第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。D.O.I.氏の今月のセレクトは、アリアナ・グランデ『ポジションズ』、Tone Stith『Devotion』です。
良い意味で違和感を覚えるリバーブ処理に
ストリーミング時代の新しい方向性を感じる
リバーブは、音楽における時代感覚を判断する大きな要因になります。モータウンによる60'sソウルやクラシック・ロックにおけるプレート・リバーブの空間処理、80'sポップスにおけるデジタル・リバーブたっぷりな音像。そして、90'sブーンバップ期ヒップホップのドライな質感や、近年のトラヴィス・スコットによる非常に深いリバーブとひずみのコンビなど、音楽制作においてリバーブは大きな役割を果たしているのです。
ここ数年、リバーブが深いもののうまくなじませて、ドライ音にフォーカスさせる方向性が多かった印象があります。しかし久々に、良い意味で違和感を覚えたのがアリアナ・グランデの『ポジションズ』。リバーブ成分にもとてもフォーカスがいくような処理です。EQ処理の具合も独特で、高〜中高域が多めなので、ボーカルの存在感がかなり強く出ています。通常はカットされる中低〜低域のリバーブ成分が多めに聴こえるため、どこか60'sの雰囲気も感じるのです。これは“ストリーミング時代の新しい方向性のボーカル処理では?”と思ったので、一生懸命研究しています。
今だから非常に新鮮に聴こえる
“これぞR&B”的な歌唱法
いわゆるR&B的な歌唱法はここのところ主流ではなくなり、どちらかと言えばライトな歌い方が一般的にウケていたように思います。しかしここに来て“これぞR&B”的な歌唱法で、テクニックガンガン+すごいねちっこさで攻めるトーン・スティスの「Devotion」は、非常に新鮮に聴こえました。いろいろと世の中の嗜好性に変化を感じています。
D.O.I.
【Profile】Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心としながらも、さまざまなプロダクションに参加している
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