ラッパ我リヤ 山田マンのプライベートスタジオ公開 〜アルバム『CHALLENGER』の音作りを語る

ラッパ我リヤ 山田マンのプライベートスタジオ公開 〜アルバム『CHALLENGER』の音作りを語る

自分でミックスをやるようになったのは、音源に一切の妥協をしたくなかったから

今回登場するのは、国内ヒップホップ・シーンを築き上げてきたグループの一つと言える“ラッパ我リヤ”のメンバー、山田マンだ。ラッパ我リヤは、10月18日に9thアルバム『CHALLENGER』をリリースしたばかり。同作には般若、Spinna B-ILL、木村昴、R-指定/KZ/KBD from 梅田サイファーなどが参加し話題を呼んでいる。山田マンは、収録された15曲のうち6曲のトラックを手掛け、ラップのレコーディングやミックスも担当。今回はそんな山田マンのプライベート・スタジオにお邪魔し、音楽制作のこだわりを聞いた。

【Profile】3人組ヒップホップ・グループ、ラッパ我リヤのメンバーで、ラッパー/ビート・メイカー。ラッパ我リヤは1998年に1stアルバム『SUPER HARD』をリリース以降、Dragon Ash「Deep Impact feat.ラッパ我リヤ」でオリコン・チャート総合2位にランクインするなど、累計セールスはミリオンに至る。

 Release 

『CHALLENGER』
ラッパ我リヤ
MS Entertainment:VCCM-2125(CD)

Marshall Legends Bundleを使いたかった

■プライベート・スタジオ

 もう7〜8年くらいこのスタジオを使っています。メインの制作部屋とボーカル/ラップをレコーディングする部屋の2つがあるんです。このスタジオでは最新アルバム『CHALLENGER』の曲のほとんどをレコーディングし、ミックスまで仕上げました。ギターの録音もこのスタジオで行っています。

最新アルバムで用いたTAKAMINEのアコギ(写真中央)と、そのほかのギター類

最新アルバムで用いたTAKAMINEのアコギ(写真中央)と、そのほかのギター類

■音楽制作システム

 コンピューターはAPPLE MacBook Proで、DAWはAVID Pro ToolsとAPPLE Logic Proです。Logic Proはビート・メイキング専用で、さらにAKAI PROFESSIONAL MPC SoftwareとMPC Studioも使っています。これらでビートを作ったらパラ・データに書き出し、Pro Toolsに流し込んでラップをレコーディング、そしてミックスしていくという流れです。ちなみに初期は、サンプラーのROLAND S-760を使ってビート・メイキングしていました。

10畳ほどのメイン・ルーム

10畳ほどのメイン・ルーム。これとは別に8畳ほどのレコーディング・ルームを備えている。APPLE MacBook Proの右側にはオーディオ・インターフェースのU NIVERSAL AUDIO Apollo TwinとAKAI PROFESSIONAL MPC Studio、左側にはSOLID STATE LOGIC X-Deskの姿が見える。デスク手前のROLAND Fantom-X6は、MIDIキーボードとしても使っているとのこと。また、Fantom-X6の左側にはエフェクターMAXON AD-9 Analog Delayをセット

コンパクト・ミキサーのX-Desk

コンパクト・ミキサーのX-Desk

メイン・ルームのコーナーにはDJシステムを備える。ターンテーブルはTECHNICS SL-1200MK3を2台設置し、DJ用ミキサーはSH-EX1200を使用。その上にはDJコントローラーのPIONEER DDJ-Wego3を配置している

メイン・ルームのコーナーにはDJシステムを備える。ターンテーブルはTECHNICS SL-1200MK3を2台設置し、DJ用ミキサーはSH-EX1200を使用。その上にはDJコントローラーのPIONEER DDJ-Wego3を配置している

■オーディオ・インターフェース

 メインはAVID HD I/Oで、サブがUNIVERSAL AUDIO Apollo Twinです。Apollo Twinは、主にギターを録るために使っています。理由は単純で、UADプラグインのMarshall Legends Bundleを使いたかったから。Apollo Twinにライン入力さえすれば、あとはプラグイン側で音作りができるのは便利でいいですよね。

デスク左側に配置されたラック。リバーブのYAMAHA REV100、コンプレッサーのDRAWMER DL241、LX20、ギター用プリアンプGD WALKER ELECTRONICS Stereo Steel Preamplifier、マイクプリのAMS NEVE 1073DPA、オーディオI/OのAVID HD I/Oなどを格納

