アマピアノの作り方をaudiot909が解説

アマピアノの作り方をaudiot909が解説

前項「アマピアノとは?〜名盤や歴史を解説」にてアマピアノがどのような音楽かを理解いただいたところで、ここからは本特集のメインとなるアマピアノの制作術をお届けしよう。講師は、国内におけるアマピアノのパイオニアと言われるDJ/音楽プロデューサーのaudiot909。DAWを用いたアマピアノ制作のポイントをギュッとまとめてもらったので、ぜひじっくりと読み進めていただきたい。

制作のポイント&制作ツール

 audiot909です。まずは、アマピアノの具体的な音楽的特徴を以下に挙げてみます。

  • “ログドラム”と呼ばれるシンセベース
  • 113BPM前後のテンポ
  • 16ビートのノリのシェイカー
  • 音量が小さめのキック

 どれもアマピアノにおいては欠かせない要素なのですが、特にテンポが113BPM前後というのがポイントです。4/8/16ビートのリズムを同時に感じられるという絶妙なテンポ設定になっています。

 次に必要な機材やソフトウェアについて。パソコン、DAWソフト、オーディオインターフェース、モニタースピーカー/ヘッドホンといった基本的なDTMの制作環境があれば大丈夫です。しかし、アマピアノの制作において切っても切れないのが、前項でも登場したFL Studio

Image-Line Software FL Studioの画面

Image-Line Software FL Studioの画面。アマピアノの制作にはFL Studioに付属するインストゥルメントがキーとなりますので、FL Studioは欠かせないツールだと思います

 南アフリカではFL Studioが圧倒的なシェアを誇り、アマピアノを制作するにはFL Studioに付属するインストゥルメントやそのプリセットがキーとなります。ある特定の音楽ジャンルを制作する際のコツとして、各パートの音色を近づけるという方法がありますが、早い話、FL Studioを導入することが一番の近道だと言えるでしょう。私は普段、Ableton Liveを使用していますが、アマピアノ制作のために2nd DAWとしてFL Studioを使っています。デモ版があるので、興味のある方は今回を機に試してみることをお勧めします。

ドラム&パーカッション

 主にキック、ハイハット、スネアやクラップ、タム、シンバルのほかに、コンガやジャンベ、シェイカー、カウベルといったパーカッションを多用します。アフリカの打楽器を購入して録音するなどの必要はなく、アマピアノに特化したサンプルパックを導入するのがポピュラーです。近年では、YouTube動画の概要欄に貼り付けられたURLからサンプルパックをダウンロードできるものも多いので、検索してみてください。私がお薦めするのは、無償提供されているサンプルパック『J.E Sample Pack』。これは現地のアマピアノクリエイターたちも、よく使っているものだと言われています。

シェイカー

 アマピアノのドラムで最も注目すべきはシェイカーです。テンポを113BPMに設定したら、シェイカーのループ素材を置きましょう。ポイントとしては16ビートのフィーリングを感じやすく、リズムがヨレすぎていないものを選ぶことです。私は“グルーブが生まれやすい”という理由から、シェイカーのループ素材を複数重ねることが多いです

シェイカーのループ素材を2種類レイヤーし、キックを打ち込んだところ

シェイカーのループ素材を2種類レイヤーし、キックを打ち込んだところ。重ねることでダイナミクスの強弱が強調されるため、グルーブが生まれやすくなります

キック

 アタックが弱く、柔らかい音色のキックを選びましょう。ハウスと同様に基本的には4つ打ちで配置します。注意してほしいのは、アマピアノではキックを目立たせるのではなく、ログドラムを前面に出すということ。そのためキックの音量は小さめに、またEQでハイカットすることをお薦めします。例として、EQで70~80Hz付近にハイカットを入れてみました

FL Studioに付属するEQエフェクトFruity Parametric EQ 2

FL Studioに付属するEQエフェクトFruity Parametric EQ 2。70〜80Hz辺りにローパスフィルターを入れ、キックの高域をバッサリとカットします

