AMBIENT KYOTO 2023 〜坂本龍一+高谷史郎など4組が独自の“アンビエント”を表現したインスタレーション展

AMBIENT KYOTO 2023 〜坂本龍一+高谷史郎など4組が独自の“アンビエント”を表現したインスタレーション展

2023年10月6日(金)~12月31日(日)
京都中央信用金庫 旧厚生センター/京都新聞ビル地下1階

昨年、ブライアン・イーノをキュレーターに迎え好評を博した展覧会『AMBIENT KYOTO』が今年も開催されている。新たな会場として京都新聞ビル地下1階が追加され、坂本龍一+高谷史郎、コーネリアス、バッファロー・ドーター、山本精一という4組が展覧会に参加。音・映像・光を用いて、それぞれが独自の“アンビエント”を表現したインスタレーションを展開している。本稿では各展示の紹介に加え、音響ディレクターを務めたエンジニアのZAK氏を中心に音響担当の方々へのインタビューを掲載。じっくりと読み進めていただき、ぜひ会場へと足を運んでもらいたい。

坂本龍一+高谷史郎|async - immersion 2023

坂本龍一+高谷史郎|async - immersion 2023

 坂本龍一が2017年に発表したアルバム『async』を元に制作された、高谷史郎(ダムタイプ)とのコラボレーション作品の最新版。かつて印刷工場だったという京都新聞ビル地下1階に、横幅25m以上の巨大なスクリーンを設置。6.6.5.2.1.2ch(スクリーン上、会場後方、スクリーン下、スクリーン横のL/R、サブウーファー、会場後方のベンチ用L/R)というチャンネル構成で、合計37台のスピーカーをセッティング。会場の大きさ、形状を最大限に生かし、聴取位置の違い、あるいは歩きながらといった体験の仕方によって印象はさまざま。外の世界や時間を忘れて楽しんでほしい。

(展示会場:京都新聞ビル地下1階)

コーネリアス|QUANTUM GHOSTS

コーネリアス|QUANTUM GHOSTS

 最新アルバム『夢中夢 -Dream in Dream-』の先行シングル「火花」のカップリングとして収録されている楽曲を使用。360°に配置されたスピーカーは、4.4.4.1.4ch(東西南北に90°間隔で配置、その間の45°の位置、床下、サブウーファー、天井)で構成している。ステージを中心に、光と音が縦横無尽に動き回る様は圧巻の体験だ。

(展示会場:京都中央信用金庫 旧厚生センター1階)

コーネリアス|TOO PURE

コーネリアス|TOO PURE

 『夢中夢 -Dream In Dream-』収録曲を、3方向の立体スクリーンを用いた映像とともに再生。スピーカーは、スクリーン上に配置した7台のNEUMANN KH 150と、サブウーファーのKH 810を使用した7.1ch仕様。床には人工芝が敷き詰められ、幻想的なアニメーションを座って見ながら楽しむこともできる。

(展示会場:京都中央信用金庫 旧厚生センター2階)

コーネリアス|霧中夢 -Dream in the Mist-

コーネリアス|霧中夢 -Dream in the Mist-

 音と光、さらには曲の展開に合わせて噴射される水蒸気の霧によって、楽曲の世界観を再現。スピーカーは、防滴仕様のBOSE PROFESSIONAL ArenaMatch Utility AMU206を部屋の中央に6台、両端に2台、そしてサブウーファーのNEUMANN KH 710を合わせた6.1.2ch構成。驚きと癒しをもたらす、まさに夢の中にいるような空間が広がっている。

(展示会場:京都中央信用金庫 旧厚生センター3階)

バッファロー・ドーター|ET(Densha)/Everything Valley
山本精一|Silhouette

バッファロー・ドーター|ET(Densha)/Everything Valley

バッファロー・ドーター|ET(Densha)/Everything Valley

山本精一|Silhouette

山本精一|Silhouette

 バッファロー・ドーターと山本精一の展示を、同じ部屋で順番に展開。スクリーンを両サイドに設置し、スピーカーはGENELEC 8331A×4台、8341A×8台、8351A×4台とサブウーファーのMeyer Sound PSW-2から成る12.1.4ch構成。心地良いビートの「Everything Valley」、重心が低くずっしりとした「ET(Densha)」、映像と音がモアレ状に展開する「Silhouette」と、異なった魅力を持つ作品を堪能できる。

