「SONIBLE Smart:EQ 3」製品レビュー:AIによる音色補正/最大6trのバランス調節が可能なプラグインEQ

「SONIBLE Smart:EQ 3」製品レビュー:AIによる音色補正/最大6trのバランス調節が可能なプラグインEQ

 SONIBLEからSmart:EQ 3がリリースされました。前バージョンのSmart:EQ 2に搭載していたAIスマート・フィルターに加え、進化したグループなど、新機能を多く盛り込んでいます。今回は駆け足で紹介していきますよ。

最大6つの波形を表示させながらEQが可能
無限にEQポイントを設定しM/S処理もできる

 Smart:EQ 3はAAX/AU/VST対応で、192kHzまでサポートするプラグインEQです。Smart:EQ 2のAIによる音色補正機能=スマート・フィルターを継承し、さらに新機能を追加。より使いやすく、ミックスでEQを追い込めるように改良されています。今回のアップデートは主に5つです。

 

  • スペクトラム表示の追加機能
  • スマート・フィルターへの追加機能
  • 無限に設定できるEQポイント数
  • EQポイントごとのM/Sモード
  • AIによる自動補正付きのグループ機能

 

 まず、スペクトラム表示機能のアップデート。僕はグラフを見ながらピークを削るのが大好きなので、大変うれしいです。後述のグループに登録したSmart:EQ 3のグラフを任意に表示でき、比較しながらEQも行えて便利です。

 

 次にスマート・フィルターについて、前バージョンをご存じない方に説明すると、AIによる自動分析でその楽器に最適な音色を作るもの。中央左にボタン(●)があり、その隣に楽器のプロファイルのメニューがあります。ギターなど項目を選ぶと音が分析されて、その楽器に最適なEQカーブ(スマート・フィルター)が描かれるのです。このカーブの適用具合はフィルター上のポインターを上下して変えられます。このスマート・フィルターに新たに追加されたのは、再生中の音に合わせて“リアルタイム処理ができる”ダイナミクスのパラメーター。入力される音のピークに応じてかかり具合を変えられるため、強い演奏でピーキーになる音色も自然と抑えられたり、弱い演奏では音色変化を少なくすることができます。

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画面上部に表示される丸いボタンの右横のメニューから、楽器のプロファイルを選択する。項目を選ぶとAIによる自動分析で最適なEQカーブが描かれる

  そして3つ目。EQポイントを無限に作れるようになりました。Smart:EQ 2は8つだったため、大きな改良と言えます。

 

 4つ目はEQポイントごとに、シェルビングやピーキングなど7つのカーブを選べるようになったこと。また、各ポイントでステレオ/モノEQなのかMid/Sideなのかを選べます。例えば、歌の邪魔にならないようMidの中域をカットして、ステレオ音場の真ん中をすっぽり空けるなどの処理を行えます。

 

 5つ目は今回の目玉機能のグループ。最初は複数のプラグインをまとめて上げ下げする機能かと思いましたが、全然違いました。簡単に言うとトラックに紐付けたSmart:EQ 3を6つまで1グループとして登録でき、その中で付けた優先順位に従って、AIが全体のバランスを鑑みて調節をしてくれるのです。例えばボーカルを最優先にすれば、AIはほかのパートでボーカルを邪魔しないようなEQカーブを作ります。

 

音の嫌な部分を削るAIスマート・フィルター
グループでの処理は丸く落ち着いた方向性

 やっと説明が終わりましたので、実際に試してみましょう。AVID Pro Toolsに立ち上げたギター・ロックのセッションをざっくりとミックスしてみます。まず、ボーカル・トラックにインサートして、プロファイルの“Vocal”を選びAIに音作りをさせます。ギターも同様に行いました。両方で感じたのは、極端に派手な音作りではなく、音の嫌な部分を削ったナチュラルで、ニュートラルな感じになること。ここでアナライザーをオンにしてスペクトラムを表示してみます。なるほど、やはりグラフの飛び出た部分と逆のカーブが多くの部分で適用されています。要するに、ここから“好きな音を作れ”ということです! 癖の無い音になった分、自分の思う帯域にEQポイントを追加していきます。

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スマート・フィルターで生成されたEQカーブとアナライザーをオンにして表示したスペクトラム波形。波形のピークを抑えるようなEQカーブになっているのが分かる

 さあ、グループ機能です。ドラム・グループとベース/ギター/シンセ/ブラスそれぞれのトラック、それぞれにSmart:EQ 3をインサートして、ボーカルを最優先の“L1”、ドラム/ギター/ベースを“L2”、そのほかを“L3”に順位付け。ボタンを押して一気にAI分析/調整させました。なるほど、うまくボーカルの邪魔にならないように作られましたが、全体的に少し丸く太い方向に振られます。Smart:EQ 3の傾向で、高域が派手な音よりも、丸く落ち着いた方向になるようです。その後はドラム・トラックのSmart:EQ 3を開いて、ベースとボーカルのアナライザー・カーブを同時に表示させながら3つの関連性を確かめつつ再調整。同様の繰り返しでほかのパートもボーカルを確かめつつミックスを完成させました。

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グループ機能ではSmart:EQ 3がインサートされた最大6trを、優先順位を定めるL1〜3に振り分けて録音ボタンを押すのみで、AIが分析し、その優先度に従ってそれぞれのEQカーブを生成。結果、全体のバランスを自動的に整える

 結論として、ほかパートとの関連性を確かめられるアナライザーや、ざっくりと嫌な部分を削ってくれるAIスマート・フィルターを使えば、すごく効率的で整ったEQワークができそうです。“インサートするだけで派手に格好良くなる”といったビギナー向けではなく“目的の音に速くたどり着ける下地やワーク・フローを提供する”上級者向けEQだと思います。僕もこれから、じっくり使ってみたいです。

 

Nagie
【Profile】レコーディング・エンジニア/プログラマー/作編曲家。aikamachi+nagie、ANANT-GARDE EYESとしても活躍。Vocaloid『IA-ARIA ON THE PLANETS』の開発に携わる。

 

SONIBLE Smart:EQ 3

14,179円(価格は為替相場によって変動)

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REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.12以降、AAX/AU/VST対応のDAW(64ビットのみ動作)
▪Windows:Windows 8以降、AAX/VST対応のDAW(64ビットのみ動作)
▪共通:INTEL Core I5以上のCPU、4GB以上のRAM

製品情報