約3年ぶりのフル・アルバム『NO MOON』をリリースしたD.A.N.。櫻木大悟(vo、g、syn/写真中央)、市川仁也(b/同右)、川上輝(ds/同左)の3人に、プライベート・スタジオで引き続き話を聞く。インタビュー後編は、録音〜ミックスのディテールに迫ろう。
Text:辻太一 Photo:小原啓樹
インタビュー前編はこちら:
音の質感によってトラックを分けて録る
ー「Overthinker」ではベースが数トラックに分けて録音されていますが、何を基準に分割しているのでしょう?
市川 音の質感ですかね。フレーズによって録音時のEQの設定を変えていたりするし、指弾きの低音やピック弾きのギターっぽい高音などが混在しているので、分けて録っているんです。トラッキングに関しては、エンジニアの早乙女さんに相談しながら決めていました。“次は高音のフレーズを弾くので、硬めの音がいいです”とか言いながら。
ーベース・アンプでの音作りに加え、早乙女さんの方でもEQなどをかけてから録っていたのですね。
市川 はい。ベースだけでなく、ドラムやシンセ、ボーカルとかも早乙女さんに相談しつつ、アウトボードで処理してから録ってもらっていました。
ーボーカルも、かなり細かくトラックを分けてレコーディングされています。
櫻木 「Overthinker」については、ボーカルを3声くらいで構成しようかな?という大まかなアイディアがあったんですけど、現場でいろいろなマイクを試すうちに、それぞれの特性を生かしながら録ってみたいと思い始めて。だから“このパーツはこのマイクで”という録り方になり、録音しながらトラックの分け方を考えていった感じです。使ったマイクは全3種類で、VANGUARD V13とMICSHOP MS47 Mark II、早乙女さん私物のAKG C414EB(編注:ビンテージのシルバー・ボディ・モデル)。歌い方によって“こっちのマイクの方が何となく気持ち良いな”とか思ってコロコロ変えていたので、早乙女さんは超大変だったはずです……。
ー「Overthinker」のマルチを見る限り、ドラムのトラッキングはオーソドックスな印象ですが、サブキックやスネアのサンプルを生音にレイヤーして使っていますよね
川上 エンジニアの(山本)創さんにお願いして、STEVEN SLATE DRUMS Trigger 2でサンプルをトリガーしてもらったんです。リハスタの録り音で曲作りしていたときから、トリガーそのものはやっていましたね。
櫻木 創さんは現代的な手法に通じていて、最近のソフトなどにも詳しいんです。そして早乙女さんはアナログ・レコーディングのプロなので、僕らとしてはハイブリッドで多角的なアプローチができる。ものすごく助かっていますね。
ードラムに関しては、ボーカルが初めて登場する個所のサンプル~生音のモーフィングも技ありだと感じます。
櫻木 ELEKTRON Analog Heatのフィルターで作った音ですね。フィルターの使い方とかって、アーティストの個性がものすごく出る部分じゃないですか? そういう素材については、髙山さんにほぼそのまま使っていただきました。
川上 生のキックとサブキックが同時に鳴っているところもあれば、サブキックだけのセクションもあったり、徐々に混ざっていくようなところもあったり……こういう音作りは、レコーディングを終えた後にメンバーみんなでポストプロダクションしていたとき、しっかりとやりましたね。
髙山さんとバンドの色が混ざり合った音像
ーミックスに入ってからは、髙山さんにどのようなリクエストをしたのでしょう?
川上 もう、好き勝手言っていましたね。
櫻木 まずは、リファレンスにしたい曲とかを必ず伝えていました。「Overthinker」であれば、オーヴァーモノのこの曲のリズムをすごく参考にしています!とか。
川上 髙山さんとは確か「Aechmea」で初めてがっつり共同制作したと思うんです。あの曲には前身となるミックスがあったんですけど、髙山さんから最初に送られてきた新しいバージョンが衝撃的で……激変していたんですよ。めっちゃフェイザーがかかっているところがあったりして、すげえなと。新しさを感じたし、髙山さんとやっている意味があるなと思って。僕たちのリクエストをストレートに聞いてくれるだけじゃなく、ご自身の色みたいなものをしっかりと出してくださったので、それがアルバム全体のクオリティにもつながったんじゃないかと。
ーミックスで曲が変わることを象徴するようなエピソードですね。
川上 今回、髙山さんは録りの現場にかかわっていなかったので、すごく客観的にミックスできたんだと思います。そして、その“客観的な視点が入る”というのが大きかった。曲によっては僕たちのイメージと全く違うものが送られてくることもあったけど、それはそれでむちゃくちゃ良かったし、もらったものに対して“ここをこうしたいです”とリクエストしていました。既に髙山さんの色が入った状態で、それを僕らの色に近付けるという作業だったから、両者のカラーが混ざり合ってすごく良いミックスになったと思います。
市川 完成させた後にも、違うミックスだったらどうなるんだろう?みたいな可能性は無限にあると思うし、何をやっても“100%最高で完ぺき”とは思えない気がします。でもアルバムのミックスが仕上がった直後は、その時点での自分たちのベストを尽くせたと感じていましたね。
ー今後の作品について、何かイメージはありますか?