(展示会場:京都中央信用金庫 旧厚生センター3階)

Interview|ZAK 〜各展示が見えないところでつながっている。音のフォノグラムのような空間そのものを感じてほしい

ZAK

 『AMBIENT KYOTO 2023』の音響ディレクターを務めているのが、サウンドディレクターのZAK氏。『async - immersion 2023』の音響ディレクションをはじめ、旧厚生センターの各作品では展示ディレクションも担っており、本展覧会のキーパーソンの一人と言える存在だ。今回はZAK氏の話を中心に伺いつつ、音響スタッフとして関わるメンバーから東岳志氏、山本哲哉氏、濱哲史氏、渡邉武生氏、赤川純一氏にも同席していただいた。チーム一丸となって作り上げられたという『AMBIENT KYOTO 2023』の音響システムに迫っていこう。

展示に一貫性を持たせる

 まずはZAK氏が『AMBIENT KYOTO 2023』に関わった経緯を伺った。

 「プロデューサーの中村周市さんと、音響の東岳志君から、“今年もAMBIENT KYOTOをやるから手伝ってくれないか”という話をもらったのが始まりですね。音響のみならず、アーティストは誰がいいか、組み合わせをどうするかという部分も含めて話をしているうちに、こういう立場になりました。各展示の並びを全体として見たときに、まとまりすぎず、けれどもちゃんと一貫性はあるようにということを考えていました」

 「プランニングしているのは僕だけれども、その先はほかの人たちにも手伝ってもらっています」とZAK氏が語るように、音響にはさまざまな人物が関わっている。

 「僕と山本哲哉君、渡邉武生君は“チーム坂本”なんです。PA現場で長年一緒にやっていて、ちょっとしたスピーカーの角度や位置の問題、システムの組み方とか現場の細かな部分を埋めてくれる存在です。東君は飴屋法水さんの舞台作品を一緒にやっていて、山の中で滞在制作をしていたりして電気関係に強い。旧厚生センターの設備や機材回りを全面的に手掛けてくれています。あとはスピーカーを行き来するような音の動きを作るサウンドプログラマーとして『async - immersion 2023』ではダムタイプの濱哲史君が参加してくれて、その濱君の紹介で来てくれた赤川純一君が旧厚生センターの展示を担当してくれています」

 各展示の音響は、ZAK氏がDolby Atmos 9.1.4ch環境を構築している自身のスタジオ、ST-ROBOにてミックスを行い、その後実際に会場で音を出して調整するという手法で制作された。展示ごとに詳しく聞いていこう。

バランス感は頭の中にできている

 『async - immersion 2023』の会場、京都新聞ビル地下1階には37台のスピーカーを設置。印刷工場の名残があるイレギュラーな形状ということもあり、ギリギリまでレイアウト調整が行われたそう。『async』は5.1chサラウンド版もリリースされている作品だが、ZAK氏は会場に合わせ、ステムデータと一部は元のセッションデータから新たなミックスを作成している。

 「例えばスクリーン前に置いている5台のスピーカーの場合、スタジオでは9.1.4chのフロントのL/C/Rに置き換えて作業していました。そのように会場のスピーカーの配置をイメージしながら、Dolby Atmos Rendererでオブジェクトを並べて作っていきました。会場に入ってからは、すべてのチャンネルをバスアサインに変えて、スタジオと同じように出力するところから始めています。バランス感が頭の中で出来上がっていたこともあって、意外とすんなりいきました。それから音の動きの部分を、濱君にプログラミングで作ってもらっています」

 濱氏は、『async』を題材に2017年に発表されたインスタレーション『IS YOUR TIME』を坂本龍一と制作している。「そのときも「walker」という曲では動きを付けていたりしたのですが、今回のシステムとZAKさんのイメージに合わせて新たにプログラムしました。ソフトはCycling '74 Maxで、プログラムの数値は坂本さんが“簡単に周期を作れない”ということでこだわっていた素数を元にしています」と濱氏は語る。

