ソースに合った処理を提案するEQ/コンプ/リバーブ〜SONIBLE Smart:Bundle

SONIBLE Smart:Bundle 〜ソースに合った処理を提案するEQ/コンプ/リバーブ【“未来系”プラグイン・エフェクト・レビュー】

 Reviewed by 
yasu2000
【Profile】NYのBushwick Studioを経て、現在はbig turtle STUDIOSのレコーディング/ミックス・エンジニアを務める。origami PRODUCTIONS所属のアーティストのほか、あいみょんなどを手掛けている。

複数トラックの周波数特性をまとめて監視できる
任意の音を一括してAIイコライジング可能

 ミックスをする上で最も重要なツールであるEQ、コンプ、リバーブのセット=SONIBLE Smart:Bundleを紹介します。内容はSmart:EQ 3、Smart:Comp、Smart:Reverbの3種。どのプラグインも共通してAIを搭載。画面は黒色をベースとしており、縦軸/横軸から成るグラフィックの中で色分けされた線を操作するデザインです。まさに、余分なものがそぎ落とされているかのようにシンプルで見やすい設計。また、どのプラグインも画面の大きさが変えられ、ディスプレイ全域に広げることができますし、小さくして幾つも開き、見比べることも可能です。

 

 まずSmart:EQ 3を見ていきます。便利なのは、インサートした複数のトラックの各周波数特性が、どれか1つのSmart:EQ 3のアナライザーで色分けして同時に表示できる点。これにより、かぶっている帯域の調整も容易に行えます。操作感も良く、任意の帯域をダブル・クリックして周波数ポイントを作成でき、そのポイントをダブル・クリックすれば消去が可能。Q幅は、Macにおいてはoptionキーを押しながら左右に動かすと変化し、shiftキーを押しながらだと横振れなしの固定の周波数でゲイン調整可能です。時間短縮に必要なショートカットが備わっていてうれしいですね。フィルターのタイプはLinear PhaseとConstant Q Bell Filterが選択可能で、バンドごとのM/S機能も搭載されています。

 

 次にAI解析機能です。プロファイル欄で処理の対象となる楽器を選び、緑色のボタンを押してAIにソースを読み込ませると、音声が解析されて“こういうふうに補正してみては?”というEQカーブが出てきます(画面①)。そのEQカーブ全体を上げ下げすることで補正の度合い(イコライジングの深さ)を調整でき、さらには提案されたカーブの特定の範囲だけを使用することも可能。例えば高域だけに絞ってブーストすれば、ハイシェルビングEQなどとは違い、ち密な調整が行えます。またその場合、幾つも周波数ポイントを調整する手間が省けますね。実際に試してみたところ、余分な出っ張りが無く、上げたい部分だけが適切にブーストされる印象で、とても便利だと感じました。解析後のEQだけでは物足りない場合も、別途24バンドまで調整できます。

f:id:rittor_snrec:20210727164133j:plain

画面① Smart:EQ 3では、処理対象の楽器に合わせてプロファイルを選択すると、適切なイコライジングとしてカーブが提案される(画面内の白い線)。緑色の部分を上下させるとイコライジングの深さを、左右に動かすと採用したいカーブの指定が行える

 AI機能には、さらに便利なグルーピング機能というものが備わっています。複数のトラックにSmart:EQ 3を挿したとき、それぞれがマスキングされないように帯域をうまく振り分けて処理してくれるのです。

 

 グルーピングできるトラックは最大6つで、優先度を決めるレイヤーがL1/L2/L3の3つに分かれています(画面②)。例えばL1=ボーカル、L2=ドラム&ベース、L3=ギター&シンセという分け方は、歌モノ・ミックスの基本でしょう。また、周波数的にぶつかりそうな音がいかに整理されるかを検証するのも面白く、L1=キック、L2=ベース、L3=低音が多めのピアノやオルガンといった分け方をし、AIがどのように低域のすみ分けを図るのか見ることができます。

f:id:rittor_snrec:20210727164233j:plain

画面② グルーピングの画面。L1〜3の3つのレイヤーは優先順位を表しており、画面ではボーカルが最も立って聴こえるようなイコライジングが各パートに提案されている

 操作方法は簡単で、各トラックに適切なプロファイルをアサインし、曲を流しながら黄色いボタンを押すだけ。完ぺきな理想にはなりませんでしたが、そこを立脚点にEQしていけたので時間短縮につながりました。何と言ってもミックスのノウハウが分からない方や、どこがぶつかって濁っているのかが判然としないときなどに助けとなるはずです。

 

2,000バンド以上を解析し自動処理する
“超マルチバンド”コンプ機能

 続いてはSmart:Comp。音の波形がリアルタイムに右から左へと流れていくグラフィックで、原音/コンプレッション後の波形とリダクションを示す波形が表示されます。コンプの調整に応じて波形が変化するため、例えばどの部分がリダクションされているのか、どこが効果の浅いところなのかなどが視認しやすく、気になる部分をピンポイントに制御できます。個人的にはニーのカーブがとても見やすく、細かいニュアンスの調整がやりやすいです。

 

