです。オリジナルでは3拍子のワルツ調でしたが、ライブでやるとなると4拍子の方がいいなと感じていました。もちろん3拍子の良さはあるんですが、オケージョンが限定されているような気もしたし、時間の概念がコモン・タイプの4/4拍子じゃないとリスナーを曲と一緒に連れて行けないと思ったんです。タイトルは「History Maker 2021」ですが、僕としては「History Maker “C”」。4/4拍子を表す拍子記号のCなんです。4/4拍子でやるにあたってどういったアレンジが良いのか考え、京都の箱庭のようなミニチュアの自然界と大きな宇宙の真理がつながっているような感じにしたいと、サウンド・プロデューサーのチャームさん(THE CHARM PARK)に伝えました。曲の始まりは繊細で壊れてしまいそうな感じだけど、最終的には宇宙の彼方まで通じているような気持ちになるように。

 

この曲でもピアノやストリングスを使ったアレンジで、オリジナルとは違う側面を見せています。

DEAN オリジナルは長調で希望に満ちている感じですが、今回のバージョンは4/4拍子で、マイナー調で、というところからスタートしました。後は、ストリングスも必ず入れてほしいと伝えました。

 

最初のサビに入る際、それまでステレオに広がっていたピアノがセンターへとゆっくり集約されます。それによって箱庭感が演出されていますね。

DEAN チャームさんが作っていらっしゃる音楽って、まさに箱庭のような感じですよね。ミックスまで自分されますし、最終的にどういうふうにサウンドが聴こえるのかまで明確にイメージできるからこそ、アレンジ段階から音の微妙なさじ加減をしてもらえたと思います。

 

一方で、「Plan B」では濃密なベース・ミュージックが展開されます。「Echo」の延長線上にある楽曲だと感じました。ベースが大きな存在感を持っていますね。

DEAN ドーム・サイズの会場を思いきり揺らしたいというイメージが「Echo」でも「Plan B」でもあって。メタルの精神みたいなものですね。時の流れと共に全部が過ぎ去っていくような、リフレインの無い楽曲を作ろうと思ったんです。メタリカの「バッテリー」を知っている人だったら、すごく腑に落ちる曲の構造だと思います。クラシック音楽もそうですね。やっぱり今のポップスと古典の音楽は構造が全然違うじゃないですか。どちらかというとメタルの方がクラシックに近い。曲前半の流れからサウンドがふわふわとしてきたと思ったら、いきなりウェイブのガツンとくるサウンドになるんですが、それがこの時世で一番自然な流れに感じたんです。自分はプランAという人生を生きていると思ったら、どこかで運命の線路がガクッと切り替わって二度とプランAには戻れないみたいな。

 

キーやテンポの変化もあって、前半と後半のサウンドの違いに聴いていてハッとさせられます。

DEAN 一曲の中でそういったキメラみたいな構造にするのは、奇をてらい過ぎている感じもありますが、事前に作られたプロットがしっかりしていたから迷わずに突き進めました。キーやテンポをいろいろといじりながら作りましたけど、全体を客観的に見れたのは脚本を作ったおかげです。

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人の手が奏でた音で完結させたい思いがあった

「Scenario」はバンド一発録りで作られています。これも新しい作り方としての挑戦だった?

DEAN はい。この曲は生命のシナリオについて歌っている歌だから、人の手が奏でた音だけで完結させたいという思いがありました。『Transmute』を作っているとき、DNAのことをすごく勉強したんです。DNAは人間の設計図であり、脚本であり、シナリオなんですよね。でも、そのシナリオには定められている限界があるじゃないですか。人間は食事や水分、睡眠を取らなかったらどれくらいで死んでしまうとか、人間の限界がある。一方で可能性や能力も同じく備わっている。すべてにシナリオがあり、それを表現したかったんです。

 

録音した後はエディットを?

DEAN 切ったり張ったりといろいろな可能性を試しました。とはいえ基本的にはデモ・トラックで作った構造の延長線上で録音に臨んでいたので、大きな変化はしていません。シンプルながらも、曲として単調にならないように微細なフレーズの変化だったりを入れて、それらを最小限に留めつつストーリーテリングの技法としてリスナーを飽きさせずに最後まで聴かせるように意識していました。

 

多くのプロデューサーやミュージシャンが参加した多様性のあるアルバムですが、楽曲の脚本を用意することでブレないストーリーができたからこそ、全体としてもまとまりがあるように感じました。

DEAN 変化の多様性を感じさせる作品になったと思います。ライブ・ツアーのときにバンド・メンバーへ「皆さんはミュージシャンとしてここに集まったわけだけれど、ステージ上では演奏者ではなく劇団トランスミュートの演者として、イタコとして、蘭の花のような女優として舞台を踏んでください」ということを話したんですが、蘭という植物は土が無くても育つことができ、岩の上でも空中でも生きていけるんです。それは蘭が変異することで勝ち取った生存するための可能性ですよね。選択肢の多様性を持つことで生き抜くことにつながっているんです。このコロナ禍においても人々が変化を続けて、新しい世界で生き抜くことができている。今回のアルバムでは、楽曲の作り方を2から2.5、3、3.5へと変化させたのも多様性だし、18曲それぞれにある物語も多様性。『Transmute』というタイトルを付けたのもすごくしっくりきています。聴いてくださる方々一人一人の人生において、背中を押すような、インスピレーションの源となるような作品になればいいですね。

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インタビュー前編では、 コロナ禍における音楽との向き合い方や、前作からの楽曲制作への取り組み方の変化について語っていただきました。

Release

『Transmute』
DEAN FUJIOKA
A-Sketch:AZZS-120(通常盤)、AZZS-118(初回限定盤A)、AZZS-119(初回限定盤B)

Musician:DEAN FUJIOKA(vo、prog)、mabanua(ds)、坂井"Lambsy"秀彰(perc)、Shingo Suzuki(b)、佐田慎介(g)、THE CHARM PARK(p、g、b、ds、k、cho)、伊藤彩(vln)、名倉主(vln)、三木章子(viola)、村中俊之(cello)、裕木レオン(ds)、小林修己(b)、Yaffle(k)、マイク・マリントン(ds)、マーリン・ケリー(b)、金子健太郎(g)、小林岳五郎(k、syn)、吉澤達彦(tp)、大橋好規(g、b、k、syn、ds)
Producer:DEAN FUJIOKA、UTA、Mitsu.J、starRo、Yaffle、大橋トリオ、THE CHARM PARK、横山裕章、ES PLANT、Ryosuke “Dr.R” Sakai
Engineer:D.O.I.、小森雅仁、佐々木優、中村フミト、大橋好規、THE CHARM PARK、Ryosuke “Dr.R” Sakai、生駒龍之介
Studio:MSR、Version、Daimonion Recordings、DCH、Tanta、Endhits、Crystal Sound、Vision、Oden、EELOW、ABS、Vox & Heart、SOUND CREW、Bang On、STUDIO726 TOKYO、Trio's Homework

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