 また会場後方には5台のベンチがあり、それぞれに向けてL/Rのスピーカー、NEUMANN KH 150が用意されている。ZAK氏いわく、「ベンチで見ている人たちはちょっと俯瞰(ふかん)しているイメージです。頭上のKH 150はステレオで再生されていますが、曲によっては全体の動きに連動して鳴っている部分もあります」とのこと。どこに居るかによって体験が異なる『async - immersion 2023』。ぜひそれぞれの方法で楽しんでもらいたい。

 Speakers|async - immersion 2023 

会場前方奥のコーナーに、L/RとしてMeyer Sound MSL-4を設置

会場前方奥のコーナーに、L/RとしてMeyer Sound MSL-4を設置

スクリーン上には、Meyer Sound ULTRA-X42を6台セット

スクリーン上には、Meyer Sound ULTRA-X42を6台セット

スクリーン下には、5台のMeyer Sound UPM-1Pを採用している

スクリーン下には、5台のMeyer Sound UPM-1Pを採用している

スクリーン前は床が少し低くなっており、サブウーファーのMeyer Sound 900-LFCを2台ずつ、3カ所に配置

スクリーン前は床が少し低くなっており、サブウーファーのMeyer Sound 900-LFCを2台ずつ、3カ所に配置

会場後方にはMeyer Sound ULTRA-X20(写真上)を6台配置。NEUMANN KH 150(写真下)は、後方に用意された5台のベンチそれぞれに向けてL/Rでセッティングしている

会場後方にはMeyer Sound ULTRA-X20(写真上)を6台配置。NEUMANN KH 150(写真下)は、後方に用意された5台のベンチそれぞれに向けてL/Rでセッティングしている

『async - immersion 2023』のスピーカー位置を記した3D図面

『async - immersion 2023』のスピーカー位置を記した3D図面

身ぶりで音の動きを伝える

 続いて京都中央信用金庫 旧厚生センターの展示について。コーネリアスによる3つの展示のうち、1階の『QUANTAM GHOSTS』では、中央に5m四方のステージと、その周りを360°囲むようにスピーカーをセット。ステージを含めた設計までZAK氏によるプランニングだ。

 「当初は3階の予定だったんですけど、1階に持ってきたら面白いんじゃないかと思いついたんです。京都だし、東西南北がはっきりしている場所だから、床に結界でも張ろうかと(笑)。スピーカーは、耳の高さで東西南北の位置に4カ所と、その間の45°に1台ずつ、それから頭上に4台、床下に4系統12台、サブウーファー4台で構成しています」

 音が転々と、かつ激しく動き回ることで、サラウンドの妙味を感じる同展示。シンセのアルペジオフレーズなどの動きは赤川氏がAbleton LiveとMaxを使ってプログラミングを行っているとのことだ。

 「赤川君には、自然界で起こるような動きや、現場の空間で感じたものを、身ぶりを使って伝えました。時計の長針の動きのように、2拍で30分進んだら15分戻って、1拍の間にボトムからトップまで上昇し続けるというような幾何学的な動きも赤川君の方で作ってくれています」

 Speakers|QUANTUM GHOSTS 

ラインアレイスピーカーのADAMSON S10n×3

モニタースピーカーのMeyer Sound UM-1C

ステージを中心に、東西南北の方向にラインアレイスピーカーのADAMSON S10n×3(上写真)をセット。ステージ下には、モニタースピーカーのMeyer Sound UM-1C(下写真)を4台配置する

『QUANTUM GHOSTS』のスピーカー位置を記した3D図面

『QUANTUM GHOSTS』のスピーカー位置を記した3D図面

 2階の『TOO PURE』は、横長の部屋の形に合わせた7.1ch構成。渡邉氏がrational acoustics Smaartを用いてチューニングを施しているほか、東氏による施工も効果を発揮しているそうだ。東氏に話を聞く。

