NEXO製スピーカーで声の聴きやすさを改善
川崎駅の目の前というアクセスの良さを誇る2004年設立のミューザ川崎シンフォニーホール。室内楽の演奏にも最適な市民交流室やグランド・ピアノを備えた練習室などを有する複合音楽施設だ。中でも螺旋構造の客席がステージをぐるりと囲むメインの音楽ホールでは、オーケストラのコンサートを中心に、年間多数の公演が行われている。ミューザ川崎シンフォニーホールにYSSが音響設備として携わるようになったのは、2015年度に行われたコンソールの改修から。川崎市実施の入札で決まったサブコンの下、YSSが担当することになったという。ミューザ川崎シンフォニーホール事業部長の竹内淳氏は、YSSに決定したと聞き安心したと語る。
「ミューザ川崎シンフォニーホールに勤務する以前、オーケストラの事務を務めていたことがあるんです。当時、野外コンサートを行うことがたびたびあったのですが、マイクで拾った音をスピーカーから出すと生音との違和感が非常に強いことがよくありました。あるとき静岡で野外コンサートを行ったとき、その主催者が“うちは音響をYSSにお願いしており、絶対に皆さんが納得する音を届けることができます”と言っていたのですが、最初は半信半疑だったんです。ところが、実際に聴いてみるとホールで演奏している音と遜色が無く、驚きました。YSSには確かな技術があるのだなと強く感じたので、音響設備がYSSになるのであれば絶対に悪いことにならないだろうと確信しましたね」
ミューザ川崎シンフォニーホールは、2019年1月から半年間休館し、大規模な改修を行った。音響分野でも、音楽ホールのメイン・スピーカーと天井に埋め込まれた天井分散スピーカーをリニューアルしたといい、これはスタッフ全員の悲願だったと竹内氏は言う。
「近年はオーケストラの定期演奏会などで、指揮者がマイクを使ってコメントを述べるようなことが増えてきました。また、ピアニストのソロ・リサイタルなどでも、以前はアンコールの際に一言述べる程度だったのが、最近は長く話すことも増えています。ミューザ川崎シンフォニーホールは豊かで最適な残響時間を有しているため生音での演奏にはベストです。それがゆえに、マイクを使ったアナウンスなどの拡声音だと、少々明りょう度が落ちてしまう席がありました」
このため、「来場者からご指摘をいただくこともあった」と、ミューザ川崎シンフォニーホール広報担当の前田明子氏は振り返る。
「良かれと思って楽曲の説明を入れてみたら、それが聴き取りにくいという理由で不満につながったりと残念な状況だったんです。ただ、コンサートの中にトークを入れるという需要は今後さらに増えていくことが予想され、ミューザ川崎シンフォニーホールが生き残っていくためにも、声の明りょう度を上げることは必須でした」
この要望に対してYSSは、発注図面に準じてNEXOのラインアレイ・スピーカーで対応した。メイン・スピーカーはステージ正面客席向きにGeo M10を片側につき7基、ステージ横向きにGeo M6を左右それぞれ4基ずつ、ステージ後方向きにGeo M6を片側につき3基ずつフライング。天井分散用には、IDとGeo M6を採用したとYSSの阿部真氏が語る。
「これらのモデルは非常に小型かつ軽量なため、天井が斜めになっているところでも客席に向けた微細な角度調整ができました。また、既設のスピーカーの場合ワイアーつりのため工事の際に角度調整が難しかったのですが、改修にあたりレール方式に変更することにより、ピンポイントで客席に音を届けられるようになったんです」
図面に沿って設置した後、設計事務所の音響コンサルタントと共にテストを重ね細かくスピーカーの角度調整を行ったとYSSの河野峻也氏が解説してくれた。
「スピーチが全座席に均等に届くことを重視しながら、1週間ほどかけて調整から測定まで行いました。基本的にはイコライジングや物理的な角度調整をして、聴きながらまた調整するという繰り返しですね。アナライザーも使いましたが、最後は人間の耳で聴いてみてどうかという部分が重要な判断材料でした」
スピーカー改修で観客からの評価が向上
このように調整したスピーカーの出音をミューザ川崎シンフォニーホールのスタッフが確認したところ、あまりの違いに驚いたと竹内氏は言う。
「“間も無く開演です”という影アナの音声を流したり、私や女性スタッフがマイクを使って話してみたところ、非常に聴きやすかったです。今まで聴こえづらかったステージ横の座席でも全く問題無く、これなら大丈夫だろうと確信しました」
毎年夏に行っている音楽祭に来場した観客からの反応が大きく変わったと竹内氏。
「演奏前のトークなど指揮者が話す機会が比較的多い公演で、改修前は私がロビーに立っていると帰りがけにお客様から“声がよく聴こえなかった”というご指摘をいただくことがありました。しかし、今年の夏はそのようなご意見が一切無かったんです!」
前田氏も観客の満足度向上を強く実感しているという。
「アナウンサーの声ですら聴こえづらいことがあって、ご本人の資質とは関係の無いところでお客様の不満につながってしまうことがありました。また、トークの割合が通常のクラシック・コンサートに比べて高いファミリー向けの公演も、指揮者の声が聴こえにくいと、コンサートの満足度が下がってしまうんです。良くなったという直接的な評価はありませんが、改修後はお客様からのご指摘が皆無だということは誰も声の聴き取りやすさにストレスを感じておらず、満足されているのだと思います」
オーケストラをはじめとした利用者からも高評価だと、ミューザ川崎シンフォニーホールの堤由行氏が続ける。
「改修してからMCが聴き取りやすくなったと言われます。また、自分でオペレートしていても、声を届けやすくなったので、仕事のしがいがありますね。声以外でも、ギター・コンチェルトなどマイクによる収音が必要な公演はやりやすくなると思います」
観客と利用者の反応も良く今回の改修に大変満足しており、今後もYSSに改修を依頼したいと竹内氏は言う。
「公共ホールという制約が多い環境の中で、最大限の改修をしていただけたと思います。保守の分野でも即座に対応してくれますし、部門単位ではなくYSS全体でバックアップしてくれる点も大変助かっていますね。これからもYSSに改修から保守まで行ってほしいと思っています」
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