アマピアノとは?〜名盤や歴史を解説

アマピアノとは?〜名盤や歴史を解説

南アフリカ発祥のダンスミュージックにジャズやディープハウスなどが融合/進化した音楽

現在、急速に発展しているアフリカン・ダンスミュージック・シーンの中でもひときわ群を抜く音楽ジャンルの一つ、アマピアノ。南アフリカで親しまれているポピュラー音楽にジャズやディープハウスが混ざり、独自に進化を遂げたダンスミュージックである。サンレコでは“アマピアノって何?”という読者や、“制作してみたいけどよく分からない”といった読者に向け、アマピアノの音楽的背景や制作術を整理。まずは“アマピアノって何!?”という読者のために、その概要や成り立ちを整理し、近年までの流れを振り返ってみよう。ここでは国内において“アマピアノのパイオニア”と言われるDJ/プロデューサーのaudiot909と、南アフリカのダンスミュージックやカルチャーに精通したDJ/ライターのmitokonに登場していただき、アマピアノについて多角的に解説してもらう。

audiot909
mitokon(板谷曜子)

audiot909
【PROFILE】プロデューサー/DJ。国内におけるアマピアノのパイオニア。もともとハウスのDJだったが2020年からアマピアノの制作に着手し、同年ラッパーのあっこゴリラをフィーチャーしたシングル「RAT-TAT-TAT」を発売。2023年には自身初のアルバム『JAPANESE AMAPIANO』をリリースし、話題を呼ぶ。

mitokon(板谷曜子)
【PROFILE】 南アフリカのダンスミュージックに特化したDJ/ライター。東京を拠点とするゴムのパーティークルー“TYO GQOM”のメンバー。南アフリカ音楽に興味を持ち、2013年からSNSで情報発信を開始。現地のカルチャーに精通し、現在はDJやSNS、音楽誌への寄稿を通じて現地シーンの魅力を発信しつづけている。

サウンドシステムを搭載した南アフリカのタクシー

——まずは、あらためて“アマピアノ”とは何か、お二人から簡単に説明していただけますか?
mitokon アマピアノは、ズールー語やコサ語といった言語において複数形を示す接頭辞“アマ(ama-)”と“ピアノ(piano)”という単語が組み合わさった言葉です。初期は鍵盤楽器をフィーチャーした曲が多かったので、そう名付けられたと言われています。

audiot909 2010年代初めに南アフリカで発展した音楽ジャンルで、ディープハウス、ジャズ、そしてクワイト(Kwaito)やバカルディ(Bacardi)といった南アフリカ特有の音楽の影響を受けたダンスミュージックです。

——クワイトやバカルディとは、どのような音楽ですか?

audiot909 クワイトは1990年代に南アフリカで誕生した音楽ジャンルです。ハウスの要素がありますが、一般的なハウスと比べてテンポが遅いことが特徴として挙げられます。

mitokon シカゴハウスをダウンテンポにし、そこに現地のラップを乗せたのが始まりだと言われていますね。南アフリカのタウンシップ、特にヨハネスブルグで人気を博し、アパルトヘイト(人種隔離政策)の終わりと新しい時代の到来を象徴するものとして広まったと言われています。ダンスミュージックとしてだけでなく、一種の社会的表現としても機能したそうです。

audiot909 バカルディは1990年代後半〜2000年代初頭、南アフリカにあるプレトリアのタウンシップで発祥したと言われています。こちらもハウスと南アフリカの伝統的なリズムやパーカッションを融合させたものです。“バカルディハウス”と呼ばれることもあり、2008年にDJ Mujavaがリリースした「Township Funk」が代表曲としてよく挙げられます。UKのWARP Recordsから出しているんですよ。

DJ Mujava「Township Funk」

 2008年にWARP RecordsからリリースされたDJ Mujava「Township Funk」。南アフリカの伝統的なリズムやパーカッションと、エレクトロニックミュージックを融合させた音楽で、世界的な成功を収めた

——タウンシップとは?