 「天井は元から有孔パネルになっていて、同じようなパネルをスクリーンの裏に、黒い布で覆って立てました。そのおかげで、音がすっきりした部分もあると思いますね」

 Speakers|TOO PURE 

NEUMANN KH 150をスクリーン上に7台セット。サブウーファーのKH 810と組み合わせた7.1ch仕様となっている

NEUMANN KH 150をスクリーン上に7台セット。サブウーファーのKH 810と組み合わせた7.1ch仕様となっている

空間に音をなじませる

 『霧中夢 -Dream in the Mist-』はタイトルの通り、光と音だけでなく水蒸気が霧となって部屋を覆う。「スタジオで作っているときは霧がない状態なので、どうなるかが分からなかったんです」とZAK氏が語る。

 「実際に会場で霧を出してから、結構音を作り直しました。空気中に水分があるので、音量感が下がって高域も落ちる。だからレベルを全体的に上げて、高域も持ち上げました。低域も少し足しています」

 Speakers|霧中夢 -Dream in the Mist- 

霧への配慮から防滴仕様のスピーカー、BOSE PROFESSIONAL  ArenaMatch Utility AMU206を採用。部屋の中央に6台、両端に1台ずつで6.1.2chを構成している。サブウーファーはNEUMANN KH 710

霧への配慮から防滴仕様のスピーカー、BOSE PROFESSIONAL ArenaMatch Utility AMU206を採用。部屋の中央に6台、両端に1台ずつで6.1.2chを構成している。サブウーファーはNEUMANN KH 710

 3階のもう一部屋では、バッファロー・ドーターと山本精一の作品が交互に展開されている。奥まった形状と柱も考慮したチューニングが行われ、その上で「スピーカーの角度を変えたんです」と教えてくれた。

 「想定していたよりも天井の反射が多く、高域がキツくて。それで、ナベさん(渡邉武生氏)に相談したら“角度を下げてみたら”と。そうしたら反射がなくなって途端に落ち着きました。やっぱり空間だから、なじませるという点ではEQを使うよりもその方が自然なんだと思います」

 Speakers|ET(Densha)/Everything Valley/Silhouette 

メインスピーカーはGENELEC 8331A。位置関係や角度、間に挟むインシュレーターの数など、開催直前まで調整が行われたとのこと

メインスピーカーはGENELEC 8331A。位置関係や角度、間に挟むインシュレーターの数など、開催直前まで調整が行われたとのこと

 「この部屋も『async~』の方も、本当はバーカウンターを付けてほしかったんですけどね(笑)。リラックスした状態になるのも大事な要素だと思います」とZAK氏。最後にこれから訪れる人へのメッセージを伺った。

 「特に堅苦しい要素はないので、気楽に来てほしいですね。各部屋でアーティストは異なるけれども、どこか見えないところでつながっていることを感じてもらえたらうれしいです。あとは、音響やプログラミングに興味がある人にとっても楽しめるのではないでしょうか。音のフォノグラム……つまり音が実体となっているような空間そのものを感じてもらえたらと思います」

今回の取材に同席していただいた、音響担当の方々。左上から時計回りに、濱哲史氏、東岳志氏、渡邉武生氏、山本哲哉氏、ZAK氏、赤川純一氏

今回の取材に同席していただいた、音響担当の方々。左上から時計回りに、濱哲史氏、東岳志氏、渡邉武生氏、山本哲哉氏、ZAK氏、赤川純一氏

 

AMBIENT KYOTO 2023

2023年10月6日(金)~12月31日(日)
京都中央信用金庫 旧厚生センター/京都新聞ビル地下1階

●主催:AMBIENT KYOTO 2023 実行委員会(TOW / 京都新聞 / Traffic / 京都アンプリチュード)
●企画制作:TOW / Traffic
●協力:文化庁 / α-STATION FM KYOTO / 京都 CLUB METRO / 株式会社サンエムカラー / 小川珈琲株式会社 / 株式会社ハッピーマンデー / CCCアートラボ
●後援:京都府 / 京都市 / 公益社団法人京都市観光協会 / FM COCOLO
●音響機材協賛:Genelec Japan / ゼンハイザージャパン / 株式会社静科 / 株式会社MSI JAPAN大阪 / アビッドテクノロジー / Synthax Japan / Abendrot International LLC / Sonos Japan
●映像機材協賛:bricks & company / Magnux
●技術協力:パナソニック株式会社
●協賛:Square
●広報協力:HOW INC.
●特別協力:京都中央信用金庫

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