DEAN FUJIOKA インタビュー【前編】〜最新アルバム『Transmute』に秘めた更新され続ける創造性の源泉を語る

DEAN FUJIOKA インタビュー【前編】〜最新アルバム『Transmute』に秘めた更新され続ける創造性の源泉を語る

 クラシック、ロック、ダンス、ワールド・ミュージックまでを吸収し、自身の音楽を深化させてきたDEAN FUJIOKA。3rdアルバム『Transmute』は生楽器をフィーチャーし、その音数や曲構成にもこだわりを感じさせる作品で、これまでとはまた違った構想の下で生み出されたのが伝わってくる。進化を続けるDEANの創造性を紐解いていこう。

Text:Yusuke Imai Photo:Hiroki Obara

好きだった音楽をあらためて聴く時間ができた

今月号では、2021年に購入したツールをアーティストやエンジニアに紹介してもらう特集を掲載しています。DEANさんは2021年に購入したものは何かありますか?

DEAN JUAN HERNANDEZ Sambaというフラメンコ・ギターを買いました。この楽器だからこそ生まれる世界観や物語があると感じて購入したので、今後のツアーや楽曲制作でどんな活躍をしてくれるのか楽しみですね。初めて触ったギターがクラシック・ギターだったので、アコースティック・ギターのスチール弦ではなく、ナイロン弦の柔らかな音が自分の原体験になっているんです。ちなみに2021年はスペインの音楽をかなり掘っていました。自分でもグッとくるものがあって。

 

どういったアーティストを聴いていましたか?

DEAN 最近だとロザリアとか良いですよね。フラメンコとか伝統的なスペインの音楽も好きだし、スペイン語のラップも聴くようになりました。中南米の音楽もすごく良い。カリ・ウチスの「テレパティア」とか。スペイン語って、日本語と同じく母音優勢な言語なんです。子音が強い英語のパーカッシブさも良いんですが、僕としては母音優勢な言語の方が聴いていて気分が落ち着くんだと思います。

 

前回の『Shelly』のリリース時のインタビュー(2020年2月号)からちょうど2年がたちました。音楽との向き合い方に変化はありましたか?

DEAN コロナ禍で以前より音楽をゆっくりと聴けるようになりました。昔好きだった音楽をあらためて聴くようにもなって、そういった時間の貴重さも感じましたね。既に持っているディアンジェロの『ヴードゥー』のCDを車に入れっぱなしにする用としてもう1枚買ったりもして(笑)。そういった青春っぽいことができて、童心に帰るような感じでした。

 

楽曲制作においてもいろいろな制約があったりと苦労されたのでは?

DEAN リモートでしかできない時期もありましたし、スタジオに入れたとしても何人までだったらそこに居て良いのかなど、難しいポイントはありました。そのときできる範囲で、ベストを尽くすということしかできなかったんですけど、変に焦って何かを形にしようとしなくて良かったと思っています。これまでの人生でやり残したことや片付いていないことがたくさんあったので、それらを整理する時間が持てました。なぜ自分は音楽を作るのかとか、そういった音楽制作との向き合い方も考えるきっかけになったんです。

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モノを生み出す責任がある時代になった

前作ではプロデューサーとのコライトがメインでしたが、そのやり方は変わっていない?

DEAN 今回は、しっかりと“物語を作る”ということを意識していました。それって、やっぱりまとまった時間がないとできないことで。例えば「Shelly」と「Searching For The Ghost」を同時に作っていたとき、“反射神経で対応する音楽制作の限界”だと感じたんです。ありがたいことにTVドラマ『シャーロック』のオープニング曲と主題歌の両方を担当させてもらったわけですが、音楽以外の仕事も相まってあまりに忙し過ぎて。この日にトラックを作って、歌詞はこの日まで、ミックスはここが締め切りで……というようなタイトなスケジュールの中で音楽を作るのは、果たして良いことなのか悪いことなのか分からなくなったんです。もちろん締め切りがあるから、結果として形になるという考え方もありますし、プロとして普通のことだとも思います。でも、ドラマ撮影やプロモーションで役者もやりながら、同時にオープニング曲と主題歌も制作してとなると、たぶんここが自分の限界だと感じて。これ以上はクオリティの担保ができないと。

 

そこで“物語を作る”ことに?

DEAN そうですね。音楽とどう向き合うのかへ立ち返るところからです。ただ音楽が好きだから、良い曲を作りたいからという気持ちも大事ですけど、アーティストとしてどういったメッセージを提示していきたいのかとか。これまでは、いろいろな仕事をする中で余った時間を使い、音楽に本気で取り組んでいました。でもそれじゃダメだと。音楽を軸にして、その軸がブレない範囲でほかのことをやるというふうにしないと、音楽を作る意味が無くなると思ったんです。モノを作ることへの責任ってあるじゃないですか。それがエンタメとしても経済的にも成立するとしても、自分の中でそれを作る意味が無いと、元は宝を作る機会のはずが、生まれてくる必要の無いものを作ってしまう可能性もある。これだけたくさんのコンテンツがある世の中で、なぜそれを生み出すのか……そこが問われる時代になったなとあらためて思いました。だからこそ、そこで物語を作る勝負をしていきたいとも感じて。一度立ち止まって考えることができたのは、自分にとって救いになりました。

 

 

インタビュー後編(会員限定)では、 映像作品が作れるくらいに曲のビジョンを明確にしたという制作手法など、収録曲のプロダクションに迫る7,000文字以上のロング・インタビューを撮り下ろし写真とともにお届けします!

Release

『Transmute』
DEAN FUJIOKA
A-Sketch:AZZS-120(通常盤)、AZZS-118(初回限定盤A)、AZZS-119(初回限定盤B)

Musician:DEAN FUJIOKA(vo、prog)、mabanua(ds)、坂井"Lambsy"秀彰(perc)、Shingo Suzuki(b)、佐田慎介(g)、THE CHARM PARK(p、g、b、ds、k、cho)、伊藤彩(vln)、名倉主(vln)、三木章子(viola)、村中俊之(cello)、裕木レオン(ds)、小林修己(b)、Yaffle(k)、マイク・マリントン(ds)、マーリン・ケリー(b)、金子健太郎(g)、小林岳五郎(k、syn)、吉澤達彦(tp)、大橋好規(g、b、k、syn、ds)
Producer:DEAN FUJIOKA、UTA、Mitsu.J、starRo、Yaffle、大橋トリオ、THE CHARM PARK、横山裕章、ES PLANT、Ryosuke “Dr.R” Sakai
Engineer:D.O.I.、小森雅仁、佐々木優、中村フミト、大橋好規、THE CHARM PARK、Ryosuke “Dr.R” Sakai、生駒龍之介
Studio:MSR、Version、Daimonion Recordings、DCH、Tanta、Endhits、Crystal Sound、Vision、Oden、EELOW、ABS、Vox & Heart、SOUND CREW、Bang On、STUDIO726 TOKYO、Trio's Homework

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