打ち込んですぐにROSEの歌が再生されて、まるで魔法のように感じました
2018年にアニメ『東京喰種トーキョーグール:re』主題歌の「asphyxia」でメジャーデビューし、海外からも高い注目を集める2人組ロックバンド、Cö shu Nie（コシュニエ）。彼らがROSEを使って制作した「antidote」は、重厚なサウンドに変拍子を織り交ぜながらポップスとしての魅力も放つ唯一無二の楽曲だ。メンバーの中村未来（vo、g、k、prog／写真左）と松本駿介（b／写真右）に、制作のプロセスを聞いていこう。
『antidote』
夢ノ結唱 ROSE
（ブシロードミュージック）
作詞／作曲：中村未来
譜割りをコントロールできるのが面白い
——Synthesizer Vに限らず、これまでに音声合成ソフトを使ったことはありましたか？
中村 一度もなくて今回が初めてでしたが、すごく使いやすくて楽しかったです。感情的で力強いROSEの歌声に魅力を感じたので、今回はニューメタルを作ってみようと思って制作しました。
——その言葉通り、「antidote」は変拍子などの複雑な構成を織り交ぜた激しい楽曲ですね。
中村 骨太なサウンドにハマっていることもあり、割と好き放題やった感じはあります。制作の依頼をもらったタイミングと今の趣向がぴったり合って、より激しくなっていきましたね。私の声とも特性が違っていて、ROSEに曲を提供しているような感覚でした。
松本 歌声を聴いて、“これほんまにソフトなの？”というのが最初の素直な印象で、人が歌っていないことに驚きました。音声合成ソフトを使った最近の曲も聴いているんですけど、それにしてもナチュラルすぎる。歌い手の骨格というか、息遣いや感情まで見えてくるようで恐ろしいくらいでした。
——制作はどのように進めていきましたか？
中村 まずギターリフを作って、Aメロから曲の流れに沿って進めていき、メロディも同時進行で作りました。ドラムの打ち込みはノリや音色を最後まで悩んでいましたね。これまでCö shu Nieであまり無骨なロックサウンドをやってこなかったので、いつかやってみたいなと思っていたんです。
——普段できないことが実現できたのは、やはりROSEをボーカルにしているからなのでしょうか？
中村 その影響はありますね。どうやってもしっかり前に出てくれるクリアなボーカルだし、やっぱり歌がすごく上手。あとは譜割りまで含めてSynthesizer Vで打ち込んでいることで、楽器としての役割もしっかり果たしてくれていると感じています。
——楽器としての役割というと？
中村 例えば英語の発音……“Arcade Cubism”の最後を“ム”じゃなくて“ン”って打つとか、どこで隙間を空けるかで大きくニュアンスが変わってくる。楽器を弾くときに休符を気にしたりするのと同じような感覚で、すごく自由が利きます。楽器としても面白いですし、ボーカルのキャラクターとしても魅力的だなと思いました。
——ボーカルの譜割りがかなり難しいように思います。
中村 そこをコントロールできるのが面白いです。あと、自分では難しいメロディじゃないつもりだったけど、やっぱり難しいんだなと。Synthesizer Vで打ち込むことで、自分のメロディについて気づいたことがすごく多かったです。
一緒にステージに立つイメージをリアルに感じた
——ボーカルが、エフェクティブな加工も施しながら何層にも重なっていますね。
中村 ハーモニーを重ねてゴージャスにしたくて。ハーモニーの方はニュアンスを保ちつつ、別テイクのように歌ってくれるのがすごく便利でした。
——かなり大胆にひずんでいるボーカルもあります。
中村 あの奇麗な声をね（笑）。プラグインはいろいろ使っていて、特にSoundtoysとEventideは少し狂ったような音になるものが多くて大好きです。ひずみとしてSoundtoys Decapitatorだったり、EventideはモジュレーションリバーブのBLACKHOLEやH3000 Factoryもよく使っています。ROSEは私と真逆とも言える太い声なので、EQ処理は普段より強めにして、フィルターをかけたり、パンで左右に振ったりもしました。エフェクトをたくさんかけて楽器のように声の成分を変化させることで、オケになじむようにしています。
——前に出る声だからこそ、激しいオケになじませるためにエフェクティブにしていると。
中村 ただエフェクティブにしたり左右に動かしたりしているときも、メインボーカルは真ん中にいるようにしています。自分の声だとエフェクトかけっぱなしみたいなことも多いんですが、ROSEへの提供という感覚でしたから。
——POPYはROSEとはまた異なった、かわいらしさのある声かと思いますが、もしPOPYで制作していた場合は全く別の楽曲になっていましたか？
中村 そうですね。ニューメタルにはなっていないかなと。
松本 どっちのバージョンも聴いてみたいです。それをSynthesizer V上でボーカリストを変えるだけで試せることも面白いと思います。
——最後にあらためて、Synthesizer Vを使用した感想を伺えますか？
中村 本当にすごい技術に触れたなと感じました。一瞬で人の声に、ROSEというキャラクターの歌になっていくのは魔法みたいな瞬間で、楽しく制作できました。
松本 プレイヤーとして思ったのは、ライブを一緒にやってみたいなと。キャラクターと一緒にステージに立つイメージをよりリアルに感じたので、ついにここまでできる時代が来たのかという印象です。いろいろな方が作ったROSEの楽曲を聴くのが楽しみですね。
——ROSEでまた曲を作るとしたら、次はどんな曲になりそうですか？
中村 ビートが強くて、歌い上げるようなダンスミュージックを作ってみたいです。絶対ROSEに合っていると思います。どんな曲でも歌ってくれるのがいいところですから、ジャンルの縛りは全然ないと思うんですけど、本人のキャラクターはやっぱり生かしたいじゃないですか。ポップでキャッチーなかわいい曲は……でもそれもすごく似合いそう（笑）。
◎POPYで楽曲を制作した長谷川白紙へのインタビュー、Synthesizer Vの開発者インタビューは近日公開です！
Release
『antidote』
夢ノ結唱 ROSE
（ブシロードミュージック）
作詞／作曲：中村未来
