シンガー・ソングライター/トラック・メイカー/シンセ奏者のAAAMYYYが2ndアルバム『Annihilation』をリリースした。TENDREやTondenhey(ODD Foot Works)、荘子it(Dos Monos)などゲストを招いた本作は、R&Bベース/ロック・ギター、エレクトロ/ヒップホップなど、異素材ながら隔たりを感じさせないコラージュが楽しい一枚。今回は彼女が新しく設えたプライベート・スタジオで、本作の制作について尋ねた。
Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki
ライブで見聴きしたことを消化し、ソロに落とし込みたかった
ー前作『BODY』は宅録然としたニュアンスでエレクトロ・ミュージックの印象が強かったと思うのですが、本作『Annihilation』はソウルフルな演奏が際立つバンド・サウンドを主体にしていますね。
AAAMYYY ピコピコ音などを鳴らしているような“DTM女子”のイメージから脱却したいということは考えていました。ソロ活動でバンドも取り入れた壮大な音楽も作ってみたいと思っていたし、サウンドトラックなども手掛けたいと思っていました。Charaさんからお声掛けをいただいて、実際に映画『ゾッキ』のサウンドトラックを作曲する機会があったり、Tempalayでのライブ活動や(河原)太朗ちゃん(TENDRE)のサポート・ミュージシャンとして見聴きしたことを消化して、“ソロ作品の中に落とし込みたいな”というモチベーションを抱いて取り組んでいたと思います。
ー『Annihilation』の制作は、バンドやサポート・ミュージシャンの活動と並行して開始したのでしょうか?
AAAMYYY ほとんどは新型コロナの影響でライブができない時期とかぶっていました。「Leeloo」と「Utopia」は2019年の10月に制作を開始して、まだライブの規制がかかる前に作り始めたと思います。その後も1カ月に約1曲作るぐらいのペースで、完成したのが2020年の11月ごろでした。
ー制作はAAAMYYYさんがデモを作るところから始まるのですよね。
AAAMYYY そうですね。最初からバンドの録音を行うことを想定してAPPLE Logic Pro Xでトラックを作り終えてからメロディと歌詞を考えて、仮歌が入った状態のオケを演奏者のみんなに共有して演奏し直してもらうという流れでした。
ー『Annihilation』の収録曲には転調がすごく入っていたり、『BODY』との制作方法の変化をとても感じます。
AAAMYYY 『BODY』では制作の8割にスマホ用アプリのREASON STUDIOS Figureを使っていて、その簡易的な作曲プロセスで構築することに満足していたんです。今回もFigureは使っていますが、『BODY』のやり方とは別の方法で作りたかったし、制作時に聴いている音楽も取り入れたかった。周りのミュージシャンの音楽に触れて、転調の面白さとか心地良さを感じるようになってきた時期で……じゃあ取り入れようと。
ーFigureは具体的にどんなシーンで使いましたか?
AAAMYYY 例えば「Utopia」冒頭の打ち込みビートはFigureで作っています。案外良い音が鳴るので、結構好きなんですよ。「天狗(Ft.荘子it)」のビートもほぼFigureで元ネタを作りました。
ー「TAKES TIME」のリズム・マシンのような音も?