 Smart:EQ 3と同じ要領でAI解析ができ、ソースに応じた設定を導き出してくれるので、デフォルトの状態から調整するよりも圧倒的に速く正確でしょう。試してみると、アタックとリリースの微調整が非常に優れている印象。“Shape”という欄ではコンプレッションの時間的な経過がグラフで表示されていて、追加の調整がとても楽でした(画面③)。またShapeの下の“Focus”では、指定した帯域にどの程度のコンプがかかっているかをモニタリング可能。Shape欄での調整は右側の画面に反映され、波形がダイレクトに変化していくので、コンプの仕組みを知る上でもとても分かりやすいと思います。また細かい調整ができることで、さまざまな実機のコンプに似せることも可能です。

f:id:rittor_snrec:20210727164345j:plain

画面③ Smart:Comp。画面左上にはShapeセクションがあり、そのときに使用しているセッティングが時間軸でとらえられるようになっている。Shapeセクションのカーブを動かすとコンプの動作が変化し、その結果がリアルタイムに右の画面へ反映される

 さて、Smart:Compの最大の特徴と言えるのはSpectral CompressionとSidechain Duckingでしょう。前者は、入力ソースを2,000バンド以上にわたって解析し、各帯域へ細かくコンプをかけてくれる機能(画面④)。“超マルチバンドのコンプ”という感じで、AIが帯域ごとの処理の深さを決めてくれます。周波数アナライザーの色が濃い部分はコンプレッションの深いところなので、各帯域へどのくらいかかっているかが視認可能です。実際に試してみると、非常にソフトで自然なかかり具合。Sensitivityノブを調整することで、よりマイルドにできました。Sidechain Duckingは、トリガー信号の特性に応じたサイド・チェイン・コンプレッションを作り出してくれる機能。効果はやはりナチュラルで、トリガーとして使っているトラックとコンプを挿したトラックのかぶりを防ぎたいときなどに有用です。

f:id:rittor_snrec:20210727164422j:plain

画面④ 画面下半分に見えるのが、自動処理のマルチバンド・コンプ機能=Spectral Compressionの周波数アナライザー。縦軸が周波数で、水色の濃く出ているところがコンプレッションの深い部分だ

視覚的な操作系がリバーブの調整にマッチ
グラフィックで残響の特性を表現

 最後にSmart:Reverb。これもAIによって、ソースに適切なリバーブを提案してくれます。また画面左のスクラッチ・パッドをドラッグするだけで、いろいろな音色のリバーブを体験できる優れものです。パッドの各辺にはintimate(間近な感じ)、artificial(人工的な感じ)、rich(豊か)、natural(自然さ)と書かれており、緑色の点の位置でそれぞれの度合いを決めることが可能(画面⑤)。4つのプリセットの間を行き来するような感覚で、リバーブの操作として直感的であり、なおかつとても適していると感じます。またパッド下の2つのパラメーター“Color”と“Clarity”の効きが素晴らしく、Colorでは残響の明るさを、Clarityでは原音をリバーブにどれだけ埋もれさせるか/リバーブからどのくらい分離させるかを調整可能です。

f:id:rittor_snrec:20210727164513j:plain

画面⑤ Smart:Reverbのスクラッチ・パッドは、画面左上に配置されている。パッド内の緑色の点をドラッグして動かすだけで、オーガニック〜人工的〜豊かな雰囲気のリバーブを行き来できる直感的な操作系だ。右側にはリバーブのキャラクターや挙動を表すグラフィックが見える

 パッド上の緑色の点を動かすと、右の画面がリアルタイムに変化します。画面の縦軸は周波数、横軸は時間を表し、シャボン玉のようなグラフィックでリバーブ成分を表示。そのシャボン玉の数や色の濃さで、リバーブの深さや広がり方を視認できるのです。その下の画面では、時間経過の中でDecay(余韻)やSpread(広がり)、Density(密度)をどのくらいにするか設定可能。いろいろと試してみたところ、総じて柔らかく自然な印象のサウンドだと感じました。

 

 Smart:Bundleは、視覚的なコントロールとAI解析による効率化を兼ね備えた万能型のバンドル。今回試した限りではCPUへの負荷が軽いと思われるので、素早くクオリティの高いミックスを作りたいときにはもってこいでしょう。

 

SONIBLE Smart:Bundle【AI搭載】

27,390円(価格は為替レートによって変動)

 Requirements 
●Smart:EQ 3
■Mac:macOS 10.12以降、AAX/AU/VST対応のホスト・アプリケーション
■Windows:Windows 10(64ビット)、AAX/VST対応のホスト・アプリケーション

●Smart:Comp
Mac:OS X 10.8以降、AAX/AU/VST対応のホスト・アプリケーション
■Windows:Windows 8/10(64ビット)、AAX/VST対応のホスト・アプリケーション

●Smart:Reverb
■Mac:OS X 10.8以降、AAX/AU/VST対応のホスト・アプリケーション
■Windows:Windows 10(64ビット)、AAX/VST対応のホスト・アプリケーション

●共通
INTEL Core I5以上、4GB以上のRAM、OpenGL3.2以降対応のGPU

 

関連記事

www.snrec.jp

www.snrec.jp