tofubeatsの2024年最初のリリースは、EP『NOBODY』とその先行シングル「I CAN FEEL IT(Single Mix)」。コロナ禍前の『TBEP』(2020年)の流れを汲み、往年の王道ハウスのスタイルを踏襲したフロア直球のトラックでは、なんとAI音声合成のボーカルが全面的にフィーチャーされた。このインタビュー前編では、なぜAIボーカルと向き合うことになったのかを語っていただくこととしよう。
Release
『NOBODY』tofubeats
ワーナー/unBORDE
- I CAN FEEL IT (Single Mix)
- EVERYONE CAN BE A DJ
- Why Don’t You Come With Me?
- YOU-N-ME
- Remained Wall
- I CAN FEEL IT
- NOBODY
- NOBODY (Slow Mix)
Musicians : tofubeats(prog)、町田匡ストリングス(orch)
Producer/Engineer : tofubeats
Studio : HIHATT
NASの更新タイミングですべてAIFFに
——本題と関係ない話からで恐縮ですが、今回試聴用にいただいたファイルがAIFFだったので、“どうしてだろう?”と思いながらMacの“ミュージック”アプリに立ち上げたら、AIFFだとアーティスト名や曲名が表示されていて、膝を打ちました。
tofubeats そうなんです。もう去年くらいから全部AIFFにしていて、提出しなきゃいけないときだけWAVで書き出ししています。マスターとかもWAVでもらったら即行でAIFFに変換してタグを入れています。
——ワーキングファイルもAIFFなのですか?
tofubeats 今は全部AIFFですね。曲のデータを入れておくNASを更新するタイミングでAIFFにしました。今ちょうど、取材があるので思い出して、『NOBODY』のパラデータをAbleton Liveから書き出しているんですけど、全部AIFFです。パラデータはタグ付けしないので、別にWAVでもいいんですけど、AIFFで書き出すのが癖になっていて。DJでも、Beatportで曲を買うときにAIFFにしている人たちがいて、なんでだろう?と思ったらPioneer DJのCDJでもジャケットを表示できたりするから。“ミュージック”アプリでWAVからAIFFに変換すると0秒とかでできるので、WAVでもらったデータも全部すぐ変換しています。
“魂”とか歌わせても別に恥ずかしくない
——では本題です。『NOBODY』は、AI音声合成を使ったEPだと資料を拝見して、どんな内容なのかと思ったら、直球のハウスだったということにまず驚きました。
tofubeats 2020年に『TBEP』を出して、その直後にコロナ禍になってツアーやDJの予定が中止になりました。しかも本当に運が悪くて、マスターができてからリリースされるまでの間に急にコロナ禍が進んでいったんです。それで、去年くらいから次第にDJもできるようになって、あらためてクラブっぽい曲を作ろうっていうのがまずあって。
——それで、ポップからシリアスまで振れ幅の広いtofuさんの中でも、シリアスに振った形になったと。
tofubeats そこにSynthesizer Vが運よくハマったというか。「I CAN FEEL IT(Single Mix)」は、曲はかなり前からできていて、歌詞もあって、あとはボーカルだけというところで、なかなか見つからない。そんなときにSynthesizer Vがリリースされて、仮歌を入れたら、“これでいいじゃん”と。それをコンセプトにして6曲書き下ろしたんですよ。
——そのコンセプトとは、クラブ/DJとSynthesizer Vがクロスしたもの、ということですよね?
tofubeats そうですね。ちょうど自分的にJクラブっぽいものを見直すというのがここ数年あって。ワーナーというメジャーレーベルでクラブミュージックをやっている存在が、結果として唯一無二になってきているので、このバランス感を守っていきたいなという気持ちもあるんです。
——tofuさんがワーナーからリリースし始めたころは、メジャーで活躍するクラブミュージックの先輩アーティストが周りにたくさんいらっしゃいましたが、確かにそうした皆さんの多くがインディペンデントに戻っていきました。
tofubeats 年上でまだメジャーでやっている方はDJでご一緒する機会の多いTOWA TEIさんとかで、その間があまり居ないんです。だからこそドメスティックな雰囲気みたいなものを、そろそろ自分の強みに転じていこうというか。Aメロ〜Bメロ〜サビという構成ではないけれど、日本語のボーカルが入っていて、クラブミュージックとJポップの両方の要素があるものを、あらためてやりたいなと。『NOBODY』も、Aメロだけあるとかサビしかないとか、そういう歯抜けのJポップだと思っています。例えば「YOU-N-ME」は、最後に大サビがあるところだけはすごくJポップというか、クラブミュージックとJポップを断片的にカットインしたり、クロスフェードしているみたいな感じっていうか。生い立ち上、Jポップのくびきから離れられない人が作ったクラブミュージックみたいな感じは、やっぱり面白いかなと思っていて。
——もう一方のトピックはSynthesizer Vですが、どこがtofuさんにフィットしたのですか?
tofubeats 無っていうか、歌っているけど存在がないみたいなところがすごく良くて。各ライブラリーにもキャラクターがありますが、それがすごく押し出されて、みんながそのキャラについて発言するようになっていたら、僕は使わなかったと思うんですよ。つまり、技術的な良さと、人っぽいけれどまだその存在にあまりカラーがないところが良いんです。あと、もう不気味の谷を超えているから、初期のボカロのようなすっとこどっこいな“愛嬌”とかはないんですよね。今回は花隈千冬というライブラリーを使った割合が多かったんですけど、トーン低めな感じで歌わせると、本当に人間とあまり大差ないです。それで、Synthesizer Vに向けて歌わせることが、気分が違うというのが今回一番面白くて。
——“気分が違う”とは、どういうことですか?
tofubeats 楽曲提供をしている立場からすると、この人がこうなったらいいなとか、この人にこういうことを歌ってほしい……みたいな気持ちが芽生えることがない。楽曲、特に歌詞も提供するときに言うんですけど、歌う曲ってその人に何回も返ってくるんですよ。なので、人に歌詞を書くときはすごく気を遣うんですよね。そんなときにSynthesizer Vがハマったのは、実際の個人に歌わせられないことを歌わせられるけど、蓋を開けたら人はいない……その感じがすごい。でも、Synthesizer Vに当てて書かなきゃいけないみたいな。そのちぐはぐな感じが新しくて面白かった。そういう機能的な部分がクラブミュージックとの相性がいい……“魂”とか歌わせても別に恥ずかしくないっていうか。
——驚きましたよ。「I CAN FEEL IT」で、AIの声で、“魂燃やして 燃え尽きるまで”と歌っているギャップに。tofuさん自身が歌うのとは、意味合いが変わってきますよね。
tofubeats 自分で歌ったら、ちょっと心配されちゃうっていうか。でも「I CAN FEEL IT」は軽薄にすら聴こえる感じで、そこはやっぱりSynthesizer Vというか、こういうツールが持ち得る風合いを予感していていいなと思いましたね。
——「YOU-N-ME」も、“あなたと私なら大丈夫”と歌っていますが、聴いている方としては”本当に大丈夫なのか?”と感じてしまう、絶妙な余白がありますよね。
tofubeats “大丈夫”が祈りみたいな感じにしか聴こえないという。“あなた””私”は今回頻出単語なんですけど、“あなた”も“私”もいないというのもヤバくて。Synthesizer Vがそれを歌う空虚は、今回好きなところですね。恋愛の曲みたいに聴こえるけれど、全然そんなことはないみたいな感じとか、そういう雰囲気作りは結構意識しましたね。
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