そのほかのパーカッション

 コンガやボンゴ、ハイハットといったパーカッションを加えます。南アフリカの音楽ということで、クオンタイズをかけずにリアルタイム入力で抜群のリズム感を発揮しないといけないのだろうか……と思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。現地のプロデューサーたちは意外とベタ打ちの人が多いという印象です。むしろ、ほかの楽器とのバランスを考慮してパーカッションを打ち込むセンスが求められます。これを言語化するのは難しいですが、シェイカーとキックのグルーブの合間、特に裏拍を意識して、適切な音色のパーカッションをタイミングよく配置しましょう。最初は難しいと思うので、パーカッションのループ素材を使用するのもお勧めです。これでアマピアノのドラムが完成しました。

FL Studioに付属するシーケンサーChannel Rackに、パーカッション類を打ち込んだところ

FL Studioに付属するシーケンサーChannel Rackに、パーカッション類を打ち込んだところ。音源はパーカッションのワンショット素材を用いています。裏拍を意識して打ち込んでいくのがポイントです

ログドラム&スネア

 対談でもお伝えしたとおり、アマピアノにおいてログドラムとはシンセベース・サウンドの意味で用いられることが一般的で、現地クリエイターはFL Studioに付属するシンセ、Fruity DX10収録プリセットの“Log Drum”をシンセベースに使用していることが多いです

FL Studio付属シンセFruity DX10

FL Studio付属シンセFruity DX10。“Log Drum”というプリセットを読み込んだら、INITを63%、TIMEを27%、SUSを0%に設定しましょう。アタックとピッチ感を適度に持ち合わせた“使い勝手の良い音”になります

 ログドラムがどのような音なのか、気になる方はVigro Deep「Untold Stories」を聴いてみてください。2:34付近から始まるアタック感を持ったベースサウンドがログドラムです(スネアと一緒に鳴っていることが多い)。2:39辺りでズルルル!と連打したようなサウンドもログドラムになります。極論ですが、アマピアノの良し悪しは、このログドラムを“どれだけかっこよく鳴らすことができるか”に左右されると言っても過言ではありません

 ログドラムサウンドを制作に取り入れる場合は、以下の3つの方法が考えられます。

  • Fruity DX10のプリセット“Log Drum”を使用する
  • Dead Duck Software DDX10のプリセット“Log Drum”を使用する
  • ログドラムのワンショット素材をサンプラーで鳴らす

 最も定番なのはFruity DX10で、DDX10はWindowsで動作する無償VST2プラグインです。どちらもログドラムのプリセットがあります。アタックとピッチ感を程良く持たせることが、音作りにおけるポイントです。

 打ち込みについてですが、1拍目以外を裏拍で打ち込むとアマピアノらしく聴こえます。ちなみにログドラムのスネアは2拍目と4拍目に鳴らないことが多いです。ログドラムのアタックを補強するようなイメージでスネアを打ち込むのがポイントです。

ピアノロールにログドラムを打ち込んだところ

ピアノロールにログドラムを打ち込んだところ。曲にもよりますが、1拍目以外をオフビートで打ち込むことで、アマピアノらしいログドラムになりやすいです(黄枠)。ログドラムにアクセントを付けたいところには、スネア(赤枠)を重ねましょう

 さらに、ここからログドラムのリズムパターンを細かくしてみましょう。ルートを軸にログドラムのラインを動かしたり、小節の終わりに連打音を入れたりしています。ログドラムとスネアを組み合わせてグルーブ作るのが、アマピアノのビートにおいて重要です

❻で打ち込んだログドラムをさらに展開したところ

で打ち込んだログドラムをさらに展開したところ。ルートを押さえつつ、動きを加えました。4拍目と8拍目の裏ではログドラムを連打させてアクセントを付けています(黄枠)。ここではベロシティで変化を付けてあげるとよいでしょう(赤枠)

 アマピアノはラウンジミュージックのように聴こえることもありますが、基本的にはダンスミュージックです。そのため低域〜超低域の鳴りが大切になってきます。必要に応じてログドラムにサブベースをレイヤーするのもお勧めです。その場合、ログドラムの低域をEQで軽く削るといった工夫も有効です。ぜひ一度クラブに足を運んで、ログドラムがどのように鳴っているかを確認してみてください。

