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生駒龍之介(Ikoman)インタビュー〜DEAN FUJIOKA「Scenario」のレコーディング&ミックス手法を語る

生駒龍之介(Ikoman)インタビュー〜DEAN FUJIOKA「Scenario」のレコーディング&ミックス手法を語る

 バンド一発録りのアプローチで作られた「Scenario」。その録音とミックスを担当したのが、プロデューサー/エンジニアの生駒龍之介(Ikoman)氏だ。レコーディングとミックスの手法について語ってもらった。

Photo:Hiroki Obara(メイン、Vox & Heart Studio)、Takashi Yashima(Recording@Sound Crew)

太過ぎない歌にして歌詞を聴かせる

レコーディングはどのように進みましたか?

生駒 DEANさんがスタジオに居てその場でディレクションをしながら、自分の感性で進めていくんです。DEANさんはとても感覚が鋭い方なので、“序盤は何かが始まるような期待感が欲しい”とか、小節単位で“ここにこういうストーリーが欲しい”ということを共有して、それに対してミュージシャンが応えるということをやっていました。ストーリーテラーという感じですね。DEANさんの表現の仕方は、映画のゾクゾクするようなカメラワークみたい。僕もそういうタイプの方が好きなんです。もちろん、より音楽的な表現もできる方なんですけど、あえてそういった言葉を取っ払うことでみんなの想像力を引き出す感じ。例えば“付点ディレイで包まれる感じに”と言われたら、単純にそのタイムの設定でやっていくことになりますけど、“雨に包まれていくイメージ”と言われたら、“細かいディレイでフィードバックを長くして、シマー・リバーブで広げて最終的には雨が上がっていく情景を出そう”とか、いろいろと浮かぶじゃないですか。DEANさんはそういった創造性を吸い上げてくれるような方です。

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「Scenario」のセッション画面の一部。この画面には主にボーカル・トラックが映っている。生駒氏は自身のスタジオではボーカルをコンプ無し/コンプ有り/コンプ+EQの3chで録ることが多いと話すが、今回は貸しスタジオだったため1chで録音した。メインのボーカルのほか、ラップ、コーラス、オクターブ下など複数のボーカル・パートが用意されている

事前にデモ音源も聴いていましたか?

生駒 ざっくりとした打ち込みでしたけど、雰囲気は出来上がっていました。でも、DEANさんは“デモがこうだからこういう感じにしてくれ”ということは全然言わないんです。立ち返らない。みんなデモは聴いているから、それを踏まえてみんなのアプローチはどうなのかを引き出す。それを聴いてその場でDEANさんが反応する。それは見ていて楽しかったですね。

 

ボーカル・マイクは何を使いましたか?

生駒 VOX-O-RAMA Type 47というマイクです。ビンテージのNEUMANN U47のようにとても中低域の密度が濃くて、「Scenario」にはこれしかないと思いましたね。歌録りにはいつも何本かマイクを持っていきますけど、今回はType 47だけ持っていきました。マイクはいろいろと試してきましたが、Type 47は初めて試して数秒で購入を決めたモデルです。自分が思い描いていたU47の音像に近くて、新品なのに音の厚みがあり、高域はEQされたような感じも無くて、かつ空気感はしっかりと録れる。もちろんどんなポップスにも合うというわけではなくて、ダンス・ミュージックのようにシンバルがバキッと硬く出ているような曲ではSONY C-800Gなどの方が良いと思いますが、「Scenario」にはぴったりでした。

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DEANのボーカルに使われたVOX-O-RAMA Type 47。中低域の密度が濃く厚みがあるサウンドで録れるそうだ

マイクプリは?

生駒 歌録りをしたBang OnにNEVE 1272があったので使いました。歌詞をしっかり聴かせるために歌を太くし過ぎたくなかったので、コンプにはトランスレスのUREI 1176 Rev.Hを使って低域がモヤっとしないようにして。1176は音量が大きく出るところで–5dBくらいになる程度で、Aメロだと少し反応するかなというくらい。遅めのアタックで、リリースは2時くらいでした。曲調に合わせてあまりパツパツしないようにしています。また、Bang OnにはACOUSTIC REVIVEのケーブルが入っていて、そのおかげもあってDEANさんの甘くて良い声の部分をそのまま出せましたね。今僕も自分のスタジオでACOUSTIC REVIVEを試しているところで、まさに真空のような感じで音に何の邪魔も入らないです。

 

ボーカル録りのときはEQしないのですか?