mitokon タウンシップとは、アパルトヘイト時代に政府に定められたに黒人居住区を指します。主に都市の周辺に位置し、現在も黒人の方々が多く暮らしています。

audiot909 まとめると、アマピアノは南アフリカのタウンシップ発祥のダンスミュージックにジャズやディープハウスなどが融合し、進化した音楽だと思います。

——アマピアノ黎明(れいめい)期と言われる2010年代前半は、どのような状況だったのでしょうか?

mitokon まだ社会ではアングラの音楽として認知されていました。当時はタウンシップ内のクラブやミュージックバー、車でかかっているくらいのレベルです。

audiot909 ここで重要になってくるのが、南アフリカにおける“乗り合いタクシー”の文化ですかね?

南アフリカの乗り合いタクシーには、サウンドシステムを搭載する車も多い

 南アフリカの乗り合いタクシーには、サウンドシステムを搭載する車も多い。移動中は運転手や乗客の好みに応じて、さまざまな音楽を大音量で流すのだそう

mitokon そうです。南アフリカは国土がとても広いので、車社会なんですよ。現地の方たちは車を持っている人もいますが、乗り合いタクシーがかなり普及しているんです。

audiot909 ミニバスのようなイメージが近いですよね?

mitokon トヨタのハイエースが主に使われています。この乗り合いタクシーを、タウンシップに住む人たちがよく使っているんです。しかも隣の街まで距離があるので、タクシーに乗っている時間が長いんですよ。

audiot909 要は、みんな車内で音楽を聴くわけですね。

mitokon はい。面白いのが、車内のBGMをタクシーのドライバーが選曲したり、客がBGMをセレクトしたりすることです。つまりタクシー内で“トレンド曲”や“推し曲”などの情報交換が行われているんです。

audiot909 乗り合いタクシーがハブとなり、各地に届けるラジオ局みたいな役割を担っているんですね!

mitokon 中には冷蔵庫サイズのウーファーやサウンドシステムを搭載したタクシーも珍しくありません。2010年代前半以降にアマピアノが南アフリカ中に浸透したのは、こういったタクシーの影響が大きかったと言われています。

audiot909 そういえばアマピアノDJ/プロデューサーユニットのMFR Soulsが、“活動初期はタクシーで自分らの曲を流した”と話していたのを思い出しました

MFR SoulsのYouTubeトップ画面

 MFR SoulsのYouTubeトップ画面。MFR Soulsは南アフリカ出身のDJ/プロデューサーデュオである。アマピアノの先駆者であり、同ジャンルの発展に大きく貢献している
https://www.youtube.com/@MFRSouls

mitokon 冒頭で話したクワイトやバカルディ、そしてアマピアノに並ぶ音楽ジャンルであるゴム(Gqom)も、同じようにタクシーによって南アフリカ全土に広まったと考えられています。

アマピアノDJの動画配信にディプロが登場

——2010年代後半では、アマピアノはどう進化していくのでしょうか?

audiot909 ここでは先ほど紹介したMFR Soulsをはじめ、DJ/プロデューサーのMr JazziQやKaza de Small、Gaba Cannalらが表舞台に登場します。

mitokon 彼らは“アマピアノのパイオニア”と言われている人たちですよね。

audiot909 中でも2013年にMFR SoulsがメジャーからリリースしたEP『Bless The Souls』や、2016年に南アフリカの有名なハウスレーベルHouse Afrika Recordsがリリースしたコンピレーションアルバム『AmaPiano Volume 1』は、アマピアノの人気を後押ししました

2016年にHouse Afrika Recordsがリリースしたコンピレーションアルバム『AmaPiano Volume 1』

 2016年にHouse Afrika Recordsがリリースしたコンピレーションアルバム『AmaPiano Volume 1』。audiot909いわく「アマピアノ入門に最適な一枚」とのこと

mitokon この辺りから、メジャーレコード会社と契約するアマピアノアーティストが増えてきます。そして、この流れに乗って大ヒットした曲が2018年リリースのKabza De Small「Umshove (feat. Leehleza)」と、2019年リリースのSamthing Soweto「Akulaleki(feat. Sha Sha, DJ Maphorisa & Kabza De Small)」などです。これらによって、アマピアノは南アフリカ中でブームになりました。

audiot909 今でもKaza de Smallは、“キングオブ・アマピアノ”と呼ばれています。

——黎明(れいめい)期と比べて、サウンド的な変化はあったのでしょうか?

