3台のiPadから同一Max Miraコンソールに接続。録音/再生や機材設定まで網羅
今月は、伊藤隆之さん謹製“細井オレオレコンソール”の解説です。システム構築時の思想に基づき6日間のクリエイションの中で最終的にできたもので、これが完成ではなく、このコンソールが今後創作をどう変えていくか?の視点に重きを置いて読んでいただけるとうれしいです。あと、動けばOK>>>見た目で、触る人(=私)が分かればOKです。
このコンソールができることは大きく分けて2つ。音の制御と照明の制御です。コントローラーは共通で、3台のAPPLE iPad(iPad Air 第5世代 2台、iPad Pro第1世代。iPad Mini第1世代も持ち込んだが、Miraが非対応で使えなかった)上にCYCLING '74のMax Miraをインストールし、動作させます。設計/実装はすべて伊藤さんによるもので、開発にはAPPLE MacBook Pro (16-inch, 2019)を使用。
Max Miraではタブでコンソールを切り替えられるので、iPad3台から同じMax Miraコンソールにアクセスし、iPad Aでは1ページ目、iPad Bでは2ページ目、iPad Cでは3ページ目を表示。今持っているiPadは何ページ目だっけ⁉となるので、マステでアサインを張りました(スピーカーにもマイクにもすべてマステでアサインした番号を張ります。制作中に動かしたり、自分以外の人に動かすのをお願いする場合はマストです!)。あと、1ページ目は青、2ページ目は赤、3ページ目は緑、のように色で記憶できるようにもしています。
音のコンソールでできること、使用例や背景は下記です。
- 2分以内のフレーズの録音:伊藤さんが手配してくれたワイアレスの録音ボタンを俳優の袖の中に隠すなどした。
- 録音したフレーズの再生ボタン:押したらすぐ再生。俳優があるスピーカーに近づいたタイミングで再生させるなど。
- 録音したフレーズのループ再生ボタンとループ時間の設定:アイディアはここから広がった。音楽用のルーパーのタイム感でなく“象徴的なフレーズが10分後に違う場所で再生されたらどういうことが起こるか”を試したかった。
- 簡易EQのオン/オフと帯域設定:今回はBOSEのBluetoothスピーカー2台(伊藤さんの SoundLink Revolve+ IIと細井のSoundLink Mini Ⅱ)も使い、それらをキャット・ウォークに設置した滑車を介してフロアからロープを引っ張ることで高さを調節した。例えば俳優と同じ高さにあるときと天井に近いときで関係がどう変わっていくかの実験をしたのだが、位置に加えて劇場のスピーカー(NEXOとD&B AUDIOTECHNIK)とは違うラジオのような音声がより象徴的に聴こえ、NEXOから再生する音声にもEQをかけてラジオのように聴かせたらどうなるかを試すために機能を追加。ちなみに伊藤さんの開発用MacBook Pro1台からBluetoothスピーカー2台への出力はできなかったため、BOSE1台用に細井のMacBook Proを伊藤さんのDanteネットワークにつなぎ、Bluetooth用としてMacBook Proも稼働させた。
- ボリューム・フェーダーとボリュームをデフォルトに戻すボタン:スピーカーの距離と種類によって異なる聴こえ方を調整するために必須。今回のような点在したスピーカー配置の場合、同じように聴かせるための調整というよりは、位置の違いが分かるようにするために使った。
- 録音に使うマイクの設定:今回はインプットとしてSHURE ULXD1-JBにDPA SC4060を付けたもの4台とSHURE SM58を数本用意し、それぞれにチャンネルをアサイン。実験初期では、例えば細井がch1、伊藤さんがch2、額田君がch3、俳優の長沼さんがch4のようにとりあえずワイアレスを付け、何か思い付いた人が舞台で試してみる、という流れがあったので、“私がやるから全部インプットch1にしておいて〜”みたいな使い方をした。インプットを変えられるのはシステムの底上げになった気がします。
- 再生に使うスピーカーの設定:全部で20カ所程度用意していたので、それぞれ選択できるように。同じ音源でも俳優と音源の関係が変わると意味が変わり面白い。
- 再生に使うスピーカーをランダムに選択するボタン:再生するスピーカーをマシン任せにすると、人間が意図しない振る舞いが生まれて面白い。制限されたランダム・ボタンも伊藤さんのホスピタリティによって用意されていて、フロアにあるものか天井か、小ホールの外側に置いてあるものか、指定したエリアでランダムに再生することも可能になっている。
- 次の再生までのステータス・バー:視覚で次の発音を把握。
照明が当たるエリアや光り方を制御。ユーザー・インターフェースは筆者が制作
照明のコンソールでできることは下記の通りです。
<照明が当たるエリアの制御>
- 愛知県芸術劇場小ホールを25(5×5)エリアに分けたスポットライト
- 小ホール内に設置したスピーカー16個に当てたスポットライト:クリエーション後半には、再生の何秒前に何秒かけて照明がフェードインするか、再生後何秒かけてフェードアウトするか、なども追加実装された。
- 可動の床置きLEDスポットライト2つ
- 天井からつった裸電球1つ
- 小ホールの天井に設置されている作業灯
<光らせ方の制御>
- フェードイン/フェードアウトの長さ
- blink(点滅)のオン/オフ
- blink timeの長さ(何秒ごとに点滅するか)
- 床置きLED/電球の明るさ
- 上記すべてにかかる明るさのマスター・フェーダー
照明のコンソール制作で伊藤さんとうまく連携できたのは、ユーザー・インターフェースの制作とシステムの実装を分担したこと。Maxコンソール・メイカーの方々は共感してくださるかと思いますが、使いやすさを考えることと、システムを考えることは別なので、実際に使う人がユーザー・インターフェースを作ればベストじゃん!となりました。伊藤さんはシステムに集中できるし、私は使うまでに慣れる必要がない。オブジェクトの数だけ確認しておけば分担作業できる。
今回のクリエイションでは、額田君と俳優たちと同じ空間で私たちもシステムをアップデートしていったので、どれくらいの時間でどれくらいのトライ&エラーができるのかなど、言葉では伝えられない感覚を共有できました。同時に、こちら側は、俳優や言葉による効果も少し体感できた。システムに没頭してしまいそうですがここでいったんストップして、次はクリエーションを経た新作のコンセプト検討です。続きはまた、公演の頃に……ではまた〜!
今月のひとこと:浜松のヤマハ本社に1週間こもっていました、脳がホクホク、公開いつかな〜!
細井美裕
【Profile】1993年生まれ、慶應義塾大学卒業。マルチチャンネル音響を用いた空間そのものを意識させるサウンド・インスタレーションや、舞台公演、自身の声の多重録音を特徴とした作品制作を行う。これまでにNTT ICC無響室、YCAM、札幌SCARTS、東京芸術劇場コンサートホール、愛知県芸術劇場、国際音響学会AES、羽田空港などで作品を発表してきた。