Moto(vo/写真中央)、Maika(b、vo/同右)、Lily(g、vo/同左)から成る3ピース・バンド=Chilli Beans.(チリビーンズ) 。2019年の結成で、メンバー全員がDAWを使いこなし楽曲を構築。2月にリリースしたEP『mixtape』は、VaundyやYuumi、BOBO、yonkeyといったミュージシャンと制作され、持ち前の歌心にエレクトロニクスやモダンな音作りを加えた仕上がりとなっている。「Tremolo」(2022年)からChilli Beans. にかかわり、本作では「daylight」と「border line」のミックスを手掛けたエンジニアのD.O.I.氏を交え、インタビューを敢行した。
コロナ禍で身につけた制作スタイル
—普段、曲作りはどのように?
Maika まずは、メンバーのうちの誰かがDAWで曲の大元を作ります。そのプロジェクト・ファイルをバンド内で回して、各自が家でそれぞれのパートを練ったり一部を発展させたりして、デモを作り込むんです。みんなでスタジオに入ってセッションするよりは、データを回して作っていく方が多いですね。こういうスタイルを採るようになったのは多分、コロナの影響だと思います。オリジナル曲を作りはじめた頃はコロナがはやりだしたタイミングで、“実際に会うなんてあり得ない”みたいな雰囲気だったからリモートで作るしかなく、そうするうちに定着した感じです。
—皆さん、何のDAWを使っているのですか?
Maika みんなSTEINBERG Cubaseです。でも最近、Motoは違うのを使いはじめたんだっけ?
Moto APPLE Logicを使いはじめました。
—オーディオI/Oは?
Maika みんな同じかな? 私はSTEINBERG のUR22MKIIを使っています。
Lily 私も同じです。
Moto 同じです。
—すごい統一感ですね……。
Lily 私たちは音楽塾に通っていて、先生に薦められたものを基本、買っているみたいな感じなんです。
—では、モニター・スピーカーも同じ?
Maika スピーカーは違うかも。私、実はスピーカーを使っていないんです。ヘッドフォンだけでやっていて、SHUREのSRH840を使っています。
Lily 私はIK MULTIMEDIA ILoud Micro Monitorです。Motoも、私が薦めて同じのだと思う。ILoud Micro Monitorのホワイト・エディションだよね。
—『mixtape』の4曲目「border line」は、ドラムが打ち込みですよね。どなたかが打ち込んだものが本チャンに?
Maika はい。あのドラムは私が打ち込みました。Spliceで“こういう音がいい”というサンプルを探し、それをCubaseのGroove Agentに入れて打ち込んでいます。
—自宅で録ったギターが本チャンになることもある?
Lily 音によります。生の空気感みたいなのが欲しい場合はスタジオで録り直しますが、自分のDAWで作ったままの音にしたいときは、家で録ったものを本チャンにします。ひずみのリフとかも全然ありますよ。例えば「neck」(アルバム『Chilli Beans.』に収録)の最後のソロは、ペダルとIK MULTIMEDIA Amplitubeで音作りしました。ギター、ペダル、オーディオI/Oというルーティングで録って、Amplitubeでさらにいじるみたいな。今回の「daylight」のイントロも、家のプラグインで作った音です。
“こう録っておけばよかった”とは思わない
—プロジェクト・ファイル・ベースで曲ができたら、次は本チャンの録音に向けてスタジオで合わせるのですか?
Maika いえ、基本的にはいきなりレックです。デモの段階で、やりたいことを決め込むので、あんまりプリプロっていうのをしたことがなくて。何なら今回の「duri-dade」が初めてだったくらいです。普段は、レックした後に全員で合わせて、ライブの練習をするのがメインの流れで。
—ライブ・リハをする中で“ここのグルーブ、もうちょっとこういうふうに録っておいた方がよかったかな”と思うようなことは、ないのですか?
Maika ライブのときに、レックしたものとはちょっと違うフレーズを弾いて楽しいな、ってことはあるんですけど、いろんなフレーズを試した上で決めたやつをレックしているので、“このフレーズにすればよかった”という後悔はないかもしれません。
Lily グルーブに関しては、ライブならではのノリというのがあるから、それはライブで楽しめばいいと思うし。
—「duri-dade」の制作ではプリプロを行ったとのことですが、どのような内容でしたか?
Lily 「duri-dade」は、元の曲をサポート・ドラムのYuumiが持ってきてくれたんです。初めてのことでした。
Maika ドラム、ベース、ギター、シンセ、歌、コーラスなどのステムを送ってもらって、私たちで各自のパートを作り直したり、歌メロを変えたりというのをDAW上でやりました。プリプロの位置付けとしては“音作り”が大きかったかもしれません。アンプの設定をどうしようとか、ペダルをどうしようとか、ドラムのスネアを何にしようとか。
—ドラムは、YuumiさんとBOBOさんのツインです。
Maika ツイン・ドラムの曲をやってみたい、というところから出発しているんです。BOBOさんとYuumiは、プリプロの現場で“ここは自分がパーカッションっぽいことをするから、キックやスネアはそっちでお願い”みたいなやり取りをしていました。だからドラムはフレーズを考えて、私たちは音作りする、というのがプリプロの内容です。
—本チャンの録音は、せーので?