audiot909 今やアマピアノのアイデンティティとも言えるサウンド“ログドラム”が、楽曲に用いられるようになったことだと認識しています。ログドラムは別名スリット・ドラムとも言われますが、アマピアノではImage-Line Software FL Studioに付属する音源Fruity DX10のプリセット“Log Drum”を用いたシンセベースの音という意味で使われることが多いです。南アフリカでは、それだけアマピアノの音楽制作にFL Studioが欠かせないツールとなっているんです。

Image-Line Software FL Studioに付属するシンセ音源、Fruity DX10

 Image-Line Software FL Studioに付属するシンセ音源、Fruity DX10。Log Drumという名前のプリセットを収録しており、アマピアノのクリエイターたちはこれを楽曲のベースに使用することが多いという

mitokon あとはテンポが下がりましたね。最初の頃は118〜120BPMくらいの曲が多かったんですが、この時期から現在主流の113〜115BPMになっています。クワイトのときもそうだったんですが、ダウンテンポにした方が南アフリカの人たちにとってなじみやすいんでしょうか?

audiot909 これはダンサーの方から聴いた話ですが、このテンポは4/8/16ビートと、どのリズムでも取れる“おいしいテンポ”だそうです。南アフリカの人たちってダンスが大好きなので、そういった背景もあるのかなと思います。

——南アフリカでブームを迎えたアマピアノは、2020年代前半〜現代になるとどのように変わりましたか?

audiot909 アマピアノは世界中から関心を集めはじめます。その理由は、2021年10月に南アフリカで人気のアマピアノDJデュオMajor League DJzのYouTube番組“Amapiano Balcony Mix”に、ディプロがゲストDJとして登場したことが挙げられます。当時は大きな出来事だったと記憶していますね。

2021年10月16日に、南アフリカのアマピアノDJデュオMajor League DJzのYouTubeチャンネルで公開された“Amapiano Balcony Mix”の様子。ゲストDJにディプロが登場して話題となった

 2021年10月16日に、南アフリカのアマピアノDJデュオMajor League DJzのYouTubeチャンネルで公開された“Amapiano Balcony Mix”の様子。ゲストDJにディプロが登場して話題となった
https://youtu.be/UPdR5FaasWA?feature=shared

mitokon ちょうどコロナ禍というタイミングも大きかったですよね。みんなクラブに行けないので、自宅でオンライン配信を見る人も多かったのかなと。サウンド面では、近年ログドラムの主張が強いアマピアノが増えました。

audiot909 言葉で表現するのが難しいんですが、シンセのフレーズやハイハットのタイミングが、バカルディ寄りになってきています。特に2022年前後からアマピアノはダークでシリアスなサウンドに変わった印象です。ちなみに今年は南アフリカのシンガー、タイラの「ウォーター」がグローバルヒットを飛ばしていますね

タイラ「ウォーター」

 南アフリカはヨハネスブルク育ちのシンガー、タイラ。繊細かつスキルフルな歌唱スタイルが特徴だ。2023年7月にリリースした「ウォーター」は現在グローバルヒット中で、R&Bやアフロビーツ、アマピアノを独自に昇華したサウンドとなっている

mitokon この曲は、日本国内でもお店のBGMでよく流れたりしていますよね。クラブではR&BのDJがかけていることもあったり。「ウォーター」がはやったきっかけは、TikTokのダンス動画が主な要因だと思います。

audiot909 トラヴィス・スコットやマシュメロが参加したリミックスも出ていますよね。既にタイラは2024年のグラミー賞にて、“最優秀アフリカン音楽パフォーマンス賞”にノミネートされているそうです。2024年は、ますますアマピアノの世界的ブレイクが加速しそうですね!

