第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。D.O.I.氏の今月のセレクトは、バッド・バニー & ジャイ・コルテッツ『Dakiti』、spill tab『Oatmilk』です。
ダークで切ないコード感と暗くくぐもったサウンド
レゲトンをイメージして聴くと違和感を覚える
The Billboard Hot 100でも急上昇し、レゲトンの中では特大ヒットになりつつあるバッド・バニー & ジャイ・コルテッツ「Dakiti」。ダークで切ないコード感と暗くくぐもったサウンドは、ステレオタイプなレゲトンをイメージして聴くと驚くほど違和感を覚える楽曲です。
ドラムから上モノの楽器までとにかくローパス・フィルターがかかりまくりで“いつフィルターが開くのかな”と思っていると結局最後までそのまま。これにはインパクトがあったので、このアレンジを思い付いて、潔く遂行した関係者全員に拍手を送りたいです。トラックの高域成分がほとんど無いことで、ボーカルの豊かな倍音成分が堪能でき、リバーブやディレイの処理もよく聴こえます。非常に立体的で気持ちの良いミックスで、ずっと聴いてしまう一曲です。
サビの“ディストーション+ワイドなステレオ処理”で
一気に音場が開ける手法
フランス/韓国出身のspill tabは、デビューEP『Oatmilk』に収録された「Name」がかなり面白かったです。バンド・サウンドながらもかなりドスの利いた低音や、あらゆる場所に加えられたボーカル・エフェクトの面白さと多彩さが印象的。また、サビの“ディストーション+ワイドなステレオ処理”で一気に音場が開ける手法など、随所に高度なミキシング・センスを感じました。
『Oatmilk』に収録された4曲は音楽の方向性もバラバラで、どれも尺が1分台なのは新世代的だと思います。ジャンルが不明なためオリジナリティも強く感じるので、今後が楽しみなアーティストです。
D.O.I.
【Profile】Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心としながらも、さまざまなプロダクションに参加している