「水素燃料電池」とは? SUGIZOが語る音楽への恩恵

「水素燃料電池」とは? SUGIZOが語る音楽への恩恵

音楽やエンタメの世界に生きる僕らも、地球環境のためにできることをやらなければならない

『MOTHER』『STYLE』セルフカバー版の制作トピックとして特筆すべきなのは、燃料電池自動車(FCV)で発電した電気をギターやベースの録音に使ったことだ。FCVとは、水素と酸素を化学反応させて発電する燃料電池を搭載し、その電気で走行する自動車。SUGIZOが所有するTOYOTAのMIRAI(写真)をはじめ幾つかの製品が発売されており、発電時に二酸化炭素や有害物質が一切出ず、地球環境に配慮した仕様となっている。これがレコーディングにもたらす恩恵とは? SUGIZOに聞いてみよう。

音が非常にクリア&パンチーで分離も良い

——水素燃料電池を使ったのは、今回が初めてですか?

SUGIZO 2017年にライブの楽器周りに使いはじめて、継続する中で効率的に良い結果を得られるようになってきました。だから“この方法を使ってレコーディングしてみたい”と思ったんです。ライブではMIRAIを会場に横付けして、コンバーターを介して電気を引き回しています(コンバーターとは、FCVから出力された直流の電気を交流に変換する可搬型外部給電器)。レコーディングに活用したければ、車を横付けできて、なおかつ屋外から屋内へケーブルを引き回せるスタジオが必要になります。サウンド・ダリは、それが可能だったんです。ギター録りに試してみたら、素晴らしい結果が得られました。燃料電池というのは、その場で発電するので、電気がものすごくピュアです。だから音が非常にクリアで、パンチがあって分離も良い。さらに、コンバーターから200Vで出力できるため、音の圧が格段に上がります。故に『MOTHER』と『STYLE』のギターとベースの大半は、水素燃料電池を使って録ることになりました。燃費が良いのも魅力ですね。僕のMIRAIは初代のものですが、水素を満タンにして350kmくらい走ります。この容量なら2台でアリーナクラス2デイズの楽器電源を賄えるし、レコーディングの場合は連続使用で2~3日は余裕です。面白いのは、ギターよりもベースが、消費電力が大きいこと。やっぱり低音の方がパワーを必要とするのでしょうね。

燃料電池自動車(FCV)から出力された直流の電気を交流に変換し、楽器/音響機器などへ供給するための可搬型外部給電器=HONDA POWER EXPORTER 9000。本機からケーブルを引き回して電気を伝送する

燃料電池自動車(FCV)から出力された直流の電気を交流に変換し、楽器/音響機器などへ供給するための可搬型外部給電器=HONDA POWER EXPORTER 9000。本機からケーブルを引き回して電気を伝送する

——今回は具体的に何の機材に燃料電池を使いましたか?

SUGIZO ギターアンプ周り、エフェクター周り、それからPro Toolsを動かしているコンピューターなどに使用しました。今はFCVを使っていますが、じきにもっとコンパクトなシステムで利用できるようになります。TOYOTAさんとHONDAさんが、大容量水素を搭載できるMoving eというバス型のシステムを手掛けていて、それを使えば幾つもの可搬型バッテリーに充電できるんです。先日、そのバッテリーをライブに使ってみたところFCVと同様の素晴らしい結果が得られたので、今後は録りにも活用したいです。

各地のフェスも水素燃料電池を活用

——FCVには、どのようにして水素を充填するのですか?

SUGIZO ENEOS横浜旭水素ステーションで充填しています。そこの水素は、化石燃料ではなく再生可能エネルギーで作られているんです。現在、最も入手しやすい水素は化石燃料由来なのですが、残念ながら生成される段階で二酸化炭素が生じます。こうして生成された水素を“グレー水素”と言います。再エネ由来の水素は、生成時に二酸化炭素を排出しないので“グリーン水素”と呼ばれます。どちらの水素も質に変わりはありませんが、僕は意識の上でグリーン水素を使って音楽をやりたいので、その供給に対応した水素ステーションで充填しているんです。『LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023』では、全会場で水素燃料電池を使っていて、各地域のTOYOTAさんが手厚く協力してくださっています。

——LUNA SEA以外のプロジェクトにも、水素燃料電池を採用しているのでしょうか?

SUGIZO はい。THE LAST ROCKSTARSや僕のソロでもライブに使用しています。また、U2が来日したとき、さいたまスーパーアリーナ公演で使っていただきました。ちょうどスティーヴ・リリーホワイトと仕事していた時期で、来日すると言うから聞いてみたんです。“U2のメンバーは水素燃料電池を使ってくれないだろうか? すごく重要だと思うよ”と。そしたらスティーヴが“面白い!”と言ってメンバーに聞いてくれて、“ぜひ。興味がある”という返答をもらいました。当日は僕らのシステムをお貸しして、楽器周りに使っていただいたんです。ほかにもトピックがあります。北海道と苫小牧市が注力している『TOMAKOMAI MIRAI FEST(トマコマイ ミライ フェスト)』が極力、水素燃料電池で運営したいと表明していて、僕をGX(Green Transformation)プロデューサーに任命してくださったんです。2023年9月の回では、現地のTOYOTAさんや自治体の方々がFCVを手配してくださり、恐らく世界で初めて、2日間の日程を通して全出演者が水素燃料電池を使っていたと思います。2023年11月の『PEACE STOCK 78' HIROSHIMA 2023』でも、すべての出演者が水素燃料電池を使いました。

TOYOTAの燃料電池自動車MIRAIの計器盤の一部。水素と酸素を化学反応させて発電することがグラフィックで表示されている。また、そのグラフィック内にH2Oと書かれている通り、発電の結果、排出されるのは水だけなので環境にやさしい

TOYOTAの燃料電池自動車MIRAIの計器盤の一部。水素と酸素を化学反応させて発電することがグラフィックで表示されている。また、そのグラフィック内にH2Oと書かれている通り、発電の結果、排出されるのは水だけなので環境にやさしい

——この取り組みが、さらに拡大することを願います。

SUGIZO エネルギーを化石燃料で賄う時代は終わろうとしていて、世の中は新しいアプローチにシフトしなければいけないし、そうでないと環境破壊は“待ったなし”です。芸術やエンタメの世界に生きる僕らも、自動車の世界と同様に、できることはやらなければならない。自分たちの音や表現を、どうやって地球に負荷をかけずに作っていくかというのは、これから全員が考えていくべきだと思うんです。それを僕は少し早く実践しているだけで、やってみたら幸いにも音のクオリティが高かった。使うものが水素燃料電池でなかったとしても、環境に対する意識が音楽やエンタメの世界で当たり前になってもらわないといけないと思っています。


◎こちらもチェック…「TRUE BLUE」のキメも、キックが命。LUNA SEAセルフカバー『MOTHER』『STYLE』の制作秘話

Release

『MOTHER』
LUNA SEA
エイベックス:AVCD-63513/B(初回限定盤A)、AVCD-63514/B(初回限定盤B)、AVCD-63515(通常盤)

 

『STYLE』
LUNA SEA
エイベックス:AVCD-63520/B(初回限定盤A)、AVCD-63521/B(初回限定盤B)、AVCD-63522(通常盤)

関連記事