tofubeats 〜EP『NOBODY』でのアナログ機材での作業、AIと音楽の関係性を語る

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tofubeatsの2024年最初のリリースは、EP『NOBODY』とその先行シングル「I CAN FEEL IT(Single Mix)」。コロナ禍前の『TBEP』(2020年)の流れを汲み、往年の王道ハウスのスタイルを踏襲したフロア直球のトラックでは、なんとAI音声合成のボーカルが全面的にフィーチャーされた。このインタビュー後編では、AIと音楽制作の関係性、機材のアップデートも含め、語ってもらった。

前編はこちらから

AIを使っている分アナログとのコントラストを意識

——Synthesizer Vのコントロールはどのように?

tofubeats 正直に言えば、スライダーをちょっといじっただけで全部ベタ打ちなんですよ。プラグインではなく単体のアプリケーションとしてSynthesizer Vを立ち上げて、オーディオに書き出してから触るという方式を採っています。あと、気分的にTUBE-TECH CL 1Bを通してみたりしました。

プリプロのボーカル録音を想定して導入した真空管コンプTUBE-TECH CL 1B。その下はSolid State Logic Fusion

プリプロのボーカル録音を想定して導入した真空管コンプTUBE-TECH CL 1B。その下はSolid State Logic Fusion

——なるほど。音声合成のボーカルでも芯があるように感じられるのは、そこにカギがあるように思います。

tofubeats CL 1Bは、プリプロのボーカル録音用にちょっと匂いが強めのコンプが欲しいと思って。Synthesizer Vを通したら思いのほか、スタジオで録った感じみたいになりました。全曲で使っているわけではないんですが。あとはサミングアンプを通したり……AIを使っている分、アナログとのコントラストを全体的に意識していて、ほぼ全曲でアナログドメインの作業をしています。そこはサウンドが往年のハウスっぽくなってる要因の一つというか、アウトボードっぽい雰囲気がちょっと入っています。時間も結構あったので、サミングアンプもこれまで使っていたNeve 8816と、制作途中で買ったDANGEROUS MUSIC 2-BUS-XTを比べたり。2-BUS-XTはステレオも奇麗にそろっていて、ひずみもないし、でもしっかり風合いが出る。それもめっちゃモダンでクリーンな感じが本当に良くて。ADコンバーターもRME ADI-2 Pro FS R Black Editionを途中で買って……サミングもADも長らく同じものだったので、タイミングとしてはいいかなと。

DANGEROUS MUSICの16chサミングアンプ2-BUS-XT(中央)も新規導入

DANGEROUS MUSICの16chサミングアンプ2-BUS-XT(中央)も新規導入

RMEのオーディオインターフェース&AD/DA、ADI-2 PRO FS R Black Edition

RMEのオーディオインターフェース&AD/DA、ADI-2 PRO FS R Black Edition

——機材の更新をしながら、テストと実践をしたと。

tofubeats 生という意味では、「NOBODY」で初めて生のストリングスを入れました。最近若手のトラックメーカーにストリングス録音を提供している町田匡さんという方にリモートでお願いしたらバッチリのテイクが来て。機材は設備投資だから別として、アルバム制作自体は全然予算を使っていなかったんです。ボーカリストも外部のスタジオも1秒も使っていないから、生のストリングスを入れちゃおうということが逆にできた。これは正直、AIの利点として肌身に感じました。

——そしてその「NOBODY」が最後にスローバージョン、いわゆるスクリューになって収録されています。

tofubeats 出来上がったアルバムを遅くして聴いてたら良かったので、急遽入れたくなったんです。でも、最後にデジタルスクリューで終わったらちょっとコンセプトがぼやけてしまうと思って。アナログドメインでやらなきゃいけないと、自分で決めたコンセプトにがんじがらめになって、狭山のハードオフまで車で行ってオープンリールを買ってきました。それで速度を落として、エフェクトっぽいのもテープを触って、ビロン、ビロンと。一番のアナログを指でやりました。デビュー前にお世話になった先輩方が、三好史さんをはじめとして日本のテープエディット界の草分けみたいな方々だったので、オープンリールの原理とか、何を買えばいいかは分かっていました。なので、あの「NOBODY」を遅くしただけのバージョンが入ってるのは結構大事なんですよね。

「NOBODY」のスローダウンに用いたテープレコーダーTEAC X-7R mkII

「NOBODY」のスローダウンに用いたテープレコーダーTEAC X-7R mkII

リズムマシンみたいな感じでやると今とそぐわない

——今回、シンセはどんなものをお使いでしたか?

