第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。D.O.I.氏の今月のセレクトは、Kate Bollinger『A Couple Things』、ジュース・ワールド『Legends Never Die』です。
普通なのにどこか新しい印象を受ける
シンプルなアレンジとセンスあふれるミックス
何となく“過剰さ”を排したものが今の時代の雰囲気に合っていると感じます。数年前の洋楽メインストリームは音数が多く派手で仕掛けだらけでした。DAWやコンピューターの性能が上がったことも影響してか、最近はシンプルなアレンジで音数が少なく、大仰な展開やギミックも無い淡々とした楽曲が主流だと感じます。ベッド・ルーム・ポップという呼称がピッタリなケイト・ボリンジャーの「A Couple Things」はまさにその代表格。シンプルながら音色やミックスのセンスが抜群。普通のアレンジなのにどこか新しい印象を受けるのが驚異的です。時代をつかむ達人、トロ・イ・モワも「Ordinary Guy(feat. The Mattson 2)」で近いアレンジを披露していたので、このスタイルはやるかもと思いました。
サブスクで優位に感じる
自然で聴きやすく非常に粒立ちが良いサウンド
XXXテンタシオンやポップ・スモークなど若くして亡くなったラッパーの作品がチャートをにぎわせていますが、その中の本命ジュース・ワールドのアルバムがリリースされました。亡くなる前に2,000曲のストックがあったと言われているだけに、フローはさすがの一言。トラックのクオリティも高いので、これはヒットして当たり前くらいに思ってしまいます。サウンドは自然で聴きやすい上に非常に粒立ちが良く、サブスクでほかの楽曲と比較してみてもかなり優位な感じがしました。サブスク時代ではほかの楽曲に対抗するべく派手なミックスも求められがちですが、ちょうど良いところをきちんと理解する大事さを教えてもらえたアルバムでした。
D.O.I.
【Profile】Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心としながらも、さまざまなプロダクションに参加している
関連記事