生駒 外のスタジオでどうしてもピークが気になるようだったら、モニターだけプラグインのEQで調整しますね。慣れていないモニター環境で録り音を大きくEQすることは怖くてできないですから。自分のスタジオだったらかなりフレキシブルにできるので、ボーカルをコンプ無し/コンプ有り/コンプ+EQの3ch分録ります。それをバスでまとめてバランスを取り、最終的に1本のトラックにコミットしてからリズムのエディットをしたりするんです。

「Scenario」Recording@Sound Crew

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「Scenario」のバンドのレコーディングはサウンドクルーにて行われた。ミュージッシャンはマイク・マリントン(ds)、マーリン・ケリー(b)、金子健太郎(g)、小林岳五郎(k、syn)が参加している

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スタジオではミュージシャンへのディレクションをDEANが行いつつ、各々がアイディアを出してテイクを重ねていった

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ドラムのモノ・トップにはBEYERDYNAMIC M160、左右のトップはAUSTRIAN AUDIO OC818を用意。スネアはトップがTELEFUNKEN M81で、ボトムがM80となっている。M81の隣にはエフェクト用マイクとしてJOSEPHSON E22Sがあり、EMPIRICAL LABS Distressor EL8-Xを使って音をプッシュし、ほかのマイクとのバランスを取って音を作っているそうだ

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ギターはFENDER StratocasterとTelecaster、TAYLORのアコースティックが用意された

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ギター・アンプはFENDER Deluxe Reverbで、マイクはSHURE SM57とROYER LABS R-121を使用。R-121は少しだけ斜めにしてセットして、より中低域を録れるようにしている。SM57はピッキングのエッジを録る役割だ

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ベースはFENDER Jazz Bassが2本(フレッテッド、フレットレス)とHOFNER Violin Bassを用意していた。ベース・アンプはAMPEG SVT-200Tで、足元にあるのはNOBLEのプリアンプ/DI

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ベースのキャビネットに立てられたのはBLUE MICROPHONES Mouse。「NOBLEは100~300Hz辺りがディップしているような感じで、そこをMouseが埋めるようなイメージです」と生駒氏は言う

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キーボードはNORD Nord Electro 5DとWURLITZER 200A。別室にはRHODESもセットされていた

実機のBX20はただただ音に溶けるイメージ

ミックスについてDEANさんから何かオーダーはありましたか?

生駒 リバーブの質感はこだわりたいと。それが結構課題でしたが、AKG BX20とBRICASTI M7、SONY MU-R201を織り交ぜながら作りました。ドラムやベースを雰囲気あるように録ったので、その雰囲気を保ってひずませて……という流れになるかと思ったんですけど、“リバーブの質感は感じられるけど、あくまで曲のメッセージを阻害しないようにする”という方向になりましたね。最初、ADコンバーターにBURL AUDIO B2 Bomber ADC with Danteを使っていたんですが、僕のスタジオのクロック・ソースであるABENDROT Everest 901に変え、2ミックスを録ることでリバーブのクリアさを出せました。スタジオ確認の前と後でそこが違ったのですが、スタジオに来られたDEANさんが聴いて違いが分かっていたのは驚きでした。倍音や空間にとても敏感な方だなと。

 

スタジオの空気感を含めて録った上でリバーブを加えていくのは難しかったりするのでしょうか?

生駒 そこまで長いリバーブをかけているわけでもないので問題はありません。それに実機のBX20はあまり邪魔にならないんです。プラグインだとEQでいろいろと調整したくなっちゃって、結局要らないかなってなるんですけど。実機は説得力があるというか、ただただ音に溶けるようなイメージ。音を止めたら後ろに尾ひれの長いリバーブが聴こえるんだけど、オケが鳴っているときはあまり聴こえない。音をくっ付けるだけの役割にもなるし、ちゃんと聴かせるリバーブにすることもできるんです。非常に良いリバーブですね。

Vox & Heart Studio

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生駒氏のプライベート・スタジオ、Vox & Heart Studio。モニター・スピーカーはATC SCM20PSL Pro、PMC IB1S-A IIIを使っている。生駒氏いわく「IB1S-A IIIは低域が前にしかいかないのが気に入っています」

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デスク左側のラックには、UREI 1176LNやAPI 500互換モジュール群、NEVE 1073、CRANE SONG Flamingo、SPL Phonitor 2がスタンバイ

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天井付近まで組まれたアウトボード・ラック。上~中段には各トラックの音作りで使う機材が、下側にはマスターで使う機材が並ぶ。FLOCK AUDIO The Patchによって、コンピューター上からパッチングが行えるようになっている

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ADコンバーターのBURL AUDIO B2 Bomber ADC with Danteと、AD/DAコンバーターのLYNX STUDIO TECHNOLOGY Hilo。「Scenario」では最終的にABENDROT Everest 901を使用したとのこと

リミッターのカラーを決めるところから始める

ミックスではどのようなツールで作業をしますか?

