TOMOKO IDAが明かす珠玉のオーディオ加工テクニック

TOMOKO IDAが明かす珠玉のオーディオ加工テクニック

今をときめくトップ・クリエイター7組に、作品で使用する珠玉のオーディオ加工テクを伺う当特集。第6回はトラック・メイカー/プロデューサーのTOMOKO IDAに披露していただきます。

その1:Vocal 〜ピッチ補正と移調を合わせてイメージ通りのコーラスに

 参考楽曲 

「se no 2022」(『8OYA』収録)
TOMOKO IDA

【Time】1:20~

 コーラスを足したいときに、Spliceなどから見つけてきたボーカル・サンプルを使用する方も多いかと思いますが、私はサンプルを自分の理想の声にするために、ピッチ補正プラグインのSOUNDTOYS Little AlterBoyを使っています。この曲では女性コーラスのサンプルを落ち着いた女性が歌っているイメージにしたかったので、Little AlterBoyのFORMANTを−1.8に設定しました。

Little AlterBoyのFORMANTを−1.8(青枠)にして、コーラスを落ち着いた女性の声に加工。さらに複製したボーカル・サンプルを移調で3度上げてハモリを作成している(赤枠)

Little AlterBoyのFORMANTを−1.8(青枠)にして、コーラスを落ち着いた女性の声に加工。さらに複製したボーカル・サンプルを移調で3度上げてハモリを作成している(赤枠)

 あとはやっぱりハモリが欲しいなと思い、すぐ下のトラックにサンプルを複製して、移調で3度上げました。この2つの組み合わせは、ソング・ライティングを行う中で別のレイヤーが欲しくなったときによく行います。Little AlterBoyは多岐にサウンド・メイクでき、とても便利なプラグインです。

その2:Vocal FX 〜ボーカルを素材にフックとなるイントロを作る

 参考楽曲 

「マスカラ-Emotional Afrobeats Remix-」(『共鳴』収録)
SixTONES
(ソニー)

【Time】0:00~

 この曲はリミックス楽曲で、アフロビーツにするというテーマがありました。アフロビーツは昨今のトレンドのジャンルで、ボーカルFXのループがフックとなっている曲が多いので、原曲のサビをリフレインさせるところから始めています。

 まずイントロで、サビの冒頭フレーズ最後の“ま”だけを分割して、1オクターブ下げました。次に、原曲の同じボーカル部分をランダム・マルチエフェクト・プラグインのMELDAPRODUCTION MRhythmizerで加工して並べています。ループしながら何度も試して、良い感じになったらオーディオに書き出します。

イントロは、大きく分けて4つの加工されたパートで構成。原曲のままのボーカル素材(黄枠)、歌の最後のフレーズ“ま”をオクターブ下げた部分(赤枠)、MELDAPRODUCTION MRythmizerで加工したボーカル(青枠)、カットアップしてEQで高域と低域を削った部分(緑枠)から成る

イントロは、大きく分けて4つの加工されたパートで構成。原曲のままのボーカル素材(黄枠)、歌の最後のフレーズ“ま”をオクターブ下げた部分(赤枠)、MELDAPRODUCTION MRythmizerで加工したボーカル(青枠)、カットアップしてEQで高域と低域を削った部分(緑枠)から成る

MRhythmizerは、リアルタイムでピッチやテンポを変えたり、フィルターやスタッターのような効果を付けられるプラグイン。動きを見ながら視覚的に操作可能

MRhythmizerは、リアルタイムでピッチやテンポを変えたり、フィルターやスタッターのような効果を付けられるプラグイン。動きを見ながら視覚的に操作可能

 イントロの最後は、別のトラックにカットアップしたボーカルを並べ、EQで低域と高域をカットして電話の会話音のようにしました。これでスクリュー的なフックとして機能するイントロの完成です。イントロが先にできたり、曲の鍵となる要素が先に出来上がったりすると、全体のイメージも見えてくるので、その後の部分を作っていきやすくなりますよ!

その3:Strings 〜ソフト・シンセのオーケストレーションを生楽器のように聴かせる

 参考楽曲 

「Savior」(『GLOW』収録)
idom
(ソニー)

【Time】0:09~

 ソフト・シンセで作ったオーケストラを“生演奏っぽく”聴かせるために、導入部分に生ストリングスのサンプルを張り付けます。ここでは長めのサンプルの、細かいフレーズを演奏しているところを部分的に使用しています。オーケストラの壮大な感じをDAW上で出すのは難しく、ペタッとした印象になりがちです。かといってオーケストラ要素をすべて生楽器のサンプルにしてしまうと、あまりにも“それっぽい”ものになってしまいます。そこで入口を生楽器にすると、後が本物のオーケストラのように聴こえてくるのです。

オーケストレーションが鳴る直前や小節のつなぎ目などで部分的に生演奏のサンプルを配置(赤枠)。リバーブをかけてオケになじませるのも忘れずに

オーケストレーションが鳴る直前や小節のつなぎ目などで部分的に生演奏のサンプルを配置(赤枠)。リバーブをかけてオケになじませるのも忘れずに

 あとは減衰するようにフェードを書き、リバーブを深めにかけてオーケストラになじませてください。リバーブは深くかければかけるほどなじみます。サンプルのキーを合わせるために移調しすぎると音が劣化してしまいますが、逆に±2度くらいであれば変更してもOKです。

その4:Drums 〜複数のキックを使って強烈なグルーブを生成

 参考楽曲 

「Curve」(『WARNING』収録)
Sunmi
(MAKEUS ENTERTAINMENT)
【Time】 0:30~

 この曲ではキックに複数の異なるサンプルを使っています。ROLAND TR-808、アタックの強いものと弱めのもの、生ドラム風、といった4種類です。コライトで作った曲なのですが、メインの上モノがシンプルなピアノで、表情を付けるためにはドラムを動かすしかないなと。強いキックを単体で鳴らすよりも、そこに小さな音量のキックなどを並べることで、生き生きとしたグルーブを作ることができます。

0:30からは4種類のキックでグルーブを生成。0:50からはドラムのループ・サンプル(白枠)を基準にしつつ、TR-808のキック(黄枠)が前に出るようにしている

0:30からは4種類のキックでグルーブを生成。0:50からはドラムのループ・サンプル(白枠)を基準にしつつ、TR-808のキック(黄枠)が前に出るようにしている

 サビではアタックの強いキックを取り除き、代わりにドラムのループ・サンプルが入ってきます。コライトで制作する場合、曲の作りはじめに“とりあえずドラムを置いておく”という風に、仮で配置することが多いです。そのループを基本にしつつもそのまま作ってしまうのも……というときにはそこに別のキックを重ねて構築していきます。私の中ではTR-808がこの曲には合っていると感じていたので、より強調してメインのキックとして扱っています。

 

TOMOKO IDA

TOMOKO IDA
【Profile】東京都出身。国内外でも数少ない女性トラック・メイカー、プロデューサー。日韓トップ・アーティストを手がけ、RIAJトリプル&ダブル・プラチナ・ディスク認定作品に幾つもの楽曲提供実績を持つ。

【特集】オーディオ加工に首ったけ〜7組の匠が明かす珠玉のテク