さまざまな現場で多様性を見せるデジタル・コンソール=YAMAHA TF Series

第2回 TF3×ルフス池袋 esports Arena

マルチタッチ対応のタッチ・パネルを採用し、それに最適化された直感的な操作性を特徴とするPA用デジタル卓、TFシリーズ。今回は、eスポーツ施設のルフス池袋 esports Arena(以下、ルフス池袋)に常設のTF3をピックアップし、eスポーツ・シーンでの有用性に迫る。

コンパクトな筐体に十分な入力数を備え
安定性も望めるのが導入理由

eスポーツとはエレクトロニック・スポーツの略称で、コンピューター・ゲームやビデオ・ゲームでの対戦をスポーツ、つまり競技として解釈したもの。それを大勢の客が観戦する大会も存在し、新しいエンターテイメントの形として定着しつつある。ルフス池袋は、E5esports Worksが2018年にローンチした施設。JR池袋駅から徒歩3分の好立地で、フロアへ入るとハイエンド・ゲーミングPCがずらりと80台並んでいる。前方には貸し切りイベント時にMCや実況解説者らが登壇するステージがあり、両脇に“ボックス型選手席”と呼ばれるガラス張りの遮音室がスタンバイ。2つのチームがステージを挟み対戦する際に使われる部屋だ。

そしてもう一つ特徴的なのが、音響や映像を司るテクニカル・ルーム。「国内にはeスポーツ施設を運営する企業が15〜20社ありますが、テクニカル・ルームを設けているのは一握りです」と語るのは、E5esports Worksの代表で、国内eスポーツ文化の先駆者としても名高い長縄実氏だ。2000年代初頭からのキャリアで培った知見は、ルフス池袋のプランニングにも生きている。

「例えばネットワークの設備は、全コンピューター端末のイコール・コンディションを目指し、専門の企業に協力を仰いで独自設計のハブを導入するなどしています。音響の部分に関しては、インフィニットシステムズの新谷収さんに相談しながら決めました。eスポーツの音響には、選手の声やゲームのSE、MCのマイクといった入力ソースがあり、特にSEについては一つの大会の中でルール形式(対戦の仕方やそれに伴う機器の構成)が変わると内容も一変するため、転換時などに何種類ものゲームの音がPAに流れ込むこともあるんです。だから卓の入力数は、多ければ多いほどいいわけですね

Feature #1 豊富な出力

▲TF3は背面に16基のライン・アウト(XLR)を備えており、LFS池袋ではそれらをフル活用している。パネルを見てみると、メインPAや録音、モニターなどさまざまなセクションに出力されているのが分かる ▲TF3は背面に16基のライン・アウト(XLR)を備えており、LFS池袋ではそれらをフル活用している。パネルを見てみると、メインPAや録音、モニターなどさまざまなセクションに出力されているのが分かる

こうした現場にふさわしい卓として導入されたのがTF3である。新谷氏にチョイスの動機を伺った。
「安定性、コンパクトさ、入力数など、さまざまな理由があります。まず安定性については、私もこれまでYAMAHAの卓を各種現場で使ってきましたが、トラブルが無いに等しいんです。自分がここに居らず、音響専門外の方がオペレートしなければならないときにも安心感が違います。コンパクトさに関しては、限られたスペースに十分な入力数の卓を置く必要がありました。当初はTF1を提案しましたが、より多くの入力が要るとのことだったので、本体にマイク/ライン・インを24基備えるTF3を選んだのです。また、ロング・スケールのフェーダーが付いているのも魅力ですね。eスポーツのオペレートではリアルタイムに調整しなければならない点が多く、実際かなり忙しいので、こうしたフェーダーが無いと厳しいでしょう

eスポーツの現場に効くAUTOMIXER
音響専門外の人にも扱いやすいタッチ・パネル

現場で重宝している機能として、ch1〜8の音量バランスをリアルタイムかつ自動的に最適化するAUTOMIXERが挙がった。新谷氏は、これを声のソースに活用していると言う。
「本来であればマイクとラインの両ソースを手動で制御するのですが、ラインだけで手一杯になってしまう瞬間もあるため、マイクをある程度任せられるのは良いですね。精度についても満足していて、ルフス池袋では何の不自由もありません

Feature #2 AUTOMIXER

▲DAN DUGAN SOUND DESIGNのオートマティック・マイク・ミキサー。ゲート型の音量制御機能ではなくゲイン・シェアリング型なので、アタック部分への処理が欠けてしまうようなこともない ▲DAN DUGAN SOUND DESIGNのオートマティック・マイク・ミキサー。ゲート型の音量制御機能ではなくゲイン・シェアリング型なので、アタック部分への処理が欠けてしまうようなこともない

新谷氏が不在のときにはE5esports Worksのスタッフがオペレートすることもあるそうだが、主要なコントロールをタッチ・パネルで行えるのが功を奏しているという。
「パソコン・スキルにたけた方ばかりなので、タッチ・パネルでの操作には全く抵抗が無いようです。EQなどもマルチタッチで設定できますし、ノブを触るより直感的なのでしょう。ギター用チューナーのような画面表示で入力ゲインを設定できる“GainFinder”なども分かりやすく、気付いたら皆さん、各自のプリセット・データを作って保存していましたよ

Feature #3 マルチタッチ対応の操作性

▲TFシリーズは、本体のタッチ・パネルによる操作のほか、APPLE iPad用無償アプリTF StageMixでのリモート・コントロールにも対応。マルチタッチで直感的に操作できるのがうれしい ▲TFシリーズは、本体のタッチ・パネルによる操作のほか、APPLE iPad用無償アプリTF StageMixでのリモート・コントロールにも対応。マルチタッチで直感的に操作できるのがうれしい

出力系に関しては、本体上にXLRのライン・アウトを16基備えているのが魅力だと言う。
「フロア向けのアウトプット・システムだけでなく、ネット配信の部隊にも音声を送りますし、リプレイ再生のために現場を録画しているチームへも別途伝送する必要があります。だからアウトの数が重要になるのですが、TF3はこのサイズと価格で本体アウトが16基もある。これはありがたいですね

安定性と利便性でeスポーツの現場に貢献しているTF3。オプションのDanteカードYAMAHA NY64-Dで入出力の拡張も可能なため、将来的にも有用な一台と言えるだろう。

Interviewee

▲2000年代初頭から国内eスポーツ・シーンをけん引するE5esports Worksの長縄実氏(左)と、ルフス池袋の音響設備を設計したインフィニットシステムズの新谷収氏(右)。背景はルフス池袋のフロア ▲2000年代初頭から国内eスポーツ・シーンをけん引するE5esports Worksの長縄実氏(左)と、ルフス池袋の音響設備を設計したインフィニットシステムズの新谷収氏(右)。背景はルフス池袋のフロア

TF Series Overview

直感的な操作性を特徴とするPA用デジタル・ミキサー。TF1(250,000円前後)、TF3(300,000円前後)、TF5(350,000円前後)の3機種をそろえ、さらにリーズナブルな価格となった。機能的にはベーシックなプロセッサーのほか、マイク用プリセットやオート・ミキサーを搭載。Mac/WindowsマシンとUSB接続すれば、付属のSTEINBERG Nuendo Live 2などに最大34trの録音が可能だ。(文中価格はオープン・プライス:市場予想価格) TFseries