生駒 最終的な信号はサミング・ミキサーのPUEBLO AUDIO HJ482からバス・コンプのRUPERT NEVE DESIGNS Portico IIに入って、SPL Iron、DANGEROUS MUSIC Bax EQ、BETTERMAKER 232P MK IIとMaster Limitterを通って、Pro Toolsへ返っていきます。AVALON DESIGN AD2055だけは曲によってオン/オフできるようにしていますね。リミッターごとに倍音の違いがあるので、全体として欲しいカラーを最初に決めてから各トラックの調整を進めます。どんな紙の上で絵を描くのかを最初に決める、という感じに似ているかもしれません。

 

各楽器にはどのような機材を使いましたか?

生駒 キックやベース、歌にはMERCURY 66を使いました。RETRO 175-B Vintage King Editionはスネアに、KENETEK LA-2Xはギターにかけています。このLA-2Xはワンオフで、ビンテージのUREI LA-2Aの回路にサイド・チェイン機能を持たせたものです。立ち振る舞いや質感はLA-2Aのまま、サイド・チェイン機能を使うことで深いコンプレッションでも音像が遠くならないのは感動します。その音をモニターで再生して1フロア下に置いたSCOPELABS Periscopeというマイクで録音して足しています。WURLITZERはDIの音を僕のスタジオでFENDERのギター・アンプを使って鳴らして、この距離に居てほしいと感じるところへPeriscopeを立てて録ったものを混ぜました。

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コンプレッサー内蔵のコンデンサー・マイク、SCOPELABS Periscope。「Scenario」のミックスでは、WURLITZERのトラックをギター・アンプで鳴らし、スタジオの階段下にPeriscopeを立ててアンビエンスを追加録音したそうだ。エレキギターもモニター・スピーカーから再生した音をPeriscopeで録音し、元のトラックと逆側にパンニングしてうっすらと鳴らしている

曲のテーマ的にも、スタジオで慣らしていた音を生かす方向性のシンプルな音作りになっているようですね。

生駒 例えば、キックのトリガーを使ってより明確なサウンドにすることもできなくはないけど、「Scenario」にそれを求められているのかというと違うだろうと。ぽつりぽつりと言葉を置いていくようなDEANさんのボーカルがある中で、バキッとしたサウンドは必要無かったです。

Release: DEAN FUJIOKA『Transmute』

『Transmute』
DEAN FUJIOKA
A-Sketch:AZZS-120(通常盤)、AZZS-118(初回限定盤A)、AZZS-119(初回限定盤B)

Musician:DEAN FUJIOKA(vo、prog)、mabanua(ds)、坂井"Lambsy"秀彰(perc)、Shingo Suzuki(b)、佐田慎介(g)、THE CHARM PARK(p、g、b、ds、k、cho)、伊藤彩(vln)、名倉主(vln)、三木章子(viola)、村中俊之(cello)、裕木レオン(ds)、小林修己(b)、Yaffle(k)、マイク・マリントン(ds)、マーリン・ケリー(b)、金子健太郎(g)、小林岳五郎(k、syn)、吉澤達彦(tp)、大橋好規(g、b、k、syn、ds)
Producer:DEAN FUJIOKA、UTA、Mitsu.J、starRo、Yaffle、大橋トリオ、THE CHARM PARK、横山裕章、ES PLANT、Ryosuke “Dr.R” Sakai
Engineer:D.O.I.、小森雅仁、佐々木優、中村フミト、大橋好規、THE CHARM PARK、Ryosuke “Dr.R” Sakai、生駒龍之介
Studio:MSR、Version、Daimonion Recordings、DCH、Tanta、Endhits、Crystal Sound、Vision、Oden、EELOW、ABS、Vox & Heart、SOUND CREW、Bang On、STUDIO726 TOKYO、Trio's Homework

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www.snrec.jp

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