デスク左側に配置されたラック。リバーブのYAMAHA REV100、コンプレッサーのDRAWMER DL241、LX20、ギター用プリアンプGD WALKER ELECTRONICS Stereo Steel Preamplifier、マイクプリのAMS NEVE 1073DPA、オーディオI/OのAVID HD I/Oなどを格納

■モニター環境

 PRIME LOUDSPEAKERS Festiveというパッシブ・タイプのスピーカーを使っています。当時、楽器店で試聴したときに“自分が気に入っていたヘッドフォンで聴いているみたいだ”と感じて好印象でした。本来はウーファーが上でツィーターが下に来るように置くのが正解なんですが、逆さまにした方がしっくりくるのであえてこの向きで使っています。アンプはDENON DRA-F100を試したら相性が良かったので、それ以来ずっとこの組み合わせです。ちなみにサブウーファーは、YAMAHA YST-SW60を置いています。以前はYAMAHA HSシリーズのスピーカーを導入していたので、そのときも一緒に使っていました。

モニター・スピーカーには、パッシブ・タイプのPRIME LOUDSPEAKERS Festiveを使用

モニター・スピーカーには、パッシブ・タイプのPRIME LOUDSPEAKERS Festiveを使用

デスクの下には、サブウーファーのYAMAHA YST-SW60を設置

デスクの下には、サブウーファーのYAMAHA YST-SW60を設置

“最後のアルバムになるかもしれない”と思った

■マイク

 コンデンサー・タイプのNEUMANN U 47 FET Iです。すべてのラップ/ボーカルは、このマイクで録ってます。以前、渋谷の楽器店で20本以上のマイクを片っ端から試したことがあって……それこそ予算オーバーの200万円くらいのマイクも試してみたんです。その中で一番良い印象だったのが、このU 47 FET I。中域が良い感じに録れるので気に入っています。男性ラッパーの声とも相性がいいように思います。

愛用するマイクはNEUMANN U 47 FET I

愛用するマイクはNEUMANN U 47 FET I

ボーカル・レコーディング用の部屋。APPLE iPadを設置し、リモートでPro Toolsを操作する

ボーカル・レコーディング用の部屋。APPLE iPadを設置し、リモートでPro Toolsを操作する

■『CHALLENGER』で使用した音源

 音源は、XFER RECORDS SerumやSPECTRASONICS Omnisphere、ARTURIA Analog Lab Vといったソフト・シンセが多いです。エフェクトはSUGER BYTES EffectrixやFL Studio付属のGross Beatなどで、これらは複合的なエフェクト処理を手軽に行えるので気に入っています。ドラムにはサンプル素材を使うことが多いです。

シンセのARTURIA MicroBrute

シンセのARTURIA MicroBrute

■最新作『CHALLENGER』で挑戦したこと

 ミックスです。前回のアルバムでは、1曲だけミックスするのが精一杯でした。ミックスを自分でやるメリットとしては、好きなときに好きなだけ修正ができるので、妥協なしで作品が作れるところです。それに関してはすごく良いですね。

■ミックス時のお気に入りプラグイン

 UADプラグインが多いです。ラップのガヤ一つだけのためにFairchild 670のエミュレーションを使ったりとか(笑)。1176 Classic Limiter CollectionやNeve 1073 Preamp & EQ Collection、API 500 Series EQ Collection辺りは以前実機を持っていたり、触ったりしたことがあったので好んで使っています。

■今後の展望

 なるべく早く、次のアルバムを出したいです。今回の『CHALLENGER』が完成したときに、前のアルバムから約6年も期間が空いているというのを再認識しました。そのとき、もしかしたら“これが最後のアルバムになるかもしれない”と本当に思ったんです。ちなみに自分でミックスをやるようになったのは、音源に一切妥協したくなかったから。今回はミックスにチャレンジしたおかげで経験値がたまったので、次作も楽しみです。まずはライブもあるので、今作のリリックを覚えることが先ではありますが……(笑)。

■若手ビート・メイカーへのアドバイス

 ビート・メイカーを目指すなら、最低でも1日1曲は必ず作りましょう。学生でも社会人でも本業はしっかりやって、家に帰ったら飯を食いながらパソコンの電源を入れる……そしてまず1曲目に取りかかる。そうやって毎日継続したり、試行錯誤を積み重ねていくことが大切だと思います。最後に、今回はサンレコ読者に“韻ボイス・キャップ”と“山田会Tシャツ”のプレゼントを用意したので、『CHALLENGER』の感想と併せてたくさんのご応募をお待ちしています! 

※プレゼントは本誌のみで実施し、既に応募は締め切りました

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