桑原聖(Arte Refact)後編〜GENELEC The Ones Load Test

 40年の歴史を誇るGENELECは、2006年にリスニング環境の問題を補正する技術、SAM(Smart Active Monitoring)を提唱した。そのSAMを内蔵したモデルでも特に人気なのは、同軸構造による点音源を実現した3ウェイ・スピーカーのThe Onesシリーズだ。この連載では、そのThe Onesに関心のあるクリエイターに一定期間預け、その実力を試してもらう。今回はアニメやゲームを中心とする音楽制作チームArte Refact代表の桑原聖に、The Onesの中型機8341Aを試してもらった。

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GLMでの補正はスウィート・スポットが広い
GENELECの特長を生かした必要な範囲でのフラットさです

今回のテスト・モデル

8341A
オープン・プライス
(ダーク・グレー:市場予想価格358,000円前後+税/1基、ブラック/ホワイト:市場予想価格378,000円前後+税/1基) 8341ap-k03 同軸ツィーター+ミッドレンジ・ドライバーに、2基の楕円形ウーファーを加えた3ウェイ・ポイントソース構成のThe Onesシリーズ中型機。最大出力は110dB、周波数特性38Hz〜37kHz(−6dB)と、サイズ以上のパワーとレンジを誇る。大型ウェーブガイドでスウィート・スポットの拡大にも成功

“マスタリング結果”が予想できるような音

 桑原の新拠点、Studio Arteに8341Aを持ち込んで1カ月。前回は2ミックスでの試聴だったが、この間さまざまなプロジェクトで実際に8341Aを使ってみたという。

 「スタジオ常設のニアフィールド・スピーカーは精細さが気に入って導入したもので、単体では低域が足りないのでサブウーファーも入れました。一方、8341Aだとサブウーファー無しでもそれに近い低域までモニタリングができるので、むしろコスト・パフォーマンスに優れていると言えるかもしれません

8341Aの隣にMTMタイプの背が高いニアフィールド・モニター(写真奥)が並ぶ。当然8341Aの出音にも影響はあるが、GLMで補正できるのがThe Onesのメリット。写真では分かりにくいが、本体下部のIso-Podを使ってわずかに上振りして、同軸ユニットが耳に向くように設置できるのもポイント 8341Aの隣にMTMタイプの背が高いニアフィールド・モニター(写真奥)が並ぶ。当然8341Aの出音にも影響はあるが、GLMで補正できるのがThe Onesのメリット。写真では分かりにくいが、本体下部のIso-Podを使ってわずかに上振りして、同軸ユニットが耳に向くように設置できるのもポイント

 スタジオ常設のモニターは、このStudio Arteでのミックス作業を想定して選んだそうだが、作曲やトラック制作などにはむしろThe Onesの方が向いていると桑原は語る。

 「マスタリングした結果を想定しながらモニタリングできるようなイメージです。とはいえ、お世話になっているスタジオでもThe Onesを使っているところはたくさんありますし、ミックスでも使える。このStudio Arteに8341Aがあると、そんなスタジオとの共通言語が持てるというか、“あそこで聴いたときにはこんな感じだった”という記憶や予想に頼らなくてもいいのは助かりました」

ディレクター席にも補正の効いた音を提供

 桑原だけでなく、Arte Refact所属のクリエイター/エンジニア陣もこの8341Aを試聴したそう。

 「GENELECのモニター・スピーカーに先入観を持っていた人もいましたが、実際にGLMの手軽さを知り、出音を聴いて、“The Ones、いいね!”という声も聞かれました

 そうしたテストで気が付いたことがあったと桑原は語る。

 「ここのメイン・モニターは4,096バンドEQの補正ソフトでフラットにしているのですが、エンジニア席に合わせると、後ろのディレクター席では今ひとつ分かりづらくなってしまいます。最大20バンドのGLMは、それに比べると細かく補正しているわけではないのですが、マルチポイント測定もできるので、スウィート・スポットが広く取れる。後ろの席でアーティストやクライアントにチェックしてもらうには、すごく大事なんですよ」

左がLch、右がRchで、赤が測定結果、青が補正EQ、緑が測定後の周波数特性。隣に別のモニター・スピーカーが並んだこともあって、測定結果において100Hz以下の低域や高域側のレスポンスが変わったそう。それでもGLMをかけることで、音の印象をほとんど変えることなくモニタリングできたという 左がLch、右がRchで、赤が測定結果、青が補正EQ、緑が測定後の周波数特性。隣に別のモニター・スピーカーが並んだこともあって、測定結果において100Hz以下の低域や高域側のレスポンスが変わったそう。それでもGLMをかけることで、音の印象をほとんど変えることなくモニタリングできたという

 この経験を通じて、あらためて“フラットなモニター環境”とは何かを桑原は考えたそうだ。

 「完全にフラットにできたとしても、それをリスナーの環境で鳴らすとどうなるかもあります。そう考えると、手軽さやGENELECとしてのモニターの特長を生かしたまま、必要な範囲での補正をするGLMは合理的だと思いました。この部屋にはもう1組スピーカーを導入したいのですが、8341Aはその候補の一つとして考えています」

桑原聖

kuwabara音楽制作チームArte Refactを率いるプロデューサー/作編曲家/ベーシスト。同人活動からプロへ転身。あんさんぶるスターズの音楽プロデュースを手掛けるほか、THE IDOLM@STER、プリパラ、ラブライブ!などのゲーム/アニメ/舞台への楽曲提供と編曲を行ってきた

■GENELEC製品に関する問合せ:ジェネレックジャパン www.genelec.jp