櫻木 より壮大に。ハンス・ジマーばりの映画音楽的な音像というのは、まだまだ追求できると思うので。
ーシネマティックさは、やはり意識する部分なのですね。
櫻木 う~ん、そこだったら僕らもやっていけるんじゃないかと思っていて。ブラック・ミュージックみたいなリズム感は持ち合わせていないし、圧倒的な歌唱力も無い。そんな中で、アイディアとか音に対する想像力であれば、勝負できる余地があるのかなと。そういう意味で、シネマティックなサウンドには今後もチャレンジしていきたいんです。
ー最後に、サンレコらしからぬ質問をいいですか?
市川 何ですか……?
ー歌詞についてです。文学的な魅力にあふれていると思うのですが、どういう視点で書いているのでしょう?
櫻木 そうですね……言葉というのは確実に自分のインナー・マインドみたいなものから出てくると感じていますし、これまでの経験とかも反映されているんじゃないかと思いますが、なるべく曲への想像を拡張させるような言葉を選んだり、面白みのある違和感を持たせたりするようにしています。
ー「No Moon」や前作の「Chance」の詞には“俺”という人物が登場します。彼は櫻木さんご自身なのですか?
櫻木 う~ん、そういう解釈もできるかなあ……。僕が詞の中で“俺”っていう言葉を使うときは、哀れというかみじめというか、いろんなことを他人に求めているけど自分は不幸だと思っている、みたいな対象に向けて、その一人称を当てているんです。自分にもそういう部分はあるし、とは言え誰かをモデルにしているわけじゃないんですけど、どこか満たされていない人というか。確かに「No Moon」と「Chance」の“俺”の使い方は近いかもしれませんね。
ーメロディに対する詞の譜割を追っていると、カラオケで歌おうと思っても難しそうですよね。
櫻木 はははは(笑)。実は前に、学生時代の友達から“お前らの曲、イントロが長くてカラオケで変なムードになるから、歌いたいけど歌えないのよ”って言われて(笑)。確かにな!と思って結構反省したんですよね。でも「No Moon」は、割とすぐに歌が始まるから、ぜひスナックとかでも歌ってほしいな。うまくなくていいんですよ、とにかく歌ってほしい。アルバム1曲目の「Anthem」とか、自分でも超しんどいですからね!
インタビュー前編では、 3rdアルバム『NO MOON』で目指したD.A.N.の音楽表現や、曲作りのプロセスについて話を聞きました。
Release
3曲のインタールードを含む全12曲。従来作からサウンドのステレオ・イメージや奥行きを大幅に拡張し、幾重ものレイヤーを聴かせる。もはや“エレクトロニクスを導入したバンド”とは一口に言えない音像で、描き込まれた絵画のようでもあり、精緻な長編映画、もしくはアルバム全体が動乱の現世を表現した詩のようにも迫る作品だ。
『NO MOON』
D.A.N.
SSWB/BAYON PRODUCTION:XQNM-1001(SSWB-013)/通常版CD、XQNM-91001(SSWB-014)/プレミアム・ボックス
Musician:櫻木大悟(vo、g、syn、prog)、市川仁也(b)、川上輝(ds)、Utena Kobayashi(steelpan、vo)、Takumi(rap)、tamanaramen(vo)
Producer:D.A.N.
Engineer:早乙女正雄、髙山徹、山本創、D.A.N.
Studio:aLIVE、Red Bull Tokyo、Switchback、HAJIME STUDIO、プライベート