D.A.N.「Overthinker」のマルチトラックを素材に開催したミックス・コンテスト。多数ご応募いただき、誠にありがとうございました。完成度の高い作品が多く、熾烈な競争となりましたが、ここに結果を発表いたします。
最優秀賞
キャイ汰さん
●使用ツール:AVID Pro Tools、他
●賞品:SOLID STATE LOGIC UF8
市川仁也氏 (D.A.N.)からの選評
流れや音の配置&立体感が絶妙
この曲は、ビートが始まりから終わりまでほぼ地続きで鳴っている上で、メイン・テーマ/歌はシンプルなので、各展開ごとにどう聴かせるか、どう変化を付けるミックスをするかが大事になってくると思います。このミックスはそういう点においても、各セクションの切り替わりで空間系のエフェクトを足し引きしたり、音の質感を変えたりしながら繰り返しのフレーズであっても聴きどころを作り、曲の流れと同様にミックスに流れがあるのが好印象でした。音の配置と立体感は自分たちのミックス作業でも特に考えるところなのですが、しっかりとそれぞれの音が空間に配置されているので何か音が増えたときでも、ほかの音が存在感を無くすことなく高揚感を出していて良かったです。最後に、企画に参加してくださった皆様、たくさんのご応募ありがとうございました。最優秀作品おめでとうございます!
編集部からの選評
フォーカスさせたい部分が明確
曲のエネルギーを増幅させたようなミックスです。まずは冒頭のキック+サブキックが心地良く、リリース(超低域)が間延びせず、ちょうど良い長さで止まるように調整されており、低域のおいしい成分を無理なく前に出せていると思います。ベースやシンセが入る00:30辺りからのバランス作りも効果的で、重心をもう一段落としつつ中~高域に思い切った空間を加えることで、曲の場面が切り替わったという印象を強めています。各楽器の主張がビシビシ伝わってくるミックスですが、それでいて歌のボディ感や抜けを確保できていて素晴らしいです。むしろ歌を基準にして、個々の楽器を丁寧に処理しているのではないでしょうか。十分な周波数レンジや空間を備えつつ“フォーカスさせたい部分”が明確で、まるでマスタリング後のようなコントロールされた質感も魅力です。
奥田泰次賞
つたえ けいじさん
●使用ツール:PRESONUS Studio One 5(DAWソフト)、MOTU 1248(オーディオI/O)、EVE AUDIO SC205(スピーカー)、SHURE SRH940(ヘッドフォン)、他
●賞品:DEVIOUS MACHINES Infiltrator
奥田泰次氏からの選評
曲の良さをきちんと伝えるミックス
最終選考に残った10作の中で一番、ドラムの音が格好良いと思います。特にスネアの音色がフレーズにマッチしていて、キット全体も曲のテンポ感やイメージと合っている。まるでブレイクビーツのループのようなまとまりを感じます。ドラムが格好良いのにシンセやボーカルがちぐはぐに聴こえるものもあった中、つたえさんのミックスはその辺りのバランスも良く、曲のスピード感を保ったまま走り切る印象で、始まりから終わりまでずっとジェットコースターに乗っているかのよう。途中でクール・ダウンさせる場面があったりするものの、その前後の流れもスムーズにできています。僕は“楽曲の良さがきちんと伝わる”というのがミックスの最も重要な部分だと考えていて、それを一番よく実現できていたのがつたえさんのミックスなのではないかと思いますね。
土岐彩香賞
鎌塚大樹さん
●使用ツール:APPLE Logic Pro X(DAWソフト)、IZOTOPE Ozone 9、Neutron 3、INITIAL AUDIO Reverse(以上プラグイン)、他
●賞品:OUTPUT Thermal
土岐彩香氏からの選評
曲本来の世界を拡張するような音作り
曲の展開をドラマティックに演出しているミックスだと感じます。上モノやボーカルの音量のコントロール、またはそれらに対する空間系エフェクトのかけ方などで、各セクションをうまく切り替えていますね。例えば、セクションが変わる部分でステレオ感の強いシンセを上げたりしてサウンドスケープに広がりを持たせているのですが、単純に音像がワイドになるというよりは“景色”が広がるという感じ。楽曲の作り手が思い描いていたもの以上のデフォルメが良い意味でなされている印象で、ディレイの飛ばし方ひとつを取っても、私以上に振り切っている部分があると感じます。“自分だったらこうはミックスできないな”と思いました。
ちなみに、齊藤 博敬さんの応募作にも同様の感想を持ちました。とても迷ったのですが、ミックス全体のバランスの取り方においてよりクオリティが高いと感じられた鎌塚さんの方に、今回は票を入れさせていただいた形です。つたえ けいじさんの応募作も、飽きさせない展開作りなどの点で非常によくできていて、ミックスの方向性が私の感覚とすごくマッチしている印象でした。
福田聡賞
三浦幸司さん
●使用ツール:PRESONUS Studio One 5(DAWソフト)、IZOTOPE製のプラグイン、他
●賞品:STEVEN SLATE DRUMS Trigger 2
福田聡氏からの選評
“熱さ”と“冷静さ”の両方の視点を感じさせる
ドラムなどにかけているフィルターをはじめ、エフェクトの使い方が非常に巧みで、セクションごとの対比や全体のストーリーの作り方に個性を感じます。例えば、あるセクションをセンター寄りの音像に聴かせておいて、その次の場面ではステレオ感を強めることでコントラストを付けたりと、展開の作り方がすごく上手。また、スネアの音色などパーツ単位の処理や全体のバランス作りなども、よくできています。一例を挙げると、最後の方で音数が増えるセクション。そこのストリングスを聴かせるのに僕は結構苦労した覚えがあるのですが、三浦さんは効果的かつ混ざり良く聴かせています。没頭しながら“熱く”音作りする姿勢と一歩引いて俯瞰する視点……その両方をきちんと持ってミキシングしているのではないでしょうか。我々プロのエンジニアにとっても大事なことですね。
※諸般の事情により結果発表が遅くなってしまったことをお詫び申し上げます。