Column|進化し続けるアマピアノ by audiot909

2020年にアマピアノを初めて聴いたとき、“これはすごい音楽を見つけた!”と興奮したものです。その広がりは今や驚異的で、あっという間に世界的なブームになりました。今年はスクリレックスがアマピアノアーティストとコラボしたり、タイラの「ウォーター」が空前の大ヒットを記録したりして、ここ日本でもアマピアノは最先端の音楽として注目されています。ここではアマピアノが南アフリカ以外の国でどのように広がっているのかについて、幾つかの例をご紹介しましょう。

ナイジェリア

 まず注目すべきは西アフリカに位置するナイジェリア。Asake、Davido、Wande Coalといったアフロビーツシーンの巨人たちが、アマピアノのビートを次々と取り入れはじめました。もともとアフロビーツという音楽ジャンルで世界進出を果たしていた彼らですが、今日アマピアノをグローバルなポップスに昇華した作品を続々とリリースしています

「Amapiano(feat. Olamide)」(『WORK OF ART』収録) Asake & Olamide (EMPIRE) 2023年11月リリース

「Amapiano(feat. Olamide)」(『WORK OF ART』収録)
Asake & Olamide
(EMPIRE)
2023年11月リリース

アメリカ

 アメリカでは、ナイジェリア出身のアーティストSarzとスクリレックスがコラボレーションを実現。ナイジェリア産アマピアノとアメリカ産ベースミュージックが独自に融合した楽曲に、世界の注目が集まったのが記憶に新しいです。

「Yo Fam!」 Sarz ft. Crayon & Skrillex (1789 / UnitedMasters LLC) 2023年9月リリース

「Yo Fam!」
Sarz ft. Crayon & Skrillex
(1789 / UnitedMasters LLC)
2023年9月リリース

 そして、ドレイクが南アフリカのDJ/プロデューサー、Uncle Wafflesに早い時期からSNS上でラブコールを送っていたことも見逃せません。さらにドレイクは、自身のツアープロデューサーの一人に南アフリカの大物プロデューサーであるKabza De Smallを起用。ドレイクの鋭い嗅覚が、至るところに発揮されています。

 ジャージークラブとドリルの混合ジャンル=ジャージードリルの先駆者Unicorn151とAceMulaは、アマピアノの人気曲であるTyler ICU & Tumelo.za「Mnike(feat. DJ Maphorisa & Nandipha808 & Ceeka RSA & Tyron Dee)」をサンプリングして、“ジャージークラブ・アマピアノ”という新しい解釈を提唱。その大胆な発想で音楽ファンを驚かせました。

「Mnike(Jersey Club Amapiano)(feat. AceMula)」 Unicorn151 (UNICORN151) 2023年9月リリース

「Mnike(Jersey Club Amapiano)(feat. AceMula)」
Unicorn151
(UNICORN151)
2023年9月リリース

イギリス

 イギリスは世界的に見てもアマピアノに対する反応が早かった国の一つ。現地ではAMA FESTという、アマピアノに特化した大規模フェスティバルが開催されています。特筆すべきはイギリス独自のダンスミュージック、UKファンキーとアマピアノが融合した流派の出現。Scratcha DVAの別名義=ScratchclartとRazzler Manが2021年に発表した楽曲「Razzclart」はまさしくそれで、アマピアノがUKベースミュージック・シーンからも注目されるきっかけを作りました。ちなみに同曲はHyperdubからリリースされています。その後はDJ Polo、Ikonika、FiyahdredといったUKのDJたちが、アマピアノに独自の解釈を加えた作品を生み出しているという状況です。

「Razzclart」(『& Baga Man』収録) Scratchclart & Razzler Man (Hyperdub) 2021年2月リリース

「Razzclart」(『& Baga Man』収録)
Scratchclart & Razzler Man
(Hyperdub)
2021年2月リリース

 

 現在、世界中でアマピアノがトレンドになっており、今後どのようなコラボレーションやサブジャンルが生まれるかが注目されています。南アフリカ国内外で進化を続けるアマピアノからますます目が離せません!

【特集】アマピアノ制作術

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