tofubeats ソフトが多かったような気がします。サブベースはRob PapenのSubBoomBass 2。Rob Papenは激しすぎて、自分の音楽では少々使いにくいシンセが多いですけど、ベースにはマジでいいですね。あとはVENGEANCE SOUND Avengerが増えたくらいで、XFER RECORDS SERUM、UVI FALCON、Spectrasonics KEYSPACEといった定番ものが中心ですね。

——「EVERYONE CAN BE A DJ」ではRoland TB-303系のアシッドなシンセベースが聴けます。

tofubeats これはKORG drumlougeを触っていてできた曲で、drumlogueとSEQUENTIAL Prophet-5 Moduleでほぼ作っています。で、ベースはXOX Bassline。303クローンとしてはこれが好きなんですが、制作中にARTURIA Acid Vがリリースされて、これも混ぜました。Prophet-5 Moduleだけは唯一脱落せず、常にトップにある感じですけど、SEQUENTIAL TEMPESTは今回意外と使いませんでした。

——では、ビートはサンプルで構築を?

tofubeats そうですね。テンポも少し速いですし、ブレイクスっぽい感じに合わせて、サンプルパックは結構多用しています。リバイバルっぽい感はあるとはいえ、結構リリース短めのブレイクスみたいなものを使うというか。リズムマシンみたいな感じでやると、時代感的にあまり今とそぐわない……いなたくなっちゃいますよね。僕はすぐRoland TR-909やTR-707のオープンハイハットを入れたくなるんですけど、ものすごく我慢して作っている感じ……それでも結構入っているんですけど(笑)。裏打ちでクローズのハイハットを使うことは、僕はほぼないんですけど、今回はもう本当に我慢して使っています。

——ミックス面でのトピックは?

tofubeats 今回はライブで使っているようなオーディオエフェクトのトリックを、いろいろなプラグインを同時に動かして自分で作ってみましたね。それとMix With The Mastersを見た影響で、それぞれのステムの処理を細かくやるようになって。サミング出力するためにまとめたステムに少しずつサチュレーションをかけたりとか、最近で言う王道の処理みたいなものを意識してやりました。あと、マスタリングは昨年からメトロポリスのスチュアート・ホークスに依頼しています。ザ・マスタリングみたいなベテラン感が好きなんですよね。

“AIが作曲した”と知ったときの気持ちを記録した

——最後にAIと音楽のことも伺っておきたいです。気に入った曲について調べてみたらAIが生成したものだったとtofuさんがXに投稿していたのも拝見しました。

tofubeats 基本的にはAI肯定派なんです。テクノロジーが人間の意識で止まったことなんてないし、確実にどんどん新しくなっていって、その過程でなくなるものもあると思います。AIが曲を作るとかDJをやることで自分の仕事が減る云々に関しては、クオリティ的にも倫理的にもどうにか解決されていくんだろうなと思っています。唯一気になるのは、音楽を作るという概念がAIに対するプロンプトを書くことになっていったときに、我々みたいな今までの音楽家は、旧車好きの人みたいな扱いになるのかなと。音楽を作るということ自体のパラダイムが変わる感じがして、これを超えたときにどうなるかはマジで分からないですね。

——私はかつて、tofuさんの『LOST DECADE』を聴いたときに、ボーカルエディットのアプローチが斬新だと感じたんです。AIにそんなゲームチェンジができるのかは疑問だったりします。

tofubeats なるほど。でも僕は割と50:50というか、人間ができることはAIにもできると思うんですよね。悲観もしなければ楽観もしなくて、ケースごとに多分、敗北するところもあるし、勝つこともあるでしょうし。ただ、さっき言ったなぜSynthesizer Vが面白いかという話と一緒で、その先になにもないという感覚が新しいんです。この曲がいいなと思って、調べたらAIが作曲していたと知ったときの自分の気持ちはこれまでになかった。これが新しさの一つかなと思って、今回のEPができたっていう。それと同じなんですよね。誰が歌ってるんだろう?がない。これまで誰が歌ってるかという設定を立てないと成立しなかったのが、これからは成立し始めていく。それの始まりの感じみたいなものを記録しようというとしたのが今回のEPです。さすがに『NOBODY』というタイトルは直球すぎるかなと思ったんですけど、でもそういうテーマが秘められている。

 

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