第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。D.O.I.氏の今月のセレクトは、ティーシャ『Flowers』、ボン・イヴェール『AUATC』です。
過去のさまざまな音楽をオマージュしつつも
回顧主義ではない最新の形
ロンドンの若手クリエイターティーシャがEP『Flowers』からの先行シングル「Sister」を発表しました。多様なジャンルを横断するイメージの老舗レーベルNINJA TUNEからのリリースということで、楽曲も確かにそのイズムを反映したものと感じます。こういったオーガニックな音でメロディアスな4つ打ちは近年あまり聴かなかった印象ですが、回顧主義ではありません。過去のさまざまな音楽をオマージュしつつも、最新の形だと思います。
ボーカル・エフェクトの多用やローファイな楽器の質感、リズムのタイミングなど“やはり2020年だな”と思うところが多いです。BEHRINGERのTD-3が発売された影響なのか(笑)、途中からROLAND TB-303らしい音が入ってくるのも胸アツ・ポイント。フィルターの開閉でエモさがより増してくる効果ありました。
世界で起きているさまざまな問題に対しての
メッセージが込められた楽曲
ボン・イヴェールの最新シングル「AUATC」は、現在世界で起きているさまざまな問題に対してのメッセージが込められた楽曲。メッセージ自体も公開されています。Prismizerを筆頭に常に先鋭的で実験的な録音テクニックを駆使する彼らにしては、すごくミニマルでオーソドックな印象。ただこれはゴスペルの雰囲気を強調するためのアレンジだと思います。
実際に何度か聴いていると、音場の違う素材が次々とインサートされてくる不思議な楽曲。一見普通に見えて、実はとてつもなく変態的要素がいたるところに散りばめられているのには、いつもよりもすご味や奥ゆかしさを感じました。
D.O.I.
【Profile】Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心としながらも、さまざまなプロダクションに参加している
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