AAAMYYY あれはSUZUKI Omnichordのビートの音です。レトロでかわいい、かなりチープな音が鳴るので結構いいなと思って、ラスト・サビ前の一小節に使っているんです。映画『ゾッキ』オリジナル・サウンドトラックの「P.L.T(feat. ermhoi & Julia Shortreed)」や前作『BODY』の「Z (feat.Computer Magic)」で使って、良さに気付きました。ラスト・サビ以外のビートはShin Sakiuraと一緒にゴリゴリに作ったので、Omnichordとの対比が面白いと思います。
ー「不思議」とかはコズミック・ファンクらしい曲調にダンス系で聴きそうなボイス・サンプルが置かれたり、「天狗(Ft.荘子it)」では中盤から登場するラップなど、楽曲構成やコラージュにインパクトを感じます。
AAAMYYY いろいろな要素が集約されていると思います。新型コロナで世の中が荒れ始めた時期に政治だとか多様性などについて話をする機会が多くて。「不思議」のラスト・サビにかけて歌ってくれたThe Boyも「天狗(Ft.荘子it)」でラップを入れてくれた荘子it君も、曲への親和性が高いと思った人物であり、尊敬するミュージシャンでもあって参加してもらいました。The Boyのコーラスは宅録してもらったボーカル・サンプルをミックスして、荘子it君には実際にレコーディング・スタジオで対話をしながらラップを入れてもらいました。
ーサンプルでユニークなものだと「Utopia」で聴こえる刀を抜くような音とかも気になります。
AAAMYYY 「Utopia」の舞台として描いているのが、長野にある私の実家なんです。大自然の中にあって、大昔にそこで合戦が行われていたり、どこかにサムライが埋まっていてもおかしくない場所だなと思ったりして。大地の偉大さに息を飲んだり陶酔している様を歌っているので、最後にハッとさせる仕掛けとして入れてみました。
ーバンドの演奏に合わせてか、シンセのコードも『BODY』のときより複雑な響きになっていますね。
AAAMYYY 「Leeloo」はいろいろなライブに参加して割と忙しくしていたり、日常的に音楽をディグっていた時期に作った曲です。ジ・インターネットとかR&Bのプレイリストを聴きながら“こういう曲を作りたいな”と思って、バンドを集めてやってみようって動き出しました。コード感はこの曲でシンセを弾いてくれている太朗ちゃんに修正してもらったり、欲しいフレーズを説明してオブリを入れてもらったりしました。
ーご自身もシンセ奏者でありながら、TENDREさんをシンセ奏者として招いた理由はほかにもありますか?
AAAMYYY 太朗ちゃんはAAAMYYYバンドでキーボードとシンセを弾いてくれていてメンバーもよく知っているので、プロデューサー目線で居てもらった節があります。私は音楽において自分の要望を言語化できない部分があるので、バンマス的な立ち位置で力を借りました。彼はベーシストなので「Elsewhere」「不思議」「PARADOX」「TAKES TIME」「AFTER LIFE」「HOME」ではベースも弾いてもらっていて。その際は“弾き過ぎくらいがちょうど良いのかも”とお願いをして、好きに弾いてもらいました。
ー「不思議」など、生ベースの下に重ねられている低音にはソフト・シンセを使っていますか?
AAAMYYY はい。ARTURIA V Collectionの中に“Bass”と書かれたプリセットがたくさん収録されているので、その中から楽曲ごとに合いそうなものを選んで使います。『Annihilation』で使ったソフト・シンセはすべてARTURIAのもの。ソロ活動を始めた2017年からずっとお気に入りです。「不思議」のアルペジオで使っているシンセも同じくARTURIAのProphet V 。アルペジエイターが付いていないので、Logic Pro X内蔵プラグインのArpeggiator MIDIで鳴らしました。制作しているときはアルペジエイターが付いているARTURIA CS-80Vで打ち込んでから、違う音色が欲しいときに好きなシンセをArpeggiator MIDIで鳴らす手段を取ります。
インタビュー後編(会員限定)では、さらなるプライベート・スタジオの機材や、一番お気に入りのシンセだというSEQUENTIAL Prophet-6など、本作でのシンセの音作りに迫ります。
Release
『Annihilation』
AAAMYYY
(ワーナーミュージック・ジャパン)
- Elsewhere
- 不思議
- Leeloo
- PARADOX
- 天狗(Ft.荘子it)
- FICTION
- Utopia
- TAKES TIME
- AFTER LIFE
- HOME
Musician:AAAMYYY(vo、syn、prog)、TENDRE(cho、b、syn)、Shin Sakiura(cho、g、prog)、荘子it(vo)、Tondenhey(cho、g)、加藤成順(g)、山本連(b)、澤村一平(ds)、石若駿(ds)、Margt(cho)、Cota Mori(cho)
Producer:AAAMYYY
Engineer:小森 雅仁、グレゴリ・ジェルメン
Studio:プライベート、他