第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。今本 修氏の今月のセレクトは、プーマ・ブルー『イン・プレイズ・オブ・シャドウズ』、ピンク・スウェッツ『ピンク・プラネット』です。
音色からキック・スネアの大きめなバランスは
ローファイ・ヒップホップへの愛を感じる
サウス・ロンドン出身のジェイコブ・アレンことプーマ・ブルー。中性的な声もそうだが、語尾の揺れなどに女性的な繊細さがあり、奏でる音や顔立ちすらも美しい。2014年にSoundCloudにアップした楽曲「Only Trying 2 Tell U」で話題になり、近年はヨーロッパのみならず、日本でもライブ・チケットは即完売とのこと。数枚のEPやライブ・アルバムをリリースし、このたびやっとフル・ボリュームのデビュー作品が発売されたのである。谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』に影響を受け、作品名はこの英題と一緒にしたと公言しているのも我々日本人にとってはうれしい話。
音楽を始めるきっかけがドラムだったということもあり、本作はドラムのこだわりも聴きどころだ。音色からキック・スネアの大きめなバランスはローファイ・ヒップホップへの愛を感じる。テープのワウ・フラッターの効果を多用するなど細部にこだわったミックスをするのはビョークなどを手掛けるマルタ・サロニ。全体的に暗めだが、時にドラムンベース的な速いテンポの楽曲もあり、最初から最後まで聴き入ってしまう。
ゴスペルやソウル・ミュージックは音数を最小限に抑え
現代らしいメロウな雰囲気に
デビュー・アルバムと言えば、ピンクのファッションが多くのセレブたちを魅了するピンク・スウェッツの『ピンク・プラネット』。昨年リリースされた楽曲に新曲を加えた全18曲のボリュームはうれしい内容だ。生音を軸にしており、ゴスペルやソウル・ミュージックは音数を最小限に抑えることで、現代らしいメロウな雰囲気に仕上げている。
今本 修
【Profile】DOGLUS MUSIK主宰。クラブ・ミュージックを熟知した音作りに定評がある一方、ロックの分野でも手腕を発揮するエンジニア