Maika 曲によりますが、最近はドラムを録って、ベース、ギター、ボーカルという順に重ねていく方が多いです。
過激に人工的な質感のボーカルが現代的
—ミックスに際して、D.O.I.さんとはどのようにコミュニケーションを取りましたか?
Maika マルチと一緒にデモの2ミックスを送ったんですけど、基本的にはお任せでした。いったんミックスしてもらってからD.O.I.さんのスタジオに行って、立ち会いで調整することが多いんです。
—まずは「daylight」のボーカル処理が興味深いと感じました。どこに定位しているのかがあいまいな音像で。
D.O.I. 何かのインディー・ロックを聴いて、その歌の処理をヒントにしたと思います。WAVES Doubler、EVENTIDE H3000 Factory、IZOTOPE Nectar 3 Plusを中心に音作りしました。H3000 Factoryでは実機の代表的なプリセットを再現したマイクロ・ピッチ・シフトをかけ、Nectar 3 Plusはコーラスやフランジャーのたぐいです。モジュレーションが三重にかかっているので、ちょっとフワフワした質感になっているかもしれません。Nectar 3 Plusはインサートですが、ほかはセンドですね。ディレイやリバーブ、EQ、コンプ、ひずみなどにも送っています。最近はヒップホップしかり、過激に人工的な感じにする方が、引きがある印象です。日本語は英語や韓国語よりも聴感的にヌルい感じですが、あらゆる言語の音楽が並列に聴かれる時代なので、過激に処理することで並んだときにイナタく聴こえにくいのかもしれません。
—「border line」の超ディープなボーカル・リバーブも、印象深い音作りです。
D.O.I. 使用したのはUNIVERSAL AUDIO UADのEMT 250 Classic Electronic Reverbですね。テイラー・スウィフトの近作『ミッドナイツ』にレトロ・ポップ的なリバーブ感があり、それに影響されたのが大きいです。また、今のビルボード・トップ10に入るような曲で同様のリバーブ感を持たないものって、見当たらないんですよ。20年くらい前なら絶対にNGだったリバーブの深さが、今はOKになったというパラダイム・シフトが起こっていると思います。
—とは言え、残響の低域はカットするのですよね?
D.O.I. テイラーの前まではカットされていましたが、テイラー以降はあります。もう、ワンワン鳴っています。なので最初、『ミッドナイツ』を聴いたときは“事故っているのでは”と思ったんですよ、5秒くらい。でも、ちゃんと聴いたら新しすぎて、こっちが分かっていなかっただけだなと。
—ボーカル処理のほかは、「daylight」のドラムも聴き応えがあります。キックの音が場面によって変わっていて。
D.O.I. バースが打ち込みで、サビが生音メインなんです。サビに関しては、生のキックを複製してMOOG MUSIC MF-101S Lowpass Filterでめちゃめちゃハイカットしつつレゾナンスを上げて少しクセを付け、完全にローしか無いような音にしました。それをメインの生キックに足したほか、中低域を補うサンプルをSTEVEN SLATE AUDIO Trigger 2で重ねています。低域成分を抽出して足すのは、『Mix With The Masters』でロック系のエンジニアがやっているのを見て。生のキックが弱いときに、こうしていると。試してみたら、音価も位相感もそろうので、ものすごく良いんです。
—『mixtape』の仕上がりはいかがですか?
Maika 新しいことをたくさんしたので、自分で聴いていても新鮮な作品になったなというのが感想の一つです。
Lily 「duri-dade」や「rose feat. Vaundy」「border line」は、今までの私たちにあまり無かった音数の少ない曲です。だから“楽器の凜とした感じ”を作品に落とし込めたと思っていて。新鮮かつ実験的で、楽しい制作でした。
Moto さまざまな人とかかわりながら作品を作る中で、自分たちの色をどうやって出すか、ちょっと違う角度から行ってみようか、みたいな感じで、いろいろ考えました。それが新鮮な経験になったと思います。
Release
『mixtape』
Chilli Beans.
A.S.A.B:RZCB-87098(通常盤)
Musician:Moto(vo、prog)、Maika(b、vo、prog)、Lily(g、vo、prog)、Vaundy(vo)、Yuumi(ds、prog)、BOBO(ds)
Producer:Chilli Beans.
Engineer:D.O.I.、照内紀雄、古市暁大
Studio:aLIVE RECORDING STUDIO、Aobadai Studio、Daimonion Recordings、FREEDOM STUDIO INFINITY、RECORDING STUDIO MECH、studio MSR、プライベート