サンレコ読者の皆さん、こんにちは。音楽プロデューサーのPuckafallです。普段はトラップ・シーンのラッパーを中心に楽曲提供を行っています。ちなみに長年愛用しているIMAGE-LINE FL Studioは、これまでWindowsのラップトップにインストールして使っていましたが、先月からAPPLE MacBook Proでの使用に切り替えました。FL StudioはWindowsとMacに両対応なのでありがたいですね。連載第3回はトラップの音楽制作に欠かせないFL Studio付属エフェクトについて紹介したいと思います。
Gross Beatでボリュームやピッチをリアルタイムに変化させる
まずはGross Beat! このプラグインを最初に紹介するべきだと思いました。現に“FL Studioと言えばGross Beat”と言われるくらい人気があり、個性的なエフェクト・プリセットも多く収録しているからです。
Gross BeatはSignatureエディションに付属するマルチエフェクトで、ボリュームやピッチをリアルタイムに変化させることができる優れもの。グリッチ、スタッター、リピート、スクラッチ、ゲートといった効果を再現できるため、私はGross Beatを多用しています。
それではGross Beatを見てみましょう。画面左側上部にはtime(時間)に関するプリセット欄やパラメーターがあり、同左側下部にはvolume(音量)に関するプリセット欄やパラメーターが配置されています。Gross Beatの画面右側にあるタイムライン上では、timeに関するパラメーターは緑色のラインで、volumeに関するパラメーターはオレンジ色のラインで表示されます。
プリセットはtime/volumeのそれぞれに36種類ずつあり、プリセット名の部分をマウスでクリックするだけでイメージ通りのエフェクトや、複雑なエフェクトを作成することができるでしょう。多種多様なプリセットが備わっているので、あなたのニーズにもきっと応えてくれるはずです。
ちなみに、Gross Beatに備わるプリセットの中で最も有名なものが“1/2 Speed”です。名前の通りテンポを半分に落として再生してくれます。それに伴いピッチも1オクターブ下がるため、ダークでミステリアスな雰囲気にしたいときなどにお勧めです。この手法はヒップホップやトラップ・シーンにおける数々の名曲で使われており、私自身も“何か物足りないな”と感じたらとりあえずプリセットの“1/2 Speed”を試すようにしています。
ほかにはGross Beatで再現する“スクラッチ・エフェクト”も人気。これは簡単に言うとテープ・ストップ・エフェクトと同じ原理です。やり方は、まず緑色のライン上でcontrol+クリック(Windowsは右クリック)します。するとメニュー画面が表れるので、Mode欄からSingle curveを選択し、画像のようにライン・カーブを調節しましょう。これだけで、簡単にスクラッチしたときのサウンドや、テープがストップするときのサウンドを再現することができます。
8つのフィルター・バンクを搭載するFruity Love Philter
Fruity Love Philterは、ローパス/ハイパス/バンドパス・フィルターなどを備えるフィルター・エフェクトです。どのエディションにも付属しています。
Fruity Love Philterの特徴は、8つのフィルター・バンクを搭載しているところ。各フィルター・バンク同士を直列でつなぐのか、並列でつなぐのかについても選べます。これによって、Fruity Love Philterはより複雑なディレイ/ゲート/フィルター効果を作成することが可能になるのです。
Fruity Love Philterは前述したGross Beatと同様、個性的なエフェクトが作れます。ですので、もし楽曲に使用されていたら“Fruity Love Philterの音だ!”と気付く方がいるかもしれません。特にシカゴのドリル・ミュージック・シーンで有名なチーフ・キーフや彼ら周辺のアーティストが、こぞって彼らの曲のイントロに使用していたイメージがあります。また今日ではトラップの楽曲にも応用されることが多いです。
8つのフィルター・バンクのオン/オフは、各バンクの上部にあるオレンジ色のライトをクリックするだけ。FILTERセクションでは、使用するフィルター・タイプやカットオフ周波数を設定できます。フィルター・タイプは全部で11種類を備え、ENVノブの真上に位置する長方形のボタンをマウスで上下にドラッグすることで切り替え可能です。
私はFruity Love Philterを使って音の雰囲気を作り込むことが多いです。画面右側にはXYパッドを備えているため、直感的にフィルター・エフェクトを施すことができます。こちらもデフォルトで数多くのプリセットがありますが、私はよく“Simple triangle lowpass LFO”というプリセットを使います。イントロの上モノ全体にかけたり、オートメーションを書いたりすると、音楽的な表現力が高くなるので試してみてください。楽曲の雰囲気をガラッと変えたいときにもFruity Love Philterは有用です!
アナログライクな温かい質感を持つVintage Chorus
最後はVintage Chorus。Signatureエディションに付属するコーラス・エフェクトです。
Vintage ChorusはROLAND Juno-6に搭載されたバケット・ブリゲード・ディレイ(BBD)にインスパイアされています。このコーラスは温かみのある質感で知られており、とても人気の高いサウンド。多くのハードウェアおよびソフトウェア・メーカーがこのコーラスのクローン・モデルやプラグインを制作しています。
私は収録プリセットの“Quick Vibe”のように、スラップ・ディレイ的な用途でよく使います。つまり音をがっつり変えるという目的ではなく、“深み”や“厚み”といった変化を少しだけ加えたいときに用いることが多いです。
ほかにもパキッとした音色のコード楽器に対して使用することが多く、そのときはプリセットの“Pulse Rocker”を選びます。このプリセットにすることで、パキパキとしたサウンドが適度ににじんでくれるからです。このように細かくサウンド・メイキングを施し、幾つも重ねていくことで楽曲全体における音の深みが変わります。Vintage Chorusは操作も簡単ですので、ぜひビギナーの方も取り入れてみてください。以上、私のお薦めエフェクト・ベスト3でした。次回はいよいよ最終回です。それでは!
Puckafall
【Profile】2000年生まれのヒップホップ・プロデューサー、ビート/ループ・メイカー。2020年からIMAGE-LINE FL Studioを用いたビート・メイキングを始める。これまでにリル・キード、ハンクスホーといった海外のラッパー勢のほか、国内ではJP THE WAVYやLEX、Only U、Sound's DeliのメンバーTim Pepperoni、Showyなどへ楽曲提供している。またオンライン・ゲーム、VALORANTのWEB CM音楽も制作。ピアノやシンセサイザーを使用した哀愁のあるループが特徴だ。
【Recent work】
『宝物 』
Showy
(Showy Production)
IMAGE-LINE FL Studio
LINE UP
FL Studio 21 Fruity:19,800円|FL Studio 21 Producer:33,000円 |FL Studio 21 Signature:39,600円|FL Studio 21 Signature クロスグレード:25,300円|FL Studio 21 Signature 解説本バンドル:41,800円|FL Studio 21 クロスグレード解説本バンドル:27,500円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、INTELプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 8.1/10/11以降(64ビット)INTELもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM