
実物同様のドラムのチューニングが可能
打面のコントロールも行える
早速自分で試して最高に良かった点、かつなるべく独自の視点でとらえることができるかも?というポイントを先にお伝えします。打ち込みをする人すべてにお薦めできるのですが、特にトラック・メイクをする人はマストバイだと思います! トラック・メイクのだいご味は、ドラム・サウンドをレイヤーしたり、リリースの細かな部分やピッチなどを考えた上でグルーブを作り上げることだと思うのですが、Modo Drumは今までのワンショット・サンプル素材ではできなかったこと、またマイクで録音されたドラムの音ではできなかったことを実現してくれるのです。
従来のサンプル・ドラム音源でも、マルチマイキングで音のカブリまでも絶妙に表現できたり、サンプルの切り替えで多彩な音色表現などはできていましたが、Modo Drumはそんなもんじゃないです。例えば、各楽器の個体はそのままに“ヘッド(皮)を張り替える”“バスドラのフロントのみチューニングを変える”“スネアのスナッピーのテンションを調整する”“スネアの打面範囲を広げる”などが可能。


これらはほんの一部で、ドラムにまつわるありとあらゆるパラメーターが存在しているのです! そして、その変化が音として非常に分かりやすい! きちんとパラメーターの差が出て、複雑なコントロールが効いて個性的でリアルな音が作れます。またそれが各エレメントの物理的な差としてだけではなく、タムへの共鳴や演奏スタイル、部屋鳴りの相互作用までもが表現されるのです。正直言って、スゴイ。
リリースのコントロールが自然
シンバル類はサンプル方式を採用
自分的に最高にツボなのは、残響的な成分が無くてもオンなサウンドだけで(ルーム・マイクやオーバー・ヘッドが無くても)ドライでかなり格好良いサウンドが作れるということです。誤解の無いように言っておきますが、内蔵のルーム・サウンドは非常によくできていて、単体のリバーブ・プラグインを別途かけるより素早く目的の響きを付加することができるぐらいです。さすが、T-RacksやAmplitubeをリリースしているIK MULTIMEDIA!なのですが、Modo Drumはそんなエフェクトを超えたところでもドラム・サウンドを作り込めるので、その点はエポック・メイキングです。

例えば、目前に迫る、残響少なめ、リリース速めの乾いたキックやスネアのサウンドを作ってみると、これはこれまで聴いたことがないぞ!というサウンドが出来上がりました。音のリリースはグルーブを作る上で最重要なパラメーターのひとつですが、それがここまで格好良く、自然にコントロールできる音源はModo Drumしか無い!と断言します。サンプルでの波形のフェード処理に対し、モデリングのドラム自体をタイトにしていくので、こうした違いが生まれるのでしょう。
一方、シンバル類はサンプルを使用しています。ハイハットが特に優秀だと感じました。やはりリリースにこだわってしまいますが、タイトなハットはなかなか“これだ!”というものが無い中、Modo Drumは良いです。モデリングのドラムと同様にDAMPというパラメーターでリリースを絶妙に調整できるので、かなり自分好みの音になりました。
Modo Drumは創造性を相当刺激してくれる音源なので、全クリエイターにお薦めなのですが、これからプレイヤーを目指す人にも、エンジニア志望者にも推薦したいです。これだけのドラム・チューニングの要素ひとつひとつを実地で体験することはなかなか大変ですが、Modo Drumでまずはドラムの各要素を理解しておけば、この楽器にかかわるすべての人に有意義であると考えます。フライト・シミュレーターがパイロットの世界を変えたように、モデリング音源がリアルなミュージシャンの世界を変えていくのだな、と思いました!
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年11月号より)