シンセ

 最後は上モノです。近年、アマピアノの上モノにはシンセやピアノ、ギター、ホイッスルなど、さまざまなサウンドが使われていますが、初期のアマピアノではFL Studioに付属するインストゥルメント、特にシンセのGMSやMorphineが頻繁に用いられています。

 例えばGMSのプリセット“Daibolo TE”はドローンベースとして、またMorphineのプリセット“BRS Trombone MC”はレゲエ風の裏打ちコードシンセとして使われています。そのほかにもまだまだFL Studioの付属インストゥルメントを使用した例はたくさんありますので、以前執筆したサンレコ2023年7〜8月号のDAW Avenue Image-Line Software FL Studio記事を参考にしてください。

 サードパーティ製のソフトシンセも紹介しましょう。まず挙げるべきはSONIC cat PURITYアマピアノの制作において最も使用されていると言っていいくらいで人気で、数多くのチュートリアル動画にも登場します。PURITYでよく使われているプリセットは、“Echo Drop”で、レゲエ風の裏打ちシンセコードとして用います。

アマピアノの制作において人気のソフトシンセ、SONIC cat PURITY

アマピアノの制作において人気のソフトシンセ、SONIC cat PURITY。プリセットの“Echo Drop”や“Tremolo Signal”などはアマピアノの楽曲で頻繁に用いられています

 さらにPURITYのプリセット“Tremolo Signal”は、シンセパッドとして多用されています。例えばMFR Souls「Amanikiniki (feat. Major League DJz, Kamo Mphela & Bontle Smith)」という曲では、コード楽器が鳴っていないときにこのシンセパッドが登場し、空間のすき間を埋める役割を担っているのです。

 シンセの打ち込みについてですが、ドローンベースは基本的に全音符で鳴らすだけなので特に難しいことはありません。またレゲエ風の裏打ちシンセコードも、裏拍でコードを弾いているだけなので非常に簡単です。

 シンセはここで紹介したもの以外でももちろんOK。air Xpand!2やREFX NEXUSなどもアマピアノでは人気です。ご自身の好きなシンセで研究してみるとよいでしょう。

曲展開とミックス

 オーソドックスな曲の展開は、以下のパターンです。

  1. ドラムから始まるイントロ(16小節)
  2. シンセリフやコードが加わるセクション(16〜32小節)
  3. ログドラムが入り、最も盛り上がるセクション(32小節)
  4. ブレイク(32小節)
  5. 再びログドラムが入り盛り上がるセクション(32小節)
  6. ドラムで終わるアウトロ(32小節)

 上記は普段からJポップなどを聴いている我々からすると理解しにくいことかもしれませんが、アマピアノのヒット曲では6分を超えていることも珍しくないです。4のブレイクも特徴的で、しばらくシンセパッドしか鳴ってないようなアレンジもしばしば見られます。

 アマピアノの曲が長尺になりがちな理由にはハウスを土台としていることが挙げられますが、ほかにも、南アフリカの人たちは1曲をじっくり楽しむ傾向があることが関係しているでしょう。

 ミックスについてですが、冒頭でもお伝えしたとおり、ハウスと比べてキックは小さく、代わりにログドラムとシェイカーを大きくするという音像が代表的です。それらを基準にドラムの各パーツや上モノを組んでいきましょう。上達の近道は、たくさん曲を聴いたり、コピーしたりすること。私は日本人なりにアマピアノを解釈した一例として、11月にアルバム『JAPANESE AMAPIANO』をリリースしましたので、ぜひお聴きください。それでは、またどこかでお会いしましょう!

 

audiot909

audiot909
【PROFILE】プロデューサー/DJ。国内におけるアマピアノのパイオニア。もともとハウスのDJだったが2020年からアマピアノの制作に着手し、同年ラッパーのあっこゴリラをフィーチャーしたシングル「RAT-TAT-TAT」を発売。2023年には自身初のアルバム『JAPANESE AMAPIANO』をリリースし、話題を呼ぶ。


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【特集】